チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜

タジリユウ@3作品書籍化

第1話 キャンピングカー


「ふんふんふん♪」


 普段は鼻歌なんか歌ったことないのに今日だけは自然と口から漏れてしまう。


 そりゃそうだ。ついに長い間望み続けていた俺の夢が叶ったのだ!


 暗い夜空に浮かぶ満月と煌めく星、静かな川のせせらぎの音と、目の前でユラユラと揺れている焚き火。そしてなにより、俺の横にあるのは大きな車体。そう、今日俺はついに念願であったキャンピングカーを手に入れたのだ!


「ふっふっふ、間違いなく今までの俺の人生の中で一番の買い物だな」


 そして聞いて驚け! なんとこいつはキャンピングカーの中でも最もハイエンドとされているタイプのキャンピングカーだ!


 そもそもバスコンがわからない? まあ普通は知らなくて当然だ。実はキャンピングカーの中にもいろいろな種類がある。


 軽自動車や軽トラを改装した軽キャンパー、ワンボックスカーを改装したバンコン、トラックをベースとして荷台部分を居住空間に改装したキャブコン、アメリカなどで多い寝泊まりできるトレーラー部分を自分の車で引っ張るなんてタイプもあったりする。


 その中でも一番高価で人気のある種類がバスコンである。マイクロバスの内装を寝泊まりできるように改装したキャンピングカーで、その特徴は車内の広さと乗り心地の良さだ。そりゃまあバスを改装したのだから大きくて乗り心地が良いのも当然である。


 そしてその広さがゆえに、様々な機能をオプションでつけることが可能だ。このキャンピングカーにはトイレどころかシャワー室までついており、最大で10人近く乗ることができる。これ以上の大きさになると中型免許が必要となってしまうギリギリのサイズだ。


 そしてそのお値段、オプション込みでなんと約2000万円! 地方なら安いマンションくらいは買えてしまうとんでもない価格だ。


「ここまでお金を貯めるのには本当に苦労したなあ……」


 別に俺の実家が裕福というわけでも、宝くじに当選したというわけでもない。


 ブラック企業でこき使われながら、酒もタバコもギャンブルもやらず、彼女なんて作らずにただひたすらお金を貯めて、ようやく購入することができた俺の努力の結晶だ。……いやすまん、見栄を張っただけで、彼女は普通にできなかっただけです。


「キャンピングカーのある生活、まだ初日なのに最高だぜ!」

 

 そしていよいよ今日が記念すべき、このキャンピングカーで初めてのお出掛けというわけだ。今日はオートキャンプ場という自動車を乗り入れてキャンプができる河原のキャンプ場へとやってきている。


 オートキャンプ場は車のすぐ横にテントを張れるので、荷物を駐車場から運ぶ手間もなく、キャンピングカーに連結してタープという日差しや雨を防ぐための布を掛けることができるのでとても便利だ。


 とはいえ、大型のキャンピングカーで泊まれるキャンプ場は日本では数少ないから、キャンプ場の下調べと予約は必須となる。


 今日は記念すべき日なので、平日に有休をとってキャンプ場まで来ているため、俺の周囲のお客さんは一人もおらず、この素晴らしい景色を独り占めしている。そして明日に泊まる場所は決めていない。なにせキャンピングカーだからな!


 泊まろうと思えばどこかの駐車場にでも泊まれるから、下調べもあえてしない。こういうのも旅の醍醐味なんだよね。自由気ままに美味しいものを食べて、気になったところへ寄り道をするというのも楽しいものなんだよ。


「さて、ぼちぼち寝るとするか」


 さあ、いよいよキャンピングカーで初めての夜を過ごすことになる。元々キャンプをすることが好きで、よくテントを張ってソロキャンプをしていた俺だが、ついにキャンピングカーデビューだぜ。


 後片付けはそこそこにして、キャンピングカーの中にあるベッドへと潜り込む。キャンピングカーの利点のひとつがこのベッドである。最近ではだいぶ暖かくて寝心地のよい寝袋もあるが、やはり安全な車の中とふかふかのベッドには敵わない。


 今夜はぐっすりと眠れそうだな。






 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 ガンッ、ガンッ


「うわっ!?」


 な、なんだ!?


 いきなり外から大きな音が鳴って目が覚めた。目を開けると、見慣れない光景が視界に映る。


 そうだ、昨日は初めてキャンピングカーの中で寝たんだった。それにしても今の音はなんだ、動物か? ちゃんと野生動物が寄ってこないように、食料や調味料なんかはすべてキャンピングーカーの中に入れておいたんだけれどな。


「………………はあ?」


 キャンピングカーの窓にかけてあるカーテンをめくって、外の様子を見てみると、そこには驚くべき光景が広がっていた。


「ゲギャゲギャ」


 外にいたのは野生のシカでもイノシシでもなく、背が低くて濃い緑色の肌にずんぐりとした1メートルほどの生物だ。鼻は平たくて耳は尖り、醜悪な顔立ちをしており、ボロい布切れを腰に巻きいて太い棒切れを持っている。そう、ファンタジー世界の存在であるだった。


