第87話 魚市場


「さあ、今朝獲れたてのメガメグロシャークだよ! 普通のやつよりも大型の獲物だ! 金貨50枚からスタートだよ!」


「52枚!」


「54枚だ!」


「こっちは58枚!」


「じゃあ59枚だ!」

 

「59、59より上はないか~? はい、59枚でそちらのお兄さんに決まりだ!」


「「「おおおお~」」」


 市場の中央には体長2メートルくらいの巨大なサメが台車で運ばれ、そのサメの周りにいる商人や料理店の人らしき人たちがそれぞれ希望する金額をセリの司会をしている若いネコ獣人の人に伝えている。


 今回のサメは金貨59枚であっちの30代くらいの男性に決まったらしい。


「これはなんともすごい迫力だね」


「みんなとっても真剣だね!」


「ええ。きっと良い商品を見極めて、少しでも安く競り落とそうとしているのですね。見ているだけで私も参加したくなってしまいますよ」


「ホー!」


 今日は朝からマイセンの街の魚市場へとやってきた。ここでは早朝に獲れた大きな獲物を業者によって競り落とすセリが開催されている。


 もちろん業者だけでなく、俺たち一般人も参加可能になっているが、さすがに大きな魚一匹丸ごと購入するだけの資金はない。とはいえ、こういうのは見ているだけでもとても楽しめるものだ。


 セリに出品されている魚は大型のものが多く、小型の魚はセリではなく店に並べて販売されるようだ。俺たち以外の観光客も大勢いることだし、観光の目玉として開催しているのかもしれないな。


 体長3メートルを超える巨大な魚なんかもセリに出されているのはさすが異世界と言ったところだろうか。金額については金貨50枚からで、高級食材になる魚なんかは金貨200枚を超えてのスタートなんかもあった。


「今日一番の大物はこちらのエルフの方に金貨500枚で決定です! おめでとうございます!」


「「「おおおおお~!」」」


 今日一番の巨大で高級な魚が競り落とされたことによって、大きな歓声と拍手が巻き起こった。今日最後のセリは金貨500枚もの大金で高級料理店のエルフの人に競り落とされた。


 セリの最後らへんはだいぶヒートアップして、金額が金貨20枚ごとに吊り上がっていった。とはいえ、これも良い宣伝になるのだろうな。店の名前も大きな声で告げられていたし、あの巨大な超高級魚を食べてみたいと店へ足を運ぶ観光客も多くいることだろう。


「すごい迫力でしたね! 見ていて本当に楽しかったです!」


「いろんなお魚さんがいっぱいいたね! どのお魚さんもとってもおいしそうだったよ!」


「ホーホー♪」


 みんなもセリの熱気に当てられて大興奮だったらしい。


 俺の方も異世界でこういった光景を見られて本当に楽しかった。元の世界の魚市場とは異なって見たこともないような魚がとても多く、セリをしている人たちが人族だけでなく、獣人やエルフにドワーフなど様々な種族がいて、とても面白い光景だったな。


「よし、それじゃあ早速市場の屋台へ行ってみようか」


 そしてセリを見て楽しんだ後は魚市場にある食事処へと向かう。セリを見るのも面白いのだが、やはり魚市場へ来たらまずは魚や貝を食べなければな!


 異世界の魚の種類を知らず、巨大な高級魚を購入する資金もない俺たちにとってはこっちがメインである。




「おお~これまたおいしそうな店ばかりがならんでいるね!」


 魚市場のすぐ隣には今朝獲れたばかりの素材を使った料理を提供する店が立ち並んでいる。昨日のお昼に食べた広い場所とは異なって場所が狭いせいか、それぞれの屋台が小さく、椅子なんかはなく立って食べるらしい。


 そして魚料理だけでなく、安くて量があってすぐに食べられるような料理を提供する店も多く合った。おそらく観光客だけでなく、早朝から漁をして一仕事を終えた漁師の人たちもすぐに食べられるようになっているのだろう。


 こういう雰囲気の場所はこの世界に来てから始めて見るから本当に楽しくなってくる。


「はいよ、お待ち! うちの店の看板メニューのオイオマスの魚卵と切り身だよ!」


「へえ~これは見た目も鮮やかだね!」


「とってもおいしそう!」


「すごいですね、一粒一粒が輝いているようです!」


「ホーホー!」


 そんな中で俺たちが選んだ店はオイオマスという魚の切り身を焼いたものとその魚卵を食べられる店にした。値段は銀貨3枚とそこそこお高いが、魚卵を食べることのできる店があると昨日情報を仕入れたのだ。


 鮮やかな赤色の魚卵と焼けたオレンジ色の切り身がひとつの皿に載っている。ご飯の上に載っていれば魚卵の親子丼といった感じかな。いくらとは少し違って鮮やか赤色をした卵だ。


「うん、口の中でプチプチと弾けるよ!」


「うわあ、とってもおいしい! 鳥さんの卵とは全然違うね!」


「これは初めての味で本当においしいです! 魚卵の濃厚な味と切り身の淡白な身の味がとてもよく合いますね!」


 うん、味のほうはいくらに似ている。大きさはいくらよりも少し小さいけれど、一粒一粒がしっかりとした濃厚な味をしていて、軽い塩味の焼いたオイオマスの切り身と一緒に食べるととてもよく合っている。


 この魚卵は食べても大丈夫らしい。膜に包まれていると聞いたから、寄生虫なんかが入れないのだろう。


 刺身は食べられなかったが、魚卵を食べることができたのは最高だ。この店の看板メニューというだけあって、大満足な味だな!


「ホー、ホー!!」


「フー太はこれが気に入ったのか? あとで市場を回ってみるから、その時にこの魚卵を探してみるか」


「ホー!」


 俺の問いにフー太が頷く。


 どうやらフー太はこの魚卵がとても気に入ったらしく、今まで以上に反応していた。本人に聞いてみたらすぐに大きく頷いたし、正解のようだ。フー太が使えるお金もあることだし、あとでフー太用に買ってあげるとしよう。

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