第75話 ダナマベアの解体


「……うう~ん」


「ホー♪」


「おはよう、フー太」


 朝目が覚めると、目の前には大きくなってもふもふとしたフー太の姿があった。


 相変わらずフー太の抱き心地は最高だなあ。


「おはようございます、シゲト、フー太様」


「シゲトお兄ちゃん、フー太様、おはよう!」


「ジーナ、コレットちゃん、おはよう」


「ホーホー!」


 どうやら今日は俺が一番遅くまで寝てしまったようだ。昨日は朝から森の中をひたすら歩いて、魔物と戦って狩りをしたし、そのあとの解体作業もかなりの重労働だったからだいぶ疲れてしまった。


 間違いなく、この世界に来てから肉体的に一番疲れただろうな。まあ、そのおかげもあって、当分は肉に困ることがなさそうだ。


「すぐにご飯を作るからちょっと待っていてね」


「はい。その間に昨日の解体作業の続きをしたいので、収納から取り出していただいてよろしいですか?」


「僕もジーナお姉ちゃんのお手伝いをします!」


「すぐにできるから、解体作業は朝食を食べたらみんなでやろう。それまでは洗濯と解体の準備をお願いしようかな」


 昨日狩ったダナマベアの解体作業はまだ終わっていないので、朝食を食べたら残りの解体作業を行う。どうせ解体作業はかなり汚れるから、朝食を食べてからみんなでやるとしよう。


 時刻を見るともう9時を回っていた。キャンピングカーの収納機能は俺しか取り出せないから、朝俺が起きるまで待っていてくれたのかもしれない。


 いかんな、いくら時間に自由だからと言って、だらけすぎるのは良くない。明日からはちゃんと目覚ましをセットしよう。


 ハーキムの村を出てから1週間が経過したし、ジーナに護衛をお願いできるのはあと3週間ちょっとだ。コレットちゃんを受け入れてくれる村や街も意外にすぐ見つかるかもしれないし、時間は大切にしないといけないもんな。




「さて、それじゃあ解体作業を頑張ろう」


 簡単に作った朝食をみんなで食べて、昨日の解体作業の続きだ。


 今日の朝食はパンとワイルドディアの肉と野菜を焼き肉のたれで炒めたものだ。焼き肉のたれはバーベキューだけでなく、炒め物やチャーハンなんかにも使えて非常に便利である。


「はい!」


「うん!」


「ホー!」


 昨日のうちにワイルドディアの解体は終わって、ダナマベアの解体は大雑把にだが終わっている。今日はさらに細かい素材と枝肉へと解体していく。


「ダナマベアの強靭な牙や爪は素材としてもかなり貴重な物となりますから、丁寧に分けていきましょう」


「……うん。コレットちゃんは無理しなくても大丈夫だからね」


「慣れているから全然大丈夫だよ!」


「そう……」


 うん、肉の解体作業はまだいいのだが、牙や爪の解体作業は精神的にいろいろときついものがある。内臓も結構あれだったけれど、まだ食材として見ていたからいい。問題はダナマベアの牙や爪を一本一本取っていく作業だ。


 某狩りゲームなら一瞬で皮や鱗や牙なんかを簡単に素材として手に入れることはできるが、当然現実はそう簡単にはいかない。


 すでにこと切れたダナマベアの頭から一本一本牙を抜いて爪を剥いでいく作業はなんだか拷問のようで、とても気分の良いものじゃないんだよね。いや、いつまでもそんな泣き言を言っている暇はなく、ジーナやコレットちゃんのように慣れていかないといけないな。




「……よし、これで解体は終わりだ。みんなお疲れさま」


 なかなか苦労したけれど、無事に解体作業が完了した。


 やはりあれだけの巨体だと、3人がかりでも結構な重労働だ。さすがにフー太は解体作業を手伝えないから、前と同じでキャンピングカーの近くで狩りをしていたようだが、今回は獲物を狩ることができなかったみたいだ。


 昨日と同様に交代で水浴びをしてからシャワーを浴びる。昨日も着ていたこの血だらけになった服は解体用の作業着として使うとしよう。俺やジーナは村でもらったこの世界の服があるけれど、コレットちゃんの服は早く購入してあげたいところだ。


「さて、それじゃあ今日はこのままここでいろいろな料理を仕込んでおこう」


「はい!」


「うん!」


「ホー!」


 次の目的地である湖まではキャンピングカーで半日も掛からない。今日はもうしばらくここに留まって、いろいろな料理の仕込みをしていく。時間が掛かるけれど、こういうのはまとめてやってしまった方が後々楽になるからな。




「それにしても、これはすごい煙ですね」


「でも煙からいい香りがしてくるよ」


「これは燻製料理だね。香りのする木を燃やした煙の力で食材に香りを付けつつ、水分を飛ばして保存性を高めるんだよ」


 燻製料理は時間が掛かるので、解体作業を始める前から準備をしていたけれど、もう少し掛かりそうだ。


 燻製は昔から存在する食品加工方法で、食材にスモーキーな香りを付けて、保存性を高める効果がある。キャンピングカーの収納機能があれば賞味期限なんかは気にしなくても良いのだが、今回フェビリーの森を歩いた時のようにキャンピングカーを出さずに村や街で過ごすこともあるから作っておくことにした。


 俺はよく燻製をするから、金属製の燻製ボックスを持っているが、密閉するものがあれば段ボールなんかでも簡単にできる。


 今回はスモークウッドという粉状の木材を植物性の樹脂で一本の木材のように固めた物を使用している。これに一度火を付けると煙が出続けて長時間燻製をすることができる。今後はこちらの世界の香りの出る木材を試してみてもいいかもしれない。


「よし、こっちはこのまま置いておけば大丈夫だ。次はベーコンを作るための準備だな」

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