第83話 醤油


「うん、こっちの魚は脂が乗っていてうまいし、こっちは身がプリプリしていて本当にうまいぞ!」


「シゲト、こっちの貝は弾力があって、噛めば噛むほど瑞々しい旨みが溢れてきます! 干していない魚や貝を食べるのは初めてです!」


「シゲトお兄ちゃん、全部初めて食べるものだけど、どれもおいしいよ!」


「ホー!!」


 俺も含めてみんな大絶賛のようだ。


 こっちの世界に来てから初めて魚や貝を食べたけれど、ジーナは干していない魚や貝を食べるのは初めてみたいだ。ハーキム村付近には川がなかったり、あっても魚や貝があまり生息していなかったのかな。


 コレットちゃんとフー太はたぶん川の魚や貝を食べたことがあると思うけれど、川と湖に生息する魚の種類は異なる。


 俺の方もさっき屋台に並べられていたり、メニューに載っていた魚や貝は元の世界で見はたことがないものが大半だった。


「やっぱり湖があると、その恵みを最大限に受けることができるんだね。明日の朝は屋台だけじゃなくて漁をしている方にも行ってみようか」


「ええ、いいですね!」


 テレビでしか見たことはないけれど、魚市場の魚のセリなんかはとても面白そうだ。街の案内を見ると、魚市場みたいなのもあったし、明日の朝は早起きをして見に行くとしよう。


「よし、塩や魚醤もおいしいけれど、次はこっちの調味料を掛けて試してみようか」


 この屋台や他の店では、基本的に焼いた魚や貝に塩をほんの少しだけ振りかけて食べる店が大半だった。やはり塩コショウが高価な世界だと、その辺りはどうしても仕方がないようだな。


 魚醤については有料で販売をしていたから、魚や貝と一緒にあわせて購入した。魚醤とは元の世界でも昔からいろんな国に存在した魚を発酵させてできる調味料だ。小魚なんかを内蔵ごと塩に漬けて長時間発酵させたものになる。


 魚醤はこちらの世界ではかなりの高級品みたいだな。少しの量の魚醤でも魚一匹の値段と同じくらいだったからびっくりしたぞ……


「シゲトお兄ちゃん、これは何?」


「これは醤油という調味料だよ。魚醤と似ている味だけれど、こっちも魚や貝にとても合うから試してみてね」


 湖のほとりの街ということで、魚や貝にとても良く合う醤油は抜かりなく持ってきている。キャンピングカーは収納しているから、小さな瓶に入れてリュックに入れて持ってきたのだ。


 ちゃんと店の人に持ち込んだ調味料を加えて食べて良いかもすでに確認済みである。どうやらこの市場の屋台全体でいろいろと持ち込みは許されているらしい。


 飲み物なんかも同様だったから、キャンピングカーから持ってきた水を飲んでいる。とはいえ、見たことがないジュースなんかも販売していたから、あとでそっちは試してみるとしよう。


「こちらをかけた方がおいしいですね! 何というか、こちらの方がサッパリとしていて、より魚や貝の味が引き立ちます!」


「塩とは違った味でとってもおいしい! こっちの味も初めてだよ!」


「ホー♪」


 ふむ、やはり醤油の力は偉大であるな。魚醤も独特の香りがしておいしいのだが、少し癖が強いから、焼いた料理なんかにはあっさりとした味の醤油の方が合うのだ。


 とはいえ、この魚醤の独特な香りが好きという人もいるらしい。それに煮込み料理や鍋料理、出汁として使う魚醤はおいしいと聞いたことがあるので、魚醤は後で購入していろいろと試してみるとしよう。


「うん、やっぱり魚や貝には醤油だね。俺はもうちょっと食べられるから、少し追加しようか」


「はい、私もまだ食べられます!」


「ぼ、僕もあと少し食べられるよ!」


「ホー!」


 どうやらみんなもまだまだ食べられそうだな。本当は俺は結構お腹がいっぱいになってきたけれど、コレットちゃんはまだ少し遠慮気味だから俺もお代わりした方が食べやすいだろう。


 これまでの食事の量を見るとジーナとコレットちゃんはまだまだ食べられるだろうからな。




「ふう~さすがにお腹がいっぱいだよ。本当においしかったね」


「はい。本当に初めて食べる味ばかりでした。やはり村長が言っていたように、世界はとても広いのですね!」


「お魚を食べたのは初めてでした。とってもおいしかった!」


「ホー♪」


 どうやらみんなもお腹いっぱいになったようだな。いろいろな魚や貝を頼んだけれど、どれも本当においしかった。もちろん海鮮は焼くだけじゃないから、夜は違った料理を食べたいところだな。


 ……そういえば醤油に合う料理の代表格である刺身なんかはこの市場では見かけない。さっき店の人に聞いたところ、腹を壊す可能性があるから、この辺りでは魚を生で食べる習慣はないみたいだ。


 おそらくお腹を壊すのではなく、寄生虫の存在がある気もする。実際に元の世界で一番有名かもしれない寄生虫のアニサキスもその存在が分かったのは1900年代に入ってからだったはずだ。


 さすがに異世界でそこまでリスクを負って生食するものでもないからな。異世界の寄生虫とか、とんでもなくヤバいやつがいてもおかしくない……

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