第58話 狩り
街を出て森へ向かいながらリオネ先生が尋ねてくる。今日のリオネ先生の格好はいつもの着物姿じゃなくて防具を身に付けている。そして両手の拳には金属製の籠手をはめていた。
さすがにいつもの格好で狩りに出かけるわけではなかったみたいだ。リオネ先生は冒険者にも登録しているから、こういう装備を整えているらしい。リオネ先生は魔物を狩ってその素材を売って生計を立てているみたいだ。
オズは冒険者に憧れているから、リオネ先生の格好を見てとても興奮していた。ちなみに僕たちは村にいた時に使っていた胸当てを着ている。
「3人は魔物などを倒したことがあるのだったよな?」
「はい、リオネ先生。うちの村の近くの山にはゴブリンとかが結構出てくるんですよ」
「あとはシルバーウルフなんかも出てくるよな。でもあいつらは食ってもうまくないし、ちょっと強いけれど、ワイルドボアなんかが出てくれると嬉しいぜ」
「ホーンラビットもすっごくおいしいよ。でもあんまり見つからないんだよね」
「……3人ともその年でもう狩りに出ているとは立派なものだ。道理でうちの道場へ来た時からあれだけ動けていたわけだ」
リオネ先生は感心したようにそう言う。
「もっと子供のころにワイバーンがうちの村へ襲撃に来た時もあって、ちょうどそん時に村長はいなかったけれどエフォートが倒したんだよな」
「なに、ワイバーンだと!? よく倒せたものだな」
「いえ、本当に偶然です! 僕の拳がたまたまワイバーンの頭に当たって、脳が揺れて気絶したんですよ。僕も気絶しちゃって、その間に村のみんなが倒してくれたから、全然僕が倒したわけじゃないんです」
リオネ先生は驚いているけれど、あのワイバーンを僕が倒しただなんて言えるわけがない。なにせあの頃の僕の一撃は本当に大した力もなくて、ワイバーンの鱗に傷ひとつ付けることができなかった。逆に鋭いワイバーンの鱗で僕の右手はボロボロになっちゃったんだよね。
改めて自分の拳をチラッと見てみると、昔の古傷が残ったままになっている。大切な村のみんなやモニカを助けることができて、後悔なんてまったくないけれど。
あんまりワイバーンの時の話をすると、またモニカが辛そうな顔をするから止めておこう。僕はもう全然気にしていないんだけれど。
「それでも十分に誇ることだ。さて、この森は奥に行けば行くほど強い魔物が生息するという特性がある。お前たちなら、たとえ3人でもある程度進んだところまでの魔物なら大丈夫だろう」
「どういう仕組みになっているんですかね?」
「それについては昔から調べられているが、まだ本当のことは分かっていないらしいな。魔力が関係しているという結果は出ているらしいぞ」
「へえ~」
そんな話をしていると、森へ到着した。街から1時間くらい歩いたところにその森はあった。
「かなり広い森だから、稀に遭難者も出ている。絶対に勝手な行動を取って離れるんじゃないぞ」
「「押忍!」」
「は、はい!」
確かに傍から見るとかなり広くて木々の多い森に見える。一応人が通る道はあるみたいだけれど、道を外れたら迷ってしまいそうだ。それにリオネ先生が言うには、間違って森の奥へ行くと強い魔物がいるみたいだから気を付けないと。
「ウインドアロー!」
「ゲギャギャ~!」
「獅子爪斬!」
「ゲギャ~!」
オズの魔法の攻撃と僕の獅子龍王流の技を受けてゴブリンが倒れる。
森を少し進んだところで、2匹のゴブリンが現れた。この森へ来る前に相談していたように、まずは僕とオズがゴブリンの相手する。幸いと言うべきか、この森で出てくるゴブリンは僕たちの村の近くで出てくるゴブリンと大差がないから、オズと僕ともに一撃で倒すことができた。
「ふむ、狩りをしていただけあって、魔物の殺気にも怯えないし、魔物を殺せる覚悟もあるようだな。これならまったく問題ないだろう」
「ありがとうございます」
「へへ、ゴブリンなんて楽勝だぜ!」
「こら、オズ。相手がそれほど強くないからといって、絶対に油断はするな。冒険者の死因の多くが油断だ。相手を侮る気持ちにいつか足元をすくわれてしまうぞ」
「お、押忍!」
少し気が緩んでいるオズをリオネ先生が注意する。リオネ先生の言う通り、たとえ相手がゴブリンであったとしても油断は大敵だ。
「分かればいい。それではゴブリンを処理して、もう少しだけ先へ進むぞ」
「「「押忍!」」」
ゴブリンの死体を穴を掘って埋めるのは村にいた頃と同じだ。
ちなみに冒険者になれば、ゴブリンの素材の買取はしていないけれど、その討伐の証である耳を持っていけば、ほんの少しだけお金を貰えるらしい。どうやらゴブリンはすぐに繁殖してこの辺りの村や街で悪さをするようだ。
害獣と同じで、見つけたらできるだけ討伐することが推奨されいてるらしい。
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