第77話 燻製料理


「うわあ~おいしそう!」


「とても良い香りがしますね」


「ホ~♪」


 目の前には皿の上に並んだ複数の燻製料理がある。燻製とは木材を燃やした煙によって燻された料理で、防腐効果があって保存性が高まるメリットの他にも独特のスモークの香りを付けることもできる。


 一口に燻製といっても、冷燻、熱燻、温燻の3種類に分かれている。冷燻とは長時間の間20度以下の低温で燻製をする方法で、大型の燻製器が必要になる。熱を加えるのではなく、香り付けのための燻製方法で、スモークサーモンなんかが有名だな。


 熱燻とは80度以上の高温で1時間程度の短時間スモークする燻製方法だ。短時間のため、保存効果はほとんどなく、こちらも香り付けのための燻製方法となるが、手軽に燻製できるというメリットもある。鍋の底にスモークチップを入れて火にかけて一気に燻す感じだな。


 今回の温燻は50~80度ほどの温度で肉を焼いたあとに数時間燻す。食材の半分以上の水分が抜けて保存性が高まり、十分にスモーキーな香りを付けることができる。また、ジューシー感は減るのだが、食材の水分が失われてその食材の旨みがギュッと凝縮されるのだ。


「っ!? これはおいしいですね! 普通に焼いた肉とは違って独特な香りがついております。その香りが何とも食欲を掻き立てますね! ただでさえおいしいダナマベアの肉がさらにおいしく感じますよ!」


「ワイルドディアのお肉もとってもおいしい! こっちのチーズもトロリと溶けて、チーズの美味しさが口の中いっぱいに広がっていくみたいだよ!」


「ホーホー!!」


 どうやらみんなにも好評のようで何よりだ。


 ふむふむ、ダナマベアの肉は初めて食べたが、確かにこれはうまいな。ワイルドディアよりも野性味が強い味で、独特な癖があるみたいだ。クマというと臭みが強いというイメージだったけれど、そんなことは全然なくて、純粋な肉の旨みだけが口の中に広がっていくぞ。


「うん、ちょうどいいくらいの燻製時間だったかな。あまり燻製しすぎると、香りが強すぎちゃうから気を付けないといけないんだよね」


 燻製の時間を長くし過ぎると香りが付き過ぎてしまって、逆に燻製時間が短いと香りが足りない感じがするのだけれど、ちょうど良い塩梅だったみたいだ。


 スモークウッドを使うと使ったスモークウッドの分量で時間の調整ができるけれど、スモークウッドは限りがあるし、次に木を燃やして燻製する場合にはちゃんと木の量と時間を確認しておくことにしよう。


「ホーホー!」


「おっ、フー太は野菜の方も気に入ったんだな。確かにこっちの野菜もなかなかいけるな」


 丸ごと燻製器に入れたタマネギをくちばしで少しずつ食べているフー太は翼を思いっきり広げて上下させる。ふむ、水分が飛んで野菜の瑞々しさは少しなくなるけれど、タマネギの甘味が凝縮してうまい。


 少し好みが分かれるかもしれないけれど、野菜の燻製というのもなかなかいけるじゃないか。


 今回用意したのは解体したばかりのワイルドディアとダナマベアの肉、チーズに野菜のタマネギだ。燻製だと肉の他にはナッツや煮卵、魚、貝なんかを燻製にしてもおいしい。もちろんベーコンができたら、すぐに燻製にするつもりだ。


 ……唯一の欠点は燻製料理を食べるとお酒が欲しくなってしまうところだよな。これからキャンピングカーの運転をするから、酒は飲めない。もちろんこの世界には飲酒運転の法律なんてないと思うけれど、もしも事故ったら大変だからな。飲酒運転ダメ絶対である。




 遅めの昼食をとってからいろいろと広げていたテーブルやイス、周囲を警戒用の鳴子などをすべて片付ける。


 解体をしたダナマベアの素材で不要な部分はすべて穴を掘って埋めた。死骸のまま放っておくと、腐って病気の原因になったりするらしい。土の中深くへ埋めると地面への栄養になるようだ。


 キャンプは自然の中でするものだし、こうやって自然環境のことを考えるのも大事なことである。


「よし、それじゃあマイセン湖へ移動するよ」


「はい」


「うん」


「ホー!」


 次の目的地は大きな湖のマイセン湖だ。フェビリーの滝は俺の想像よりも遥かに雄大な滝だったから、次に向かうマイセン湖にもとても期待している。


 カーナビの目的地を手動で巨大な湖の横に位置する街へセットした。


 今から移動をすると到着は夜になってしまうから、今日はその手前辺りにキャンピングカーで宿泊して、明日の朝に行くとしよう。


「僕は行ったことがないけれど、おいしいお魚さんがいっぱいいる大きな湖だって、観光に来ていたお客さんが言っていました」


「おお、それはすごい! 湖の魚か、さっきご飯を食べたばかりだけれど、今から楽しみだよ」


 車を走らせながら、後ろの座席に座っているコレットちゃんがそんなことを教えてくれる。コレットちゃんも昨日キャンピングカーに乗ってだいぶ慣れてきたみたいだから、今日はひとりで後ろに座ってもらって、ジーナはいつもの助手席でフー太はジーナの膝の上にいる。


 後ろのコレットちゃんが少し寂しいかもしれないけれど、障害物の多いこの世界で車を走らせるのには目の良いジーナとフー太がいてくれるとかなり助かるからな。


 どうやらコレットちゃんが聞いた情報によると、マイセン湖ではおいしい魚が食べられるようだ。うん、肉も好きだが、魚も好きだから今から楽しみだぜ!

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