「………………」


 いくらなんでも夢だよな? 最近は有給休暇を取るため、ブラック企業でいつも以上に残業をしていたから、疲れているに違いない。いや、でもまさか……


「ゲギャ?」


「ゲギャゲギャ!」


 夢だとわかってはいるが、カーテンを少しだけめくって2体のゴブリンの様子をこっそりと窺う。2匹のゴブリンは昨日俺が置いたままだった焚き火の後やテーブルを訝し気に見ていた。


 どうやら俺の存在には気付いていないようだ。まったく意味の分からない状況だが、とりあえずこのままキャンピングカーの中に隠れて状況を窺おう。




 しばらくすると2匹のゴブリンは興味を失ったようで、キャンピングカーの近くから立ち去って行った。


「……ふう~なんだったんだ、あれ?」


 それにしても、この夢は一向に目の覚める様子がない。さすがにこれは夢なんだよな?


 用心のために薪割り用のナタを武器として持ち、付近に何もいないことを確認して、ゆっくりとキャンピングカーのドアを開ける。


「ここはどこだよ……」


 俺の目の前には一面の草原が広がっていた。遠くのほうには大きな山や森が見える。昨日泊まっていたはずのオートキャンプ場はそこに影も形もなく、キャンピングカーの横にあった大きな川もなくなって、草原の中にポツンとキャンピングカーが取り残されている状態だった。


「いくらなんでもこれは夢だよな……?」


 風が頬を撫で、草原の草木の香りが広がり、ここが現実であると告げてはいるが、あまりにも現実離れした光景がそれを否定している。


「落ち着け、まだ慌てるような時間じゃない!」


 無理やり気を落ち着かせて、一度キャンピングカーの中に戻り、冷蔵庫に入れておいたアイスコーヒーをコップに注ぐ。キャンピングカーの魅力のひとつに冷蔵庫や冷暖房などの家電製品を組み込むことができる。


 当然このキャンピングカーにも搭載されており、電力についてはキャンピングカーを走らせることによる発電と、キャンピングカーの上部にあるソーラーパネルによって賄われている。


「……苦いな。やっぱりこれは夢じゃないのか」


 普段は砂糖やミルクを入れて飲むアイスコーヒーだが、そのままブラックで飲んだためとても苦い。頬をつねってみて痛みも感じたし、苦みなどの味覚もある。信じたくはないが、ここは現実の世界なのだろうか?


「まさかとは思うが、異世界ってやつか?」


 ここがただの草原だったら、地球上のどこかにテレポートしてしまったと考えるが、先ほどの物語の中に出てくるゴブリンのような未知の生物。それを考えるとここは地球とは別の星、もしくは異世界ということになる。


 俺もいわゆる異世界ものと呼ばれる漫画や小説なんかを読んだことはあるが、まさにそれと同じような状況だ。


「とりあえずスマホはそのままあるけれど、当然ネットはつながらないか」


 一応キャンピングカーに積んでいた物やスマホはそのまま残っているが、当然スマホは圏外だった。


「……とりあえず、まずは目立たない場所に移動しよう。こんな草原の真っただ中にいつまでもいたら、さっきのゴブリンみたいなやつがまた現れてもおかしくないぞ!」


 さっきのゴブリンはキャンピングカーを気にしつつも立ち去ってくれたからいいが、キャンピングカーに攻撃を仕掛けてくる生物がいてもおかしくはない。取り合えず、このキャンピングカーが目立たないような場所に移動しなければならない。


 そうと決まれば、まずは外にある道具をしまって移動しよう。


「ぬわっ! なんじゃこりゃ!?」


 表に出していたキャンプギアを収納して、キャンピングカーに異常がないかを確認していると、さっきは気付かなかったが、キャンピングカーの一部が凹んでいた。


「くそっ、さっきのゴブリンか! ちくしょう、次に見つけたらただじゃおかないぞ!」


 ……いや、こんな状況でキャンピングカーが凹んだことに対して憤りを感じている場合ではないことは分かっているのだが、昨日納車したばかりの新車のキャンピングカーに傷が付けられているのを見て冷静にはいられなかった。


 ちくしょう、2000万円もしたのに……




「とりあえずエンジンは掛かってくれて助かったな。当然カーナビは動作しな――あれ、なんだこれ?」


 荷物をすべてしまい、場所を移動するためにキャンピングカーのエンジンを掛けたところ、無事にエンジンが掛かってくれた。さすがにこんな場所で立ち往生だけは勘弁である。


 そしてエンジンが動いたことにより、キャンピングカーに内蔵されているカーナビが起動するが、当然周りの地図は表示されない。しかし、昨日までカーナビに表示されていなかった★のマークがあった。


 昨日はこんなものなかったのにと思いつつ、そのマークをタッチしてみた。


「ナビゲーション1ポイント、自動修復機能2ポイント、キャンピングカー収納2ポイント、室内拡張5ポイント……おいおい、これってまさか……?」




―――――――――――――――――――――

この作品を読んでいただき、誠にありがとうございます(o^^o)


こちらの作品はカクヨムコン9に参加しております。

当分の間は毎日更新を頑張りますᕦ(ò_óˇ)


執筆の励みとなりますので、ぜひともフォローと★★★をよろしくお願いしますm(_ _)m

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る