第60話 冒険者ギルド


「……よし、こんなものだろう」


「うわあ、やっぱり解体も早いですね」


「いつもやっていることだからな」


 リオネ先生とモニカが狩ってきたワイルドボアの解体が無事に終わる。解体の方はリオネ先生がすぐに終わらせてしまった。僕とオズがレッドディアを解体するよりも何倍も早い。


 僕たちも村にいた時は狩りを手伝っていたけれど、解体の手伝いはあんまりしてこなかったからね。


「さて、今日はこれくらいにして、街へ帰るとしよう」


「「「はい!」」」


 今日は朝から街を出て森まで移動し、結果的にはレッドディアとワイルドボアを狩ることができた。


 リオネ先生が言うにはそこまで高い金額で売れる魔物ではないらしいけれど、僕たちのお小遣いとしては十分過ぎるほどの金額だ。それに今度からはもっと強い魔物がいる森へ連れて行ってくれるらしい。


「う~ん、やっぱり狩りをしていると、魔物を探したり倒した後の解体作業をすると結構な時間が掛かるよね」


「まあな。だけどたまには気分転換にもなっていいと思うぜ」


「うん。学園や道場でずっと鍛錬を続けるよりもいいよね!」


 おっと、オズとモニカは狩りをするのに賛成みたいだ。確かに僕はひたすらに武術の型や技を繰り返すのが好きだけれど、普通の人はそこまで単調な繰り返しをするのはあまり好きじゃないんだった。


 そもそも僕はともかく、2人はまだ幼い子供だもんね。適度な気分転換としてはいいみたいだ。


「そうだな。ずっと学園や道場で同じ鍛錬をしているよりも、たまにはこうして山に来て狩りをするのもいいだろう。魔物とはいえ、実際に命のやり取りをする経験はなにものにも代えがたい経験でもあるからな」


 そうか、リオネ先生はそういう意図もあって、僕たちを狩りに連れてきてくれたのかもしれないな。オズやモニカは学園での実技の授業はともかく、学科の授業はだいぶ辛そうにしていたから、いつもとは別の気分転換が必要なのかもしれない。


「魔物とはいえ、奪ったその命には最後まで敬意を持つんだぞ」


「「「はい!」」」


 それと学園ではあのダメージをまったく負わない訓練場があるけれど、実際に命のやり取りをする感覚を忘れないようにすることは大事だ。


 忘れてしまいそうになるけれど、魔法や身体能力強化魔法で強化した本気の攻撃は僕たちみたいな子供でも人の命を簡単に奪えてしまうからね。そういう意味でも、狩りをして魔物の命を奪っているという感覚を忘れないことは大事なのかもしれない。


 その命、大切に使わさせてもらおう。




「おお~すっげ~!」


「ここがこの街の冒険者ギルドだ。魔物の素材の買い取りをしてもらうなら、ここが一番いい。変に安く買い叩かれることはないからな」


 解体したレッドディアとワイルドボアの肉や素材を持ってやってきたのはこのハーキムの街にある冒険者ギルドだ。冒険者になりたいオズはとても興奮している。


 道中でリオネ先生に聞いたところ、冒険者ギルドでは一般の人でも魔物の素材なんかの買い取りを受け付けているみたいだ。冒険者ギルドに登録していると多少買取金額が上がるらしいけれど、僕たちは冒険者に登録されることは両親に止められているからね。


 それに冒険者に登録したとしても冒険者には一定の期間内に依頼を受けなければならないみたいで、学園生活との両立はなかなか難しいらしい。それでも両立をしている人もいるらしいけれど、リオネ先生に武術を習っている僕たちにとって、武術と学園と冒険者をすべて同時に行っていくのは絶対に無理だ。


「先に言っておくが、冒険者の中には面倒な連中もいるから、そういった連中は無視したほうがいい」


「分かりました」


「だ、大丈夫かな……」


「少なくとも私がいる時は大丈夫だから安心するといいぞ、モニカ」


「は、はい!」


 リオネ先生は本当に格好いいな。僕もあんなふうに言えるように強くなりたいものだ。


 カラーン、カラーン


 リオネ先生が先頭になって冒険者ギルドの扉を開く。扉の上には鐘が取り付けられていて、扉を開けると大きな音が鳴り、中にいた冒険者たちがこちらの方を見た。


 中には村にいた猟師や門の見張りをしていたみんなの格好や学園にいる生徒とは異なった、戦うことを前提とした武器や防具を身に着けた大人が大勢いる。人相の悪い男の冒険者たちが大勢いて、中には冒険者ギルドの中にある食事処のような場所でお酒を飲んでいる冒険者もいる。


「おいおい、ここは冒険者ギルドだぞ。子供連れの女が来るような場所じゃねえぜ!」


「依頼をしに来るとしてもお子ちゃまたちは家に置いて来いよなあ」


 僕たちが中に入ると2人組の男の冒険者たちが前を行くリオネ先生に絡んできた。

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