第57話 今のところ


「まずは身体能力強化魔法を全身に掛けてと……」


 実技の時間になって、相変わらず僕は属性魔法の先生がいないから自分で鍛錬する方法を考えて自身を鍛えている。先週は毎日1回ずつオズとモニカと模擬戦をしていたけれど、今週はリオネ先生に身体能力強化魔法の使い方を教えてもらったから、こっちを中心に鍛錬していく。


 2人はまず属性魔法を他の生徒と一緒に鍛錬を行っている。その後に身体能力強化魔法の練習をして、魔力がなくなりそうになったら武術の鍛錬を行う予定のようだ。


 僕は身体能力強化魔法だけにしか魔力を使用しないから、2人よりもたくさん練習ができる。その分属性魔法を使わない状態で絶対2人に負けるわけにはいかないよね。




「……うん、少しずつできるようになってきたかな」


 一番最初は身体能力強化魔法を身体の一部に集中するという感覚はいまいちわからなかった。


 昨日リオネ先生にいろいろと教わる……いや、リオネ先生は具体的に教えるのは苦手だから、見よう見まねで試してみたというのが正しいのかもしれないけれど、それによってだいぶ感覚というものがつかめてきた。


 身体全体に纏った液体のチューブを押し出して拳や足に集めるイメージが一番近いのかもしれない。


「あとはもっと集中するスピードを早くしたいかな。少しずつ早くできるようになってきた気がするけれど、実際の戦闘で使うにはまだまだ遅い気がする」


 身体能力強化魔法を繰り返して拳や足みたいないろんな場所に集中する鍛錬を繰り返していくうちに、多少ではあるが少しずつ早くできるようになってきた。


 しかし、まだ数秒は掛かってしまうから、このままだと実際の模擬戦や魔物を相手にする狩りの実践だとあまり使えない。


 それに実戦だと戦いながらになるから、もっと時間が掛かってしまうかもしれない。だけど少しずつ早くなっていく感覚はあるから、これを繰り返していけば実戦でも使えるようになるに違いない。


「エフォート、待たせたな」


「エフォート、お待たせ」


 オズとモニカも属性魔法の鍛錬が終わったみたいだ。ここからは3人で身体能力強化魔法を鍛錬したり、獅子龍王流の型や技の鍛錬をしていく予定だ。


「みんな競技会についてはあんまり乗り気じゃないみたいだな。やっぱりチャンスっていうよりも2属性持ちクラスの生徒と戦って負けるのが嫌みたいだぜ」


「メルクちゃんも競技会に立候補はしないつもりだって。偉い人がいっぱい来る競技会であんまり目立ちたくないんだって……」


「そうなんだ。せっかくの機会なのに勿体ない気もするね」


 どうやら2人とも他の生徒の話を聞いてきたみたいだ。モニカが言っているメルクちゃんは寮でモニカと同じ部屋で生活をしている女の子だ。2人とも仲が良いみたいで、モニカからはよくそのメルクちゃんの話を聞いている。


 それにしてもみんな競技会にはあんまり参加したくないのか。確かに大勢の凄い大人の人たちの目の前で2属性持ちクラスの生徒と戦うのはちょっと嫌かもしれない。きっと競技会に来る大人たちもみんな2属性持ちクラスの人たちを見るために来るんだろうな。


 でも僕からしたら、それよりも普段一緒に模擬戦なんかができない人と戦えるのは楽しみなんだよね。確かに僕もお父さんとお母さんの目の前で2属性持ちクラスの子と戦うのはちょっと嫌かもしれないけれど、うちの村は遠いしお金もあんまりないからその心配はなさそうだ。


「当然俺は参加する気だぜ! 今から楽しみだぜ!」


「う~ん、モニカはまだ分かんないや」


「僕も今のところは出てみたいかな。まだ時間はあるし、モニカはゆっくりと考えればいいと思うよ」


 どちらにせよまだ時間はあるから、今すぐに決めることでもないもんね。僕もそれまでには頑張っていろいろと鍛えておきたい。


 たぶん2人は希望者が多くても選ばれると思うけれど、僕は属性魔法が使えなくて選ばれるか分からないから頑張らないといけない。





 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「それでは今日はこの街の近くにある森の方へ行ってみるぞ」


「「「はい!」」」


 イーサム学園に入ってから2週目が無事に過ぎて、今日と明日は学園が休みの日だ。


 さすがに2週間が過ぎると学園の寮生活にもだいぶ慣れてきた。やっぱり毎日3食を食べられるのは本当に嬉しいな。村の生活は村の生活でいいんだけれど、やっぱりお腹いっぱいになるまで食べることはできないからね。


 授業の方もだいぶ慣れてきた。相変わらずオズとモニカは学科の授業は苦手みたいだ。


 そして今日はリオネ先生と合流して近くの街に連れて行ってもらって狩りをする予定だ。僕たちは緊急時のお金しか持っていないから、お金を稼がないと街では何にもできないからね。

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