第88話 警戒態勢


「……コショウが金貨10枚で塩が金貨2枚か。やっぱり街によって香辛料や調味料の値段はだいぶ違うみたいだな」


「ええ。確か同じ量のコショウがオドリオの街では金貨15枚、ロッテルガの街では金貨12枚でしたよね」


 朝食を市場で取った後はその近くにある商店でコショウと塩を一瓶ずつ買い取ってもらった。ジーナの言う通り、同じ量のコショウでも街によって買い取り金額はだいぶ異なるようだ。


 この街では特にそれが顕著で、市場での売値を見てもコショウの需要が低い代わりに塩の需要がとても高い。おそらくだが、魚介類を食べる際に使用する調味料の多くが塩や魚醤であるため、塩が高額になっているのだろう。


 魚醤の材料にもなるし、干物を加工する際に使用するためにも必要だから塩の需要は高そうだものな。このマイセン湖が塩水湖だったら、塩なんていくらでもとれるのだが、残念ながらこのマイセン湖から塩は取れないようだ。


 これで香辛料や調味料の値段もだいたい分かったから、もうコショウを売るのはオドリオの街のエミリオ商会だけにしておこう。継続的にコショウを売るのなら、取引先は少ない方が安心できる。


 この街でもオドリオの街と同じでコショウを売る際は少しお偉い人が出てきた。この街にそう頻繁に来ることはないと思うけれど、リスクは最小限にしておくに越したことはない。


「それじゃあ、このあとはのんびりといろいろな買い物をしながら街を回っていこう。たぶん結構な量を買うことになると思うから、一度街の外に出てキャンピングカーに収納して、もう一度街に入ってこよう」


「うん!」


「ホー!」


 かなり手間になるのだが、この街で購入した魚介類や野菜、小麦粉なんかは一度ですべてを持ちきれない。面倒だが買い物をしたあとに一度街から離れ、誰も見ていないところでキャンピングカーを出して買った物を収納しなければならない。


 さすがにたくさんの食料を一気に購入するのは面倒だな。本当はフェビリー村へ行った時に野菜はいろいろと購入しようと思っていたけれど、他の街よりも高かったし、コレットちゃんのこともあって購入してこなかったんだよね。まあ、次回の村や街へ行く時には少しずつ補給をするようにしよう。


「それにしても、セリもすごかったけれど、普通のお店もすごい人だ」


「ええ、お店に並べてある商品がたくさんあって華やかですね! ですがこれだけ人が多いとフー太様を狙う不埒な輩が多いかもしれないので、警戒を強めた方が良さそうです」


 セリの会場も人が多かったが、朝の早い時間ということもあって人は今ほど多くはなかった。やはり昼前のこの時間帯が一番込む時間帯なのだろう。


 以前に行ったロッテルガの街の往来で一度フー太を攫おうと襲ってきたやつがいるので、警戒を強める必要がありそうだ。


「確かにそうだね。フー太、人が多い場所はジーナと一緒にいてもらってもいい?」


「ホー!」


 俺の言葉を理解できるフー太はすぐに俺の肩からジーナの肩へと移動した。


「フ、フー太様、全力でお守りします!」


「ホー♪」


 うん、人が多い通りなんかはジーナの肩にいた方がフー太も安全だろう。前回街の人が多い通りを歩く時もこうした方が良かったかな。


「僕も全力でフー太様をお守りします!」


「コレットちゃんは自分自身のことも気を付けるんだよ。世の中には悪い大人もいっぱいいるから、攫われないように気を付けないと駄目だよ」


 今のところこの国には奴隷制度はないみたいだが、こちらの世界の文明レベルだと人身売買なんてのは普通にあってもおかしくはない。


「ぼ、僕なんて攫う人はいないと思うよ……」


「いや、分からないよ。確かに黒狼族はあまりよく思われていないかもしれないけれど、コレットちゃん自身は可愛い女の子なんだから、ちゃんと警戒はしないと駄目だ」


「ふえっ! か、可愛い!?」


 確かに黒狼族という種族はこの辺りでは不吉の象徴となっているらしいが、それを除けばシャワーを浴びてこの街で購入した新しい服を着たコレットちゃんはとても可愛らしい女の子だ。人攫いに狙われても全然おかしくない。


 顔を真っ赤にして恥ずかしがって慌てているコレットちゃんは非常に可愛らしい。きっとこれまでに褒められたことがほとんどないのだろう。世の中には可愛い女の子を狙うロリコンなんて腐るほど存在するのである。もちろん俺は違うけれどな!


 それにコレットちゃんの索敵能力はこれだけ人がいて、雑多な音が多いとむしろマイナスに働くらしい。俺もクマ撃退スプレーはすぐに取り出せるようにしてあるし、警戒を怠らないようにしておこう。改めて考えると、日本は本当に治安が良かったんだなあ。


「よし、それじゃあ周囲を警戒しつつ、買い物を楽しもう!」

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