第70話 解体作業


「すごいぞ、フー太」


「さすがフー太様です!」


「フー太様、すごい!」


「ホー、ホー♪」


 俺やジーナやコレットちゃんに褒められ、得意げにその大きな翼を広げるフー太。


 しかし、すごいな。大きくなったフー太が戦闘をしている場面を初めて見たけれど、やはり大きさは強さだ。それにフー太の鋭いくちばしとかぎ爪は戦闘になれば強い武器になる。


 あのワイルドディアの首元にグサッと突き刺さっているし。


「ジーナも本当にすごかったね。ワイルドディアを狩れたのはジーナのおかげだよ」


「ジーナお姉ちゃん、すごかったよ!」


「は、はい! 理想を言えば一撃で倒せればよかったのですが……」


「いや、十分すごかったよ。今まで森で狩りをしていただけあるね!」


「ジーナお姉ちゃん、とっても格好良かったです!」


「ホー!」


「そ、そうですか!」


 ジーナも得意げだ。ジーナは自己評価が低いから、これで少しでも自信を持ってくれるといいんだけれどな。


「コレットも本当に素晴らしかったです。相手の位置を早く察知してくれたおかげで、相手にバレることなく風下から奇襲を仕掛けることができましたからね。普段の狩りではこれほど簡単にはいかないところでした」


「そうだね。コレットちゃんのおかげで奇襲を受けることなく、ワイルドディアを倒すことができたよ」


「ホー!」


「う、うん!」


 そう、コレットちゃんがいてくれたおかげで、獲物の索敵ものすごく楽だった。視界に入らないほど離れた魔物であっても黒狼族であるコレットちゃんの嗅覚と聴覚によって気付くことができる。


 魔物の気配を感じれば、魔物の風下へ回り込んで視力の良いジーナとフー太がそいつを見つけて、確実に先手を取ることができる。フェビリー村の連中はコレットちゃんと協力すれば狩りをするのがこんなに楽になるのにバカすぎるよな。


 そして唯一役に立てていないのは俺だけのようだ。……いや、違うんだよ、みんなが凄すぎるだけなんだよ。うん、解体と料理は頑張るとしよう。




「それじゃあここでワイルドディアを解体してお昼にしよう」


 ワイルドディアを狩ったあと、事前にキャンピングカーのカーナビ機能で確認をしていた川へとやってきた。


 俺ひとりでワイルドディアを運べれば多少は格好がついたものだけれど、残念ながら俺ひとりでは持てそうになかったので、ジーナにも手伝ってもらった。


 枝肉ではない丸ごとのワイルドディアは何十キロもある上にかなり大きいので、俺ひとりじゃ絶対に持てないんだよ……


 キャンピングカーの収納機能を起用したかったのだが、この川に来るまで開けた場所がなかったからな。それに道が切り開かれていない山道はめちゃくちゃ歩きにくいから本当に大変だった。ジーナもコレットちゃんも山道は慣れているみたいだったけれど、一般人の俺にとってはなかなかしんどいものだぞ……


「シゲト、手伝いますよ」


「僕も手伝います!」


「ありがとう。悪いけれど頼むよ」


 この世界に来てから何度か解体作業を経験したが、魔物によって内臓の位置などがかなり異なるため、ジーナとコレットちゃんの手を借りる。この世界では生きていくためにも解体作業は覚えなければならないからな。


 川に来るまでにワイルドディアの首元を切って血抜きをしながら運んだ。あと少しだけ逆さに吊るして血抜きをしてから、川で水洗いをして解体作業に移る。


 今更だが、街で解体用の道具を購入しておけば良かったな。今はキャンピングカーに積んであったロープを使用して木に吊るして血抜きをしているけれど、解体用に吊るすことができる道具があれば便利だ。




「……よし、やっと終わった!」


「お疲れさまです。結構な量になりましたね」


「これだけあればお腹いっぱい食べられるね!」


「ホー!」


 無事に解体作業が完了した。やはり解体作業は結構な重労働になる。3人とはいえ数時間も掛かってしまった。


 ワイルドディアを探して倒す時間よりも、圧倒的に解体をしている時間のほうが長かったもんな。


「おまけにフー太が狩ってきてくれた鳥もいるもんね」


「ホー!」


 俺たちが解体作業を行っている最中、フー太はこの川の付近を散歩しながら、狩れそうな獲物を探していたようだ。そして見事にこの鳥を狩ってきてくれたので、ワイルドディアと一緒に解体をした。


 こっちの山鳥はディアクやワイルドディアとは違って小さいから解体作業がだいぶ楽だったな。その分解体作業は繊細なので神経は多少使った。


 解体中に食道や膀胱を傷付けてしまって、その内容物が食べられる部位にかかるとその部分は食べられなくなる。さすがに消化中の糞や尿はかなり臭うらしいので細心の注意を払った。


 その甲斐もあって、かなりの量の肉を手に入れることができた。これだけあればみんなで食べても結構な期間持つだろう。キャンピングカーの収納機能があるから、肉の品質を落とすことなく長期間保存できるのはとても助かる。


 ぐうううう~


「ううっ!?」


「ごめん、だいぶ遅くなっちゃったね。早くお昼ご飯にしよう」


「す、すみません!」


 解体作業がひと段落して緊張の糸が解けたからか、盛大にジーナのお腹が鳴った。


 だけど今回はしょうがない。解体作業をしている間にとっくにお昼の時間は過ぎていた。解体作業中はだいぶ汚れてしまうから、昼食を挟まずに一気に終わらせてしまおうという話になったのだ。


 ぐうううう~


「はわわっ!?」


 今度はコレットちゃんのお腹も鳴った。二人のお腹はだいぶ正直だな。かく言う俺もだいぶお腹が空いているし、早くお昼ご飯にするとしよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る