【書籍1巻10/21発売】キャンピングカーで往く異世界徒然紀行

第65話 温野菜

　キャンピングカーのシャワーを浴びてさっぱりとしたところで晩ご飯だ。

　コレットちゃんはこれまでフェビリーの村であまり食事を食べさせてもらえなかったようで、今も少し痩せ気味だ。極度の空腹状態の時にいきない脂っこい料理やカロリーが高すぎる食事をとると胃がびっくりしてしまう。

「うわあ～おいしそう！　本当に僕も食べていいの？」

「もちろんだよ。だけどゆっくりと食べてね。明日からも同じように食べられるから、無理はしちゃ駄目だよ」

　今日明日くらいは消化の良い料理を中心にした方が良いと思い、カロリー控えめな献立にしてみた。それに今日はあまり時間もなかったから、素早くできる料理が優先だ。

　様々な野菜を茹でて温野菜にしておく。薄切りにした肉を茹でて一度冷やし、温野菜の上にのせてそこにドレッシングをかけた温野菜と冷しゃぶである。基本的に野菜は茹でた方が生の野菜よりも多くの量を食べられるし、脂を使って炒めるよりもヘルシーなんだよな。

「でも、僕はまだ何もシゲトお兄ちゃんたちの役に立っていないのに……」

「今日からそういうことは気にする必要ないからね」

　たぶん村にいた頃は働かないと食事をもらえなかったのかもしれない。父親が亡くなってからは本当に辛い目に遭っていたんだろうなあ……

「シゲトはそんなことを気にしないので、大丈夫ですよ。私も護衛として全然役に立っていないのですが、毎日食事をいただいておりますから！　はあ……」

「ホー？」

　自分で言いながら暗い表情でため息をつくジーナ。以前街に行った時、フー太が攫われそうになって守ってくれたんだけど、それだけじゃ護衛としての仕事はまだ足りないらしい。

　フー太は首を傾げているけれど、以前に角ウサギを狩ってきてくれたっけ。

「ほら、せっかく今日からコレットちゃんも加わるんだから、ジーナも元気出せって。それにジーナは護衛でも役に立ってくれているし、明日頼みたいことがあるから、いっぱい食べてくれていいんだぞ」

「本当ですか！」

「シゲトお兄ちゃん、コレットも手伝う！」

「ホー！」

「そうだな。みんなも力を貸してほしいぞ。それじゃあ早速食べよう」

　明日は次の目的地である湖へ向かいつつ、やりたいことがあるから、しっかりと腹ごしらえをしておかないといけない。

「むっ、これは素晴らしいですね！　茹でて柔らかくなった様々なアツアツな野菜と薄く切って少し冷たい肉が合わさって、初めて食べる味です！　それに上に掛かっている少し酸味のあるこのソースがとてもおいしいです！」

「ホーホー！」

　相変わらずジーナとフー太はおいしそうに食べてくれるな。うん、こちらの世界の野菜は本当においしいから、茹でただけの温野菜がとてもおいしい。

　理想を言えばドレッシングやおろしのタレなんかが合うんだけれど、今回は以前作ったサラダ油にレモン汁とアウトドアスパイスを混ぜた即席ドレッシングをかけた。うん、これでも十分においしいな。

　冷しゃぶと言えばゴマダレやポン酢なんかが多いが、うちではおろしのタレで食べていた。よく考えたら、こちらの世界の大根に近い野菜を使えば出汁や醤油やお酢を使っておろしのタレは作れる気がするな。今度時間のある時に挑戦してみよう。

「うう……」

「コ、コレットちゃん、大丈夫！？　嫌いな物があったら、無理に食べないで大丈夫だからね！」

　ご飯を食べながら、突然コレットちゃんが泣き出してしまった。

「いえ、とってもおいしいです！　なんだか、本当に夢みたいでほっとしちゃって……」

「……うん。もう大丈夫だから、落ち着いてゆっくり食べるといいよ。おかわりもあるからね」

「はい！」

　これまでのコレットちゃんがいかに冷遇されてきたかがよく分かった。

「ご馳走さまでした。本当においしかったです！」

「満足してくれたようでよかったよ」

　コレットちゃんはちょっと遠慮気味に一度だけおかわりをした。ジーナの村でもらった野菜や街で買った野菜がまだまだたくさんあるから遠慮しなくてもいいのだが、今日は少なめにしておいた方がいいだろう。

「さて、それじゃあこれからのことを少し話そう。ここから北にあるマイケン湖へ向かう予定なんだけれど、カーナビ通りに行くと、あと一日あれば目的地に到着できそうかな。あっ、カーナビっていうのは現在地と目的地が分かる地図みたいなものだよ」

　今日から一緒に行動することとなったコレットちゃんに説明をする。キャンピングカーに搭載してあるカーナビの目的地検索機能は行ったことがある場所でなければしてできないが、手動でピンを差してそこに案内することはできる。

　街や村で集めた情報から、湖の隣にある村を指定した。そこに到着するまであと一日といったところだろう。

「このキャンピングカーという乗り物は本当に早いですよね」

「ホー！」

「フェビリーの滝も本当に綺麗だったし、マイケン湖も楽しみだよね。だけどお肉もなくなってきたことだし、明日一日を使って狩りをしてみようと思っているんだ」