第53話 意識の仕方


「……う~ん、全然分からないかな」


 獅子龍王流の道場から学園の寮へみんなで帰ってきた。そのあと女子寮の前でモニカとは別れて、オズと一緒に男子寮へ戻り、晩ご飯を食べて部屋に戻ってきた。


 そのあとリオネ先生から聞いた身体能力強化魔法の鍛錬の仕方を実際に試しているところだ。


 その方法は元の世界の座禅のような感じで、座って目を瞑りながら身体能力強化魔法を発動させて、全身に流れる魔力を感じるという方法だった。そしてその魔力の流れを感じたあとはそれをゆっくりといろんな部位へと集中させていくという鍛錬方法だ。


 僕がお父さんから聞いて習った身体能力強化魔法を発動させる方法は魔法の流れを感じて、全身に鎧をまとうようなイメージをするというものだったから、それに近いものがあるのかもしれない。


「ほんの少しだけれど、分かってきたかもしれないぜ」


「本当、オズ!?」


 同じ部屋で一緒に瞑想をしていたオズは早くも感覚を掴んできたみたいだ。


「ああ。なんつーのかな。属性魔法を使う時みたいにイメージをはっきりと持つと、なんとなくだけれど身体能力強化魔法で強化する場所を集中できたりできるっぽいぞ」


「なるほど……」


 どうやらその感覚については属性魔法を使う時の感覚に似ているらしい。でも僕にその感覚はわからないからなあ……


 だけど身体能力強化魔法を使ってきた経験はオズやモニカよりも僕の方が多いはずだ。普段は意識をほとんどしなくても発動できるようになった身体能力強化魔法を反対に細かく意識して使ってみる。


 オズは属性魔法を使う時のイメージと言っていた。この世界の魔法はイメージが大事らしい。


 大丈夫、僕もイメージの力なら自信がある。前世では身体が自由に動かせなかった分、いろいろと想像をして過ごしてきた。それにアニメや漫画なんかには多少触れていたから、魔法なんかのイメージは他の人よりもできるはずだ。


「ふうう~はあ~」


 呼吸を整えながら目を瞑って集中する。全身に鎧をまとったイメージ……その鎧の一部を厚くしていくイメージだ。目を瞑ると視覚による情報が一切入ってこないので、いつもより集中できる。


 うん、身体の周りへ流れている魔力をほんの少しだけど感じられる。あとはこの流れをほんの少しだけ右の拳に集めていくイメージを……


「……っ!? 僕も少しだけれど、できたかもしれない!」


 今ほんの少しだけれど、右の拳に少しだけ身体能力強化魔法を集中できた気がする。なるほど、身体能力強化魔法を意識して使おうするとこんな感覚なのか。


「おお、さすがエフォートだぜ! だけど、身体能力強化魔法を一気に爆発させるっていう方はちょっと難しいな」


「爆発かあ……うん、僕はまずこっちをできるようにしてからにするよ」


 今までと同じだ。どうやら僕は才能というものはあまりないらしい。一歩一歩確実に進んで行こう。


「おっと、そうだったな。俺もまずリオネ先生教わったこっちの方から使いこなせるようにするぜ。そういえばモニカのやつは大丈夫かな?」


「魔法の操作だったら、モニカの方が僕たちよりもうまいからきっと大丈夫だよ。よし、明日また道場に行く前にできるだけ練習しておこうっと」


「確かにモニカのやつなら大丈夫そうだな。俺ももっと練習しておくぜ!」


「うん!」






 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「それじゃあモニカもできるようになったんだ?」


「うん! エフォートとオズもできるようになったんだね!」


 結局昨日は寝るまでオズと一緒に身体能力強化魔法を操作する練習をした。型や技の鍛錬とは違って、身体能力強化魔法は魔力を使うから、ずっと鍛錬を続けることはできないみたいだ。


 魔力切れの症状が出る前に昨日は寝るようにした。今日は朝から道場を訪ねるつもりだったから、身体能力強化魔法の鍛錬はしないでいる。


「リオネ先生、入ってもいいですか?」


「ああ、入るといい」


 戸を叩いてリオネ先生の返事を確認してから道場の中に入る。今日はまだ鍛錬を始めていないみたいだ。


「リオネ先生、俺たちちょっとだけれど身体能力強化魔法を一部へ集中できるようになったぜ!」


「モニカも少しできるようになった!」


「ほう、たった1日で多少なりともできるようになるとは素晴らしいぞ。それは今までお前たちがずっと身体能力強化魔法の鍛錬を続けてきたからだ。それは十分に誇っていいことだぞ」


「ありがとうございます!」


 リオネ先生に褒められるのは嬉しい。それに才能があると言われるよりも、鍛錬を続けてきたことを褒められたことの方が嬉しいかもしれない。


「さて、まずはいつも通り基本の型と技を繰り返すとしようか。そのあとは身体能力強化魔法の鍛錬をするとしよう」


「「「はい!」」」

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