第82話 マイセン街の市場


「うわ~お店やおうちがいっぱいあるね!」


「売っている物がオドリオの街とはまったく異なりますね! これは市場を回るだけでも楽しそうです!」


「ホーホー!」


 みんなマイセンの街の市場に大興奮している。かくいう俺も湖のほとりにあって、これまで訪れてきた街とは異なる雰囲気の市場に驚きを隠せない。


 たぶん元の世界で言うと外国へ旅行した時と少し似た気持ちなのかもしれない。まあ、魔法があったり、異なる種族がいる分こちらの世界の方が日本から離れたという気分が強いかな。


「やっぱり湖の街だけあって、魚や貝なんかの海鮮が多いみたいだね」


 この街の市場はいくつかに分かれているようで、こっちの方には主に料理や食材を販売している屋台が多くあるみたいだ。ハーキム村でもらった野菜も少なくなってきたことだし、いろいろと補給しないといけない物も多いけれど、まずは一番楽しみにしていた海鮮を楽しむとしよう。




「さあさあ、今朝獲れたばかりの新鮮なストライプサーモンだよ! 脂がたっぷりのっていて絶品だ!」


「こっちのサラム貝はさっき獲れたばかりでまだ活きがいいよ! こいつを貝の殻ごと焼いたものに塩をかけて食べれば最高だぜ!」


「いらっしゃい、うちの店で売っている商品はどれも最高だから見ていってよ!」


 さすがに昼食時だけあって、どこの屋台でも熱心に呼び込みを行っている。


 屋台に並べてある様々な魚や貝、屋台から漂ってくる焼いた海鮮のおいしそうな香りが鼻をくすぐって食欲を刺激する。


「どこの店もたくさんのお客さんが入っておりますね。どのお店もとてもおいしそうです」


「はわわ、すっごくおいしそうな匂いがしてくるよ!」


「ホー!」


 一緒に歩いているみんなも同じ感想だったようだ。元の世界の祭りの屋台なんかでもそうだけれど、目の前で作られていくおいしそうな料理には抗いがたい誘惑がある。


「おっと、そこのイケメンなお兄さん! よかったらうちで食べていかないかい? ちょうどあと1席で席が埋まっちまうよ!」


 屋台街を歩いていると、40代くらいの男性に呼び止められた。このお店は結構大きめの屋台で、裏にはお客さんが座って食べられる座席がありるようだ。


 この通りにはたくさんの店があるから、そこまで大行列の屋台なんかはないけれど、多少のお客さんがいる方が安心するというものだ。


「……ふむふむ、値段もそこまで高くはないか。それにいろんな種類の魚や貝があるみたいだし、みんなはここでいいかな?」


「ええ、大丈夫です!」


「うん!」


「ホー!」


 そこまで高価なお店ではなく、たくさんの種類の魚や貝を焼いた料理がメインの店のようだし、この店に決定するとしよう。これだけ良い香りの屋台街の中を歩いていて、そろそろ俺のお腹の方も限界に近い。


 確かに座席もあと1席みたいだし、ちょうどいいかもな。決してイケメンなお兄さんと呼び止められて嬉しかったからこの店を選んだわけなじゃいぞ、うん。


「ありがとうございます! ……4名様ご案内だよ!」


「はいよ!」


 呼び止めていたおっちゃんがみんなを見て若干言葉に詰まりつつも、俺たちを席へと案内してくれた。


 ウッズフクロウのフー太がいるからか、珍しい種族であるエルフのジーナがいるからか、黒狼族のコレットちゃんがいるからかは分からないけれど、確かに我ながら面白いパーティだよね。


 少なくともコレットちゃんが黒狼族だからお断りとか言われないのは助かった。




「「「おおお~!」」」


「ホー♪」


 俺たちの目の前には焼かれた魚や貝などがずらりと並べられた。


 狩りをして当分の肉を確保することができ、素材や前の街で香辛料を売ったお金もあるし、ここは豪勢に行かせてもらおうじゃないか!


「「ぐううううう~」」


「ううっ!?」


「はうっ!?」


 それと同時にジーナとコレットちゃんのお腹が見事に同時に鳴った。どうやら2人のお腹はあと少しのところで間に合わなかったようだ。


 俺もこれだけの料理を目の前にして、いつお腹が鳴ってもおかしくなかったもんな。真っ赤な顔をしてお腹を押えて恥ずかしがっている2人は可愛らしいけれど、それを指摘するのも野暮というものだ。


「さあ、早速食べよう! 足りなかったら追加で頼むから、遠慮なく食べてね」


「ホー!」


 さあ、この世界に来てから貝や魚を食べるのは初めてだ。楽しませてもらおうじゃないか!

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