第74話 クマ撃退スプレー


「シゲトお兄ちゃん、ジーナお姉ちゃん! わっ、辛い!?」


「ホー、ホー!」


「あっ、まだクマ撃退スプレーの効果が残っているから、あまり近付かない方がいいかも」


 無事にダナマベアを倒すと、コレットちゃんとフー太がやってきたのだが、ある程度近寄ったところでコレットちゃんが鼻を隠す。


 もうだいぶスプレーの効果は収まったけれど、コレットちゃんは黒狼族で俺たちよりも鼻が利くからまだ厳しいのかもしれない。


 クマ撃退スプレーの効果は人に対しても有害だから、鼻の利くクマの魔物ならばその効果もなおさらだろう。さすがに目をまったく開けられていなかったからな……


「……それにしても、本当にすごい効果でしたね」


「人にもだいぶ有害だからね。目に当てたら失明したり、喉が腫れるくらいじゃすまないかもしれないよ」


 元の世界でもクマ撃退スプレーの所持は催涙スプレーなんかと同様に一応合法になっているが、正当な理由のない所持や人に使用する目的の悪意のある所持は軽犯罪法に違反するから注意が必要になる。


 俺の場合は以前山登りをしていた際に用心のためにクマよけの鈴と一緒にこれを購入していたわけだ。だけど、購入したのは結構前で、他の使わない道具と一緒にキャンピングカーのベッド下の収納スペースに入れておいたのを完全に忘れていたんだよね。


 コレットちゃんも一緒に行動するようになって、ベッド下の物を収納機能によって収納したときに思い出したというわけだ。


 ちなみにクマ撃退スプレーは1回使うと約5秒間噴射し続けるという仕組みで、一度しか使用できない。一応キャンピングカーの拡張機能でスプレー補充機能があったから、もしかしたら補充できるかもしれない。


 ……最初スプレー補充機能を見た時には、別に持っていた虫よけスプレーのことだと思っていた。このクマ撃退スプレーも補充できるならだいぶ使えると思うから、ポイントを使用して補充できるか確かめておきたいところだ。


 たぶんクマ型の魔物であるダナマベアだから効果があったわけじゃなく、コレットちゃんやジーナも嫌がっていたから、生物に対してなら効果はあるだろう。これさえあれば、まともに戦闘をしたことがない俺にも攻撃手段を手に入れることができるからな。


「とりあえず、まずはここから移動しようか。だけどこんな重いやつは持てるかな……」


「ホー!」


 フー太が片方の翼を上げた。そして自らの身体を大きくするとダナマベアの両肩をそのかぎ爪でがっちりと掴んで、その巨体を持ち上げる。


「ホー……」


「フー太様、手伝います!」


「僕も手伝います!」


 残念ながらフー太ひとりではダナマベアを持ち上げることはできなかったので、俺を含めた全員でダナマベアの下半身を持ち上げて全員で何とか近くの川まで運んだ。


「さすがに全部解体することはできないから、今日は途中までにしておこう」


「ええ、それが良いと思います」


 ダナマベアを川に浸けて血抜きをしながら、今後のことについて話す。


 今日はもうすぐ日が暮れるから、こいつの本格的な解体は明日にしよう。キャンピングカーの収納機能は中に入れている間の時間は止まっているから、とりあえずキャンピングカーの扉から入るくらいの大きさまでは解体して、残りは明日だな。


 さすがに今日は森の中を散々歩いたあと、ワイルドディアを狩って解体して、最後にこのダナマベアとの戦闘だから心身ともにくたくただ。ダナマベアを大雑把に解体したらすぐ森を出て、キャンピングカーで少し移動したところで休むとしよう。




「ふう~ようやく落ち着いたよ」


「ええ。今日はとても疲れましたね」


「僕も疲れました。でも今日の晩ご飯もとってもおいしかったです!」


「ホー、ホー♪」


 無事にダナマベアの解体を終え、ギリギリ日が暮れた頃に森を出ることができた。さすがに暗い中外で料理をして食べるのは危険なので、今日はキャンピングカー内で午前中に狩ったワイルドディアの肉を食べた。


 ワイルドディアの肉は野性味の溢れる噛み応えがある肉でとてもおいしかった。少し独特な香りのする肉だから、アウトドアスパイスが良く合っていたな。さすがに高級食材と呼ばれるディアクほどではないが、十分過ぎるほどおいしい。


 さすがに今日は疲れたから凝った料理は作れなかったから、今度はいろいろと手の込んだ料理を作るとしよう。それにあのクマ肉もどんな味がするのか今から楽しみだな。


「最後に予想外の敵がいたけれど、みんなのおかげで当分肉に困ることはないね。それに今回手に入れたの素材も街で売れば結構なお金にもなりそうだよ」


 今回狩ったのはワイルドディア、山鳥、ダナマベアだ。特にダナマベアはかなりの巨体だったから、みんなで食べても当分の間は持つだろう。


 そしてワイルドディアやダナマベアの角や爪、毛皮なんかの素材は街で買い取ってもらえるらしい。素材を売ったお金はみんなで分けるとしよう。


 ……さすがにフー太だけはお金を使うことができないから、俺が預かっておいて、街でフー太のほしそうなものがあったら買ってあげればいいな。


 今日はみんな本当に頑張ってくれたからな。コレットちゃんの索敵能力はすごかったし、ジーナの戦闘能力やフー太の戦闘能力もすごかった。俺もほんの少しだけとはいえ最後に頑張った。最後のは少し危険だったが、この反省を活かしてまた狩りをしてもいいかもしれない。

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