第14話
「…王様が寝てる」
目を覚ましたアキは、既に月が昇っているのを確認して部屋の中を見渡すと、ソファに寝ているヘルジールを見つけた。
向かいのソファに静かに移動して顔を眺めているとアキは少しおかしくなって笑った。
「前の場所では俺は都合のいいゴミで、こっちではみんなから必要とされる人間、どっちもどっち、変わりないな。」
望まなかった訳では無い。
純粋な存在意義が欲しかった。
必要だと言われたかった。
しかしそれは叶わなかった。
今それを叶えられても、アキの心にはかすりもしないだろう。
ただ重い石を不意に投げられたような感覚だった。
ゴミと罵られ暴力を受ける日々と、
人々期待を背負い自らの命を削り使命を果たす、
アキはふと考えてしまった。
「もし、産まれる先を自分で選べてたら、最初からこの世界にしてたかもな」
おかしなことを言っている自覚があったアキは口に出した言葉を飲み込むように、冷めたお茶を一気に喉へ流し込んだ。
カップを置いてヘルジールの方に視線を戻した時、目が合った。
「起きてたのか」
「アキがそこに座った時に目が覚めた」
ヘルジールは体を起こし首元のボタンを片手で外しながらアキに問いかける
「アキは祭りは好きか?」
「…どうだろ、行ったことがないから分からない。」
「明日から3日間、祈祷祭があるんだ。戦勝と無事を祈る祭りだ。」
ヘルジールはテーブルの上に置かれた書類を手に取りながらアキにもう一度問いかけた。
「祭りは、好きか?」
アキはこの一言で、ヘルジールが自分を誘ってくれているのだと分かり、頷いた。
「明日、月が昇る前にはここに来るから、変装したら行こう。」
ヘルジールは嬉しそうに書類をまとめると、アキに手を振って部屋を出ていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます