第78話 ダナマベアのステーキ
「よし、今日はここまでにしておこう」
時刻は夕方。マイセン湖の付近にある街から数キロメートルかつ、道から少し外れた場所までやってきた。
行こうと思えば日が暮れるギリギリのところで街まで辿り着けると思うけれど、そこから宿を探したりする時間を考えると、今日は野営をして明日の朝から街へ行くことにした方がいいだろう。
「さて、それじゃあいつも通り野営の準備をしよう」
「はい!」
「うん!」
「ホー!」
今日泊る場所は道から少し離れた草原だ。理想を言えば、キャンピングカーの片面が崖や大きな岩などの障害物に遮られていると、警戒する場所が半分に減るけれど、見たところこの辺りにそんなものはなかった。
みんなで手分けをして野営の準備をする。最近では自然と各々で役割分担がされてきた。ジーナはキャンピングカーの周囲に釣り糸と音が鳴る道具で作った鳴子を配置して、そのあとはキャンピングカーの水を出して洗濯物を洗う。
フー太にはその間キャンピングカーの周辺を警戒してもらい、鳴子の配置が終わったらキャンピングカーからあまり離れない範囲で運動をしつつ、ウサギなんかの小動物がいたら狩ってもらう。
俺は俺でその間に晩ご飯の準備をする。最近一緒に行動を共にするようになったコレットちゃんにはジーナか俺の手伝いをしてもらう感じにするかな。
「できた! あとは少しずつ時間差で食べていけばいいな。ジーナ、フー太、ご飯にしよう」
コレットちゃんと一緒にしていた料理が終わり、ジーナとフー太を呼んでみんなで晩ご飯だ。やはりご飯はみんなで一緒に食べるのがいい。
「シゲト、この銀色の美しい物をどうやって食べるのですか?」
「そういえばジーナはアルミホイルを初めて見るんだっけ。これはステーキという料理で、アルミホイルという銀色の薄い包みの中に焼いた肉が入っているんだよ」
「こんなに綺麗な色なのに、とっても薄いんだよ、ジーナお姉ちゃん。僕もこんなの初めて見た」
やはりアルミホイルはこちらの世界ではかなりの代物に見えるらしいな。確かに折り曲げる前のアルミホイルってとても綺麗な銀色をしているから、街で売ったらかなりの値段がつく気もする。まあ、そんな危ういものを売る気はないけれどな。
「ホー、ホー!」
「そうだな。フー太は一度食べたことがあるもんな」
フー太が自分はそれを知っているというかのように、両方の翼をバサバサと広げる。
俺がこの世界に来てすぐの頃、フー太と一緒にこのステーキを食べたことがあるもんな。
「だけど、フー太。今回はあの時のような安い肉じゃなくて、高級食材と呼ばれているダナマベアのステーキだぞ!」
「ホー♪」
そう、あの時は元の世界から持ってきていたスーパーで購入した安物の肉だったが、今回は高級食材らしいダナマベアのステーキだ。
しかも前回は周囲に煙が広がるのを警戒してキャンピングカーの中で料理したが、今回は鳴子やコレットちゃんとフー太が警戒をしてくれていたため、ちゃんと炭を使用して焼いたステーキになる。
炭を使用して焼くと遠赤外線効果によって、肉の中と外を同時に焼くことができ、肉汁を残しながら外は香ばしく、中はジューシーに旨みを閉じ込めたまま焼くことができる。さらに焼けた脂が炭火に滴り落ちて上がる煙の風味も加わることになる。
まあ細かな理屈は置いておいて、肉は普通に焼くよりも炭火で焼く方がうまいのである。
今回は肉の両面をしっかりと炭火で一気に焼き上げてから、アルミホイルに包んでしばらく時間を置いた。こうすることにより、肉の中心部までじわりと加熱されて、中は少し赤いミディアムくらいの焼き加減にしつつ、肉汁が外へあふれ出てくるのを防ぐのだ。
「塩コショウを振ってあるから、最初はそのまま食べてもらって、それから違う味を試してみよう」
ダナマベアのステーキには軽く塩コショウを振ってあるから、まずはシンプルにダナマベアの肉の味を味わおう。
「……っ!? シゲト、これはとてもおいしいです!」
「おいしい! こんなにおいしいお肉は初めて食べた!」
「ホーホー♪」
ナイフで切ったダナマベアのステーキを一切れフォークで口元へ運ぶ。外側にはしっかりとした焦げ目がついており、その中心部はまだ赤身が残っている。
ステーキを口の中に入れて嚙みしめると、弾力性がしっかりとありつつも、簡単に噛み切ることができた。そして牛とも豚とも異なる野性味の強い肉の味が口の中いっぱいに広がっていく。
ワイルドディアよりも脂がしっかりとのっていて、肉の旨さと脂の旨さがとても絶妙である。純粋に肉の旨みだけが舌の上に広がっていき、臭みなんてまったく感じられなかった。
「ディアクの肉とは違って、この肉もとてもおいしいね。普通に焼いたディアクよりもちゃんと下処理をしたこっちのステーキの方がおいしいのも当然かな」
ディアクの肉もとてもおいしかったけれど、しっかりとステーキに適した肉の部位を選んだり、筋切りをして炭火とスキレットで焼いたダナマベアのステーキの味が上なのは当然と言えば当然か。
「それじゃあ、次は味を変えて食べてみよう」
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