第86話 手の込んだ魚料理


「おお~こいつは豪勢だな!」


「すごいです、シゲト! こんなに綺麗に盛り付けられた魚料理は初めて見ました!」


「すっごく大きなお魚さんだね! とってもおいしそう!」


「ホーホー♪」


 マイセン湖へ沈んでいった美しい夕陽を見たあと、俺たちは宿の近くにある魚料理を出すお店へとやってきている。


 このお店は昼間に市場を回った時に屋台の人たちに教えてもらった有名なお店だ。とはいえその辺りの料理屋よりも少し高額なので、そこまで満員という訳ではなかった。客層も少し裕福そうなお客さんが多めで、俺たちは若干浮いているかもしれないな。


 メニューをざっと見たところひとりあたり金貨1枚くらいするから、宿代よりも高いもんな。さすがに毎日こんなに贅沢はしていられないけれど、今日だけはちょっぴり奮発するとしよう。


「これはアクアパッツァに近い料理みたいだね。メルワールダイが丸々一匹盛り付けられていてすごく豪勢に見えるなあ」


「シゲトお兄ちゃん、あくあぱっつぁって……?」


「ああ、俺の故郷での料理方法だよ。両面を焼いた魚を蒸し煮にした料理だね」


 コレットちゃんの質問に答える。


 アクアパッツァはイタリアのナポリで生まれた料理だ。両面をソテーした魚介類をオリーブオイルや白ワインなんかと一緒に煮込んだ料理で、アクアは『水』、パッツァは『暴れる』という意味になっており、食材を鍋へ入れる際に水が油に跳ねる様子から名付けられたらしい。


 メルワールダイと呼ばれる鯛のような魚が丸々一尾使われていて、その周りには2種類の貝と色とりどりの野菜が添えられている。昼間に食べた魚介類の塩焼きもとてもおいしかったけれど、こういう手の込んだ料理もとても魅力的だ。


 湖というからには昼間食べたストライプサーモンのような鮭や鱒みたいな魚が多いと思っていたけれど、鯛や鯵みたいな魚も多く生息しているらしい。


「うん、ソテーしてあるから外側はパリッとしていて、煮込んであるから中は柔らかくて身がふっくらとしているね。淡白な身だからこそ、魚から出てきた出汁の味が際立っておいしいよ!」


 見た目が豪勢なだけじゃなくて、味もとても素晴らしい。新鮮な魚をシンプルに料理したからこそ、この味が引き出せたのだろうな。


「おいしい! 昼間に食べたお魚さんとは全然違う味だね!」


「こちらの貝もおいしいですね! それに貝でもこの2種類の貝は特徴が全然異なる味です」


「ホー! ホー♪」


 他にも魚醤を使って煮込んだ料理、魚の身や皮を叩いてつみれ状にした料理なんかを楽しんだ。


 昼間に続いてみんなとてもおいしそうに魚料理を食べていく。やはり新鮮な魚料理を食べるのがとても珍しいのだろう。俺もこの世界に来てからちゃんとした魚料理を食べるのは初めてだし、とても楽しむことができた。


 肉は肉でうまいけれど、魚には魚のおいしさがある。こうした新鮮な魚介類は元の世界以上に手に入りにくそうだし、このマイセン湖付近にいる間にできるだけ購入してキャンピングカーの収納機能に入れておきたいところだな。


 それにこのお店の料理を堪能していたら、自分でもいろいろと作りたくなってきた。明日は朝からこの街にある魚の卸市場にいってみるとしよう。






 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「ホー」


「……う~ん、おはようフー太」


「ホーホー!」


 目が覚めると、目の前には大きくなってもふもふとした羽毛に包まれたフー太のお腹があった。朝からとても癒されながら、そのまま二度寝したい衝動を何とか抑えながらベッドから起き上がる。


 今日は朝からマイセンの街にある卸市場へ向かう予定なので、今日の朝の一番最初に起きた人が他のみんなを起こすように決めていた。


 どうやら一番の早起きはフー太だったようで、まだジーナもコレットちゃんも寝ているところだ。


「ジーナ、コレットちゃん、朝だよ」


「ホー!」


 窓を開けると登ったばかりの眩しい陽の光が宿の中へと差し込む。


 日が昇っているのを確認してから、まだベッドに寝ているジーナとコレットちゃんに声を掛けて起こしてあげる。


「……う~ん」


「ふああ~」


 昨日はおいしい魚料理をお腹いっぱい食べたこともあって気持ちよさそうに寝ている2人を起こすのはとても忍びないけれど、卸市場はかなり早い時間までしかやっていないらしいからね。


「おはようございます、シゲト、フー太様」


「おはよう、シゲトお兄ちゃん、フー太様」


 まだ眠いのか、目を擦っているジーナとコレットちゃん。


 とても可愛らしくて服もはだけている2人から少しだけ目を逸らす。ジーナとはもう10日近く一緒に行動をしているけれど、たまにこうやってドキッとすることもある。


 ジーナはこんなに綺麗なのにあっち方面への知識がないんだから、本当に俺ひとりではあぶないところだった。もちろんコレットちゃんについては純真すぎてそういう邪な目で見る気はこれっぽっちも起きないぞ。フー太とコレットちゃんがいて本当に助かったとも言えるな。


 さてみんな起きたことだし、早速宿を出るとしよう。

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