第52話 身体能力強化魔法の使い方


「さて、それじゃあオズ、私に向かって風魔法を撃ちこんでみろ」


「ええっ!?」


 獅子龍王流の道場の外には広々とした庭がある。


 ここもリオネ先生があまり手入れをしていないせいか、雑草がボウボウに生えていた。今度の休みは庭の雑草を刈ったりした方がいいかもしれない。


 そして庭に出るなり、リオネ先生はオズに向かってそんなことを言う。


「ま、まあリオネ先生ならたぶん大丈夫だよな。いくぜ、ウインドアロー!」


 あれだけ強いリオネ先生なら大丈夫という判断をしたようだ。うん、僕もリオネ先生ならたとえ僕たちがどんな攻撃を与えようとしても何とでもできる気がする……


 オズは風の矢を3本生成して、リオネ先生へ向けて一気に放った。


「ふむ、年の割に見事な属性魔法だな」


「んなっ!?」


「えっ!?」


「すご~い!」


 リオネ先生はそこから一歩も移動することなく、オズのウインドアローを素手で打ち落とした。オズの激しい風を収束させた風の矢を打ち落としたリオネ先生の両手は傷ひとつない。


「これが身体能力強化魔法の力だ。さすがの私も普段鍛えているとはいえ、今のをそのまま素手で受ければ、多少の怪我はしていただろう。このように身体能力強化魔法は速さや力だけでなく、身体の強度も多少向上しているのは知っているよな」


「はい。自分自身の力で思いっきり巻き藁を叩いても自分の拳を壊さないのはそのためですよね」


 リオネ先生の問いに答える。僕が子供のころに巻き藁を突いて拳を壊したのもそのせいだ。その頃の僕はまだ身体も成長していなくて、身体能力強化魔法の鍛錬も全然未熟だったから僕の拳の方がその力に耐えられなかったんだよね。


「ああ、そうだ。そしてその身体能力強化魔法は基本的には身体全体にかけるのだが、それを拳や足などに集中することもできる。そうすれば全身に身体能力強化魔法をかけるよりも強い力で身を守ったり攻撃することができるわけだ。さっきのは私の両拳に身体能力強化魔法を集中してオズの魔法を撃ち落としたということになる」


 すごい、身体能力強化魔法にそんな使い方があるんだ! 今まで身体能力強化魔法は全身に均一的に付与するのが当たり前だと思っていた。


「正直なところ、両拳に集中をしなくても防げてはいたがな。そして身体能力強化魔法は一点に集中させて使うことも可能だ。こんなふうにな」


 そう言うとリオネ先生は庭にあった石を拾って上に投げ、右の人差し指でそれを一突きすると、その石は木っ端微塵に粉砕された。


「す、すごい……」


「すっげ~」


「実際に身体能力強化魔法は見えないから分かりにくいかもしれないが、今のは右人差し指に身体能力強化魔法を集中させて、人差し指で石を突く瞬間にだけ身体能力強化魔法を一気に爆発させた感じだ。普通に身体能力強化魔法を使っただけなら、おそらく人差し指が石を貫くだけだっただろうな」


 ……いや、それでも十分にとんでもないことだよね!?


「もちろん身体能力強化魔法を一気に使用した場合は魔力の消費も一気に跳ね上がるから気を付けるんだぞ。属性魔法を使用する相手と戦う場合にはどうしても魔法に被弾してしまうこともあるだろう。その際は身体能力強化魔法を身体の一部に集中したり、一気に出力を上げて相手の攻撃を防ぐ防御として使用することもできる」


 なるほど、確かに属性魔法による遠距離からの攻撃は手数も多くて範囲も広いから、どうしても被弾してしまう時がある。その際は受ける場所を集中的に身体能力強化魔法を使って防御するのか。


「同様に攻撃の際にも身体能力強化魔法を足や拳に集中して強弱をつけるというわけだな。まあ、その学園の模擬戦のシステムがよく分からんから、防御の効果はあるか知らないが、少なくとも攻撃の際は意味もあるし、覚えておいて損はないだろう」


 ……たぶん学園の模擬戦のシステムだと各々の攻撃の威力なんかも計算されていて、被弾した攻撃の数で勝負が決まるわけじゃないから、たぶん防御の方にも効果があるんじゃないかな? こればかりは試してみないと分からないか。


「獅子龍王流に限らず、武術全般に言えることだが、身体能力強化魔法とは非常に相性が良い。もちろん武術では型や技で身体の動き学ぶことが一番大事だが、身体能力強化魔法を鍛えることも大事なんだぞ」


 ……そうか、僕は元の世界の感覚で武術は身体や技を鍛えることがすべてだと思っていたけれど、この世界だと身体能力強化魔法とも密接な関係になっていたんだ。


「リオネ先生、そのやり方を教えてください!」


「先生、俺も俺も!」


「先生、私も!」


「ああ、いいだろう。とはいえ、今日はもう遅い。簡単なことだけ教えてやるから、その続きは明日また教えてやろう」

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