第11話

「この世界って魔法が当たり前のようにあるんだな」


「そうですね、まれに魔力を微量しか蓄えられない体質の人もいますが、そういう人達は魔力を買って補ってますね。」


「魔力って買えるんだ」


「イノリ様、えっと、前の異世界人の方が誰でも魔力を供給出来る装置を創ってくださいまして、各地に装置があるので魔力が少ない者はそれで補ってます。」


「凄い人だったんだな」


「イノリ様は…」


「副団長、それ以上は」


「…忘れてくださいアキ様」


2人は悲しそうにアキにそう言うと黙ってしまった。


少し言重い空気になってしまい3人が紅茶を飲む音だけが部屋に響く。


アキは、この緊張感が苦手だった。


それを察したようにリアンが気を使ってアキに明るく話しかけた。


「そういえば、アキ様はカップラーメンをご存知ですか?イノリ様の世界ではみんな知っている簡易食品だとおっしゃってたんですが」


「…もちろん知ってる」


「やっぱりそうなんですね!イノリ様がどうしても食べたいと1度だけ創造してくださった時がありまして、私も2つ頂いたんですよ。お湯を入れるだけであら不思議、美味しいらぁめんができるなんて不思議ですよね!」


「そう、だな…」


アキは答えながら少しずつ顔を伏せた。


「アキ様?」


様子がおかしいことに気づいたリアンが呼びかけるも、アキの耳には届かずアキはあの日の光景を見ていた。


ある日、母親は急にアキとご飯を食べたいと言って2つカップラーメンを用意して待っていた事があった。アキは警戒しつつもカップラーメンが置かれてある所に座り、母親が手をつけたのを見て自分もカップラーメンに手を伸ばした時、顔に何かがかけられた。何が起こったのか分からず一瞬放心状態に陥ったアキは直ぐにそれがなにかわかった。母親が食べていたカップラーメンだった。次第に顔中に痛みが走り顔を洗おうとたとうとした時、母親は大声で叫んだ。


「動くな、音を立てるな!何度言ったらわかるんだよ、クソが。」


「母さん、痛い、水を…」


パニックになっているアキはかろうじて、動くなという命令だけはしっかり聞き取れたため、その場から動かず母親に泣きながら水が欲しいと懇願した。


しかし母親は何も言わずにそれを真顔で見てアキの目の前のカップラーメンを啜り始めた。


食べている間、何も言わずに垂れ下がった前髪の隙間からアキをひたすら睨みつけている目を見た瞬間、あまりの恐ろしさにアキは何も言えなくなり息を止めた。



そのままアキは無意識に呼吸を止めているうちに気絶し、目を覚ました時には痛む顔の感覚しか残っていなかった。


幸い火傷は軽傷であとは残らなかったが、この出来事は未だに思い出してしまいフラッシュバックのように恐怖が襲う。


あの痛みと、今にも殺されそうな殺意の籠った視線。

少しでも音を立てようものなら…



「アキ様、アキ様!呼吸をしてください!」


「あ、俺」


「大丈夫ですか!?直ぐに医者を呼びます!」


息苦しさを感じ息をする。

無意識に呼吸を止めていたアキは意識が飛びかけていた。


「すみません、俺のせいで」


焦りを浮かべたリアンの顔は今にも泣きそうになっていた。


「俺自身の問題だから、大丈夫」


「呼んできました。」


走って部屋に戻って来たノアの後ろには、白衣を着た少女が居た。


「本当にもう大丈夫」


「念の為です」


「…」


アキは諦めてされるがままになった。


聴診され、脈を計られる。

直ぐに終わったかと思えば少女はリアンとノアを部屋から追い出して深刻な顔でアキに問いかけてきた。


「アキ様、申し遅れました、私アリスと申します、失礼ながらアキ様はご両親はいらっしゃいますか?」


「元の世界にならいるけど、それが何か?」


「こちらには一緒に来てませんか?」


「目が覚めた時は俺一人だったけど」


「そうですか…」


「あの、さっきは無意識に息止めて酸欠になってふらついただけだから、大丈夫」


「私は言葉を選ぶのが苦手なので率直に申し上げますわねアキ様、ご両親は元々こちらのけ人間の可能性があります。」


アキは動きが止まった。


「それは…」


「アキ様の背中に、詠唱文字が刻まれてます、傷痕として…」


「気のせいじゃ」


「いいえ、この傷痕は見間違えるはずがございません、なぜならこの詠唱文字はマコト様がお造りになられた魔法の詠唱文字だからです。」


「マコト?」


「3番目の異世界人様です」


アキは思い出していた、小さい頃執拗に背中に傷をつけられたことを。


その男の名は...誠(マコト)

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