第59話 成長


「……おっ、いたぞ」


「うん、レッドディアだね」


 先頭を進むオズと僕の前にシカ型の魔物がいる。


 さっきは風向きが悪くてこちらに早々に気付かれて逃げられたけれど、今回は気付かれずに近付くことができた。


「よし、行くぜ、エフォート!」


「うん!」


 オズが風魔法を唱える準備をする。僕はそれと同時に身体能力強化魔法を発動させる。


「……ウインドアロー!」


「っ!?」


 オズが風の魔法を放つ。


 だけどオズが風魔法を放った瞬間、レッドディアに気付かれてしまった。魔法の詠唱の声は小さかったから、多分殺気か魔法の気配で気付かれてしまったに違いない。野生の魔物は魔力の流れや生き物の殺気や気配なんかにとても鋭い。


「キュオオ!」


「ちっ、浅いぜ!」


 オズの3本の風の矢のうちの2本がレッドディアに的中した。だけどギリギリで急所は避けたようで逃げようと走り出した。


「獅子爪断!」


 だけどそれよりも身体能力強化魔法を使った僕の方が速く、レッドディアに追いついてその首元へ獅子龍王流の技を叩き込む。


「キュ……」


 僕の右手がレッドディアの首元にめり込んで、その大きな身体が崩れ落ちた。手応えはあったから、首の骨が折れて絶命しているみたいだ。


 う~ん、多分リオネ先生なら今の一撃で首を斬り飛ばすことくらいはできたんだろうなあ……でも僕も今の攻撃は身体能力強化魔法を使いつつ、接近する際は脚力を集中して強化して、技を撃つときは右腕を集中して強化することができた。


 ただ、どうしても脚力から腕力に切り替える際、ちょっとした時間が掛かってしまった。今回はオズの風魔法でレッドディアが怯んでいたから良かったけれど、それがなかったら反撃を受けていたか、逃げられてしまっていたかもしれない。


 うん、こればっかりはもっと鍛錬を続けるしかないかな。


「ふむ、2人とも見事だな」


「オズもエフォートもすごいよ!」


「へへ、一発は外しちまったけれど、前よりもウインドアローを大きくて速く撃てたぜ!」


「僕も身体能力強化魔法で身体の一部を集中して強化することができたよ。足から腕に強化をする時に少し時間が掛かったから、まだ鍛錬が必要だね」


 オズの風魔法もこの学園に入るより威力も速さも間違いなく向上している。この学園に入って魔法や実技の授業を受けて強くなっている。僕も学園に入って、リンネ先生から獅子龍王流の技を学んだり、みんなと組手をして間違いなく強くなった。


 他にもいろんな経験を積むことができたし、前世でも経験することができなかった学園生活を楽しめている。この学園に入ることができて本当に良かった。


「どうやらこの分ならお前たちだけでも大丈夫みたいだな。元々山で狩りをしていただけあって、しっかりと周囲の警戒もしているようだし、獲物への対応も問題ないだろう」


「「押忍!」」


 やった、リオネ先生からも褒められた。


 これまでも村の近くの山でワイルドボアなんかの魔物を狩ったことはあるし、ゴブリンなんかも駆除してきた経験もちゃんと役に立っている。今のところは村の近くの山で出てくる魔物の強さと同じくらいだ。


 もちろん僕たちが魔物を狩る以上、向こうも僕たちを殺そうと向かってくることもある。絶対に油断はしないよ。


「次はモニカの番だね!」


「うん。だけどその前にこのレッドディアの解体をしなくちゃ駄目だよ」


「おう! 目的は肉や素材だからな!」


 今回の借りは僕たちの実践訓練という意味もあるけれど、狩った魔物の素材を売ってお小遣いを稼ぐことだからね。


 山で狩った魔物はすぐに解体作業をしないと肉がまずくなってしまう。学園の食堂で出てくるご飯には満足しているけれど、間食できるくらいの自分たちの食料は確保しておきたい。




「ふう~やっぱり解体は疲れるよなあ~」


「そうだね。でも身体能力強化魔法があれば、僕たちでもちゃんと解体はできる。これも修行と思えばいい鍛錬だよ」


「……相変わらずエフォートは前向きだよな」


 リオネ先生の案内で森の中にあった川で、さっき狩ったレッドディアをオズと一緒に解体している。


 魔物解体作業は結構な重労働だけれど、身体能力強化魔法を使えば僕たちにもできる。レッドディアは僕たちの村の近くの山でも出てくるし、何度か解体作業をしたことがある。


 村のみんなの手伝いで解体作業を手伝った経験もしっかりと役に立ってくれた。


「だけど、森で獲物を探す時間や解体の時間の方が魔物と戦う時間よりもよっぽど長いのがつれえよなあ……」


「うん。今日ももうすぐ帰らないとだね」


 今日は朝から出掛けてきたのにもうすぐ昼はとっくに過ぎている。魔物との実戦も大事だけれど、これならリオネ先生の道場で鍛錬をしていた方がいい気がする。たまにお小遣いを稼ぐのに来るくらいがちょうどいいのかも。


「エフォート、オズ、ただいま!」


「ちょうど解体も終わったようだな。こっちの方も解体して遅めの飯にするとしよう」


 僕たちが解体している間にモニカとリオネ先生はこの付近で別の魔物を探していた。リオネ先生は大きなワイルドボアを担いでいる。

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