第69話 狩り


「……あれはミーアルフォックスかな。あんまり美味しくないけれど、一応食べられるよ」


 コレットちゃんが指差す先には茶色くて可愛らしいキツネがいる。モフモフとした尻尾とつぶらな黒い瞳がとてもキュートだ。


 俺たちはこっそりと離れた草むらの中からミーアルフォックスという魔物の様子を見る。まだかなり距離があるから、向こうはこちらに気付いていない。


 ……というか、この世界ではキツネを食べるんだな。元の世界だとキツネはまずくて食べられたものじゃないのと、寄生虫であるエキノコックスがいるため、そもそも触れること自体NGだったはずだ。


 この世界では食用らしいから、寄生虫なんかはいないのかもしれないけれど、あんまり美味しくないというあの魔物は見逃してもいいかもしれない。


「いきます!」


「あっ、ちょっとジーナ!?」


「ジーナお姉ちゃん、駄目だよ!」


「ホー!」


 俺やコレットちゃんやフー太が止めるのも空しく、ジーナがひとりで草むらから飛び出し、投擲用のナイフを持ってミーアルフォックスの方へ走り出す。


「キュウ!」


「んなっ!?」


 しかし、ジーナが草むらから飛び出してすぐにミーアルフォックスは気付き、一気に猛スピードで走り出して逃げ去った。


 ジーナがミーアルフォックスを追いかけるが、森の木々の隙間をかなりのスピードで走っていくため、ジーナのスピードでも追いつけない。


「ジーナ、ストップ! これ以上は俺たちとはぐれちゃうから!」


「わ、分かりました! すみません、取り逃してしまいました」


 ジーナも普段森で狩りをしているため、道などがまったくない森の中を結構なスピードで走っていく。これ以上離れると俺たちからはぐれてしまう可能性があるため、大声で呼び止めた。


 残念そうにこっちに戻って来るジーナ。


「逃がしてしまったのは良いけれど、勝手にひとりで先走っちゃったら駄目だよ」


「ミーアルフォックスは動きがとても速くて殺気に物凄く敏感だから、何人かで挟み込むか、こっそりと近付いて一気に仕留めないと駄目なんです」


 コレットちゃんが言うには、何やらミーアルフォックスはかなり捕らえるのが面倒な魔物らしい。


「そ、そうなんですね、あの魔物は初めて見ました。私の村の近くの森にはいない魔物でした……」


 どうやらジーナはあの魔物を初めて見たようだ。当然だが生息する種類の魔物はその森によって異なる。


 今の行動から見ると、普段ジーナはひとりで狩りをしていたのかもしれない。身体能力は人一倍ありそうだもんなあ。


「狩りのことについて俺は素人だから分からないけれど、少なくともコレットちゃんの意見は聞いた方がいいんじゃないかな」


「うう……すみません」


「だ、大丈夫です! それにミーアルフォックスはあんまりおいしくないですから!」


「そうだな。小さい魔物だし、逃がしてもいいと思っていた相手だ。それに細かい打ち合わせもみんなで今のうちにしておこう」


「ホー」


「申し訳ないです……」


 ジーナは激しく落ち込んでいるようだ。まあ、どちらにせよあのミーアルフォックスという魔物は逃がしても良かったからな。


 それにしても、やはりあれだけキュートな魔物でも、みんなから見たら食べるための獲物にしか見えないみたいだ。うん、やはりその辺りの感覚は元の世界とはだいぶ違うみたいだし、俺も割り切っていかないとな。




「……あれはワイルドディアです。とってもおいしい魔物だよ」


 みんなと打ち合わせをしてから、次の獲物を探す。またしばらく森の中を歩いたところでコレットちゃんが次の獲物を見つけてくれる。


 先程と同様に風向きを確認して、大きな音を立てないように注意しながら草むらへと隠れる。目の前にいるのは立派な角を生やしたシカ型の魔物だ。


「ディアクよりも小柄だな。強さ的にはどれくらいなの?」


「ディアクは比較的強い魔物ですからね。ワイルドディアは何度も狩ったことがある魔物ですので、問題ありません」


「僕だとワイルドディアはちょっと厳しい相手かもしれません……」


 角や体格もディアクより小さいし、やはりあいつよりは強くない魔物のようだ。……というか、この世界に来てから最初に出会った魔物があんなに大きくて凶暴な魔物に遭遇するとはついていなかった。


 コレットちゃんにとってあの魔物は厳しい相手のようだ。まあ、体格に差がありすぎるからな。もちろん俺も大きな鹿を狩れる気はまったくしないぞ。


「それじゃあ、さっき打ち合わせした通りにいこう」




 ヒュンッ


「ブオオオ!?」


 ジーナの投擲したナイフがワイルドディアの肩付近に突き刺さる。


「そこ!」


 ジーナが草むらから飛び出し、ワイルドディアへ斬りかかる。


「ブオオオ!」


「くっ、浅かったようです!」


 ジーナのロングソードの一撃はワイルドディアの首元を切り裂いたが、一撃で絶命させるには及ばなかった。首元から赤い血を流しつつ、ワイルドディアがジーナとは反対方向へ逃げ出す。


「逃しません!」


 ジーナがワイルドディアを追うが、相手もかなり速い。手負いとはいえ、普段から森の中を走り回っている魔物は森の中に慣れている。


「ホー!」


「フー太!?」


 コレットちゃんと俺が一緒にジーナの後を追っていると、フー太が俺の肩から飛び出し、物凄いスピードで飛翔して一気にワイルドディアに追いついた。


「ホー!」


「ブオオオ……」


 そしてワイルドディアに追いついたと思った瞬間に一気にフー太の身体が大きくなり、その大きなかぎ爪がワイルドディアの首元へと深々と突き刺さり、そのままワイルドディアは動かなくなった。



―――――――――――――――――――――

【新作投稿】

いつも拙作をお読みいただき誠にありがとうございます(*ᴗˬᴗ)⁾⁾


先日より新作を投稿しました!

コンテストに参加しておりますので、こちらの作品も応援いただけますと幸いです(๑˃̵ᴗ˂̵)


領地開拓の街づくりの話となり、異世界ファンタジーとなります。


『チートスキル【開拓者】で追放された不毛の大地から始める自由生活〜異世界に存在しない作物を育てて開拓をしていたら最高最強の街になっていた件!〜』


https://kakuyomu.jp/works/16818093075809849954

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る