第45話 決着


 ビーッ


 エルオくんのフィールドの方から戦闘不能を告げる大きな音が鳴り響いた。


「それまで! エフォートくんの一本となります。これでお互いに一本ずつですね」


 クレイモア先生が僕の一本を告げる。


 良かった、獅子爪断でも一撃でエルオくんを戦闘不能にできたみたいだ。もしかしたら攻撃が頭に当たったというのもあるのかもしれない。


「くそっ! もう一本だ! 次は今と同じ手は食らわない!」


 うっ……確かにエルオくんの言う通り、今のは初見だからできたことで、もう一回同じ手が通じるとは思えない。さっきのは円柱状に炎の壁を出したから、ジャンプして上に空いた空間からファイヤーウォールをかわせただけだ。


 円錐状に炎の壁の形を変えることができたり、空いた上に跳躍した僕を狙って発動の早い魔法なんかを撃たれたら、空中でそれをかわすことができない。


 次はどう攻めよう……


「……そうですね。次の試合にいきたいところですが、その前にエルオ君」


 模擬戦の途中だけれど、クレイモア先生がエルオくんのほうへ進んで行く。どうしたんだろう?


「……なんだ?」


「ふむ、やはり魔力切れのようですね。短時間であれだけ大規模な魔法を使用したのですから当然です。これ以上は模擬戦を許可できません。この模擬戦はエフォート君の不戦勝となります」


「えっ……」


 クレイモア先生の口から驚きの言葉が出てきた。


「な、何だと! ふざけるな、俺はまだ戦える!」


 魔力切れ……昨日のオズとモニカにも起きていた現象だ。確か魔法を使いすぎるとそうなるんだっけ。確かにこのフィールドの中だとさっきの僕の攻撃は無効化されたのにエルオくんがものすごく疲弊しているように見えるのはそういうわけか。


 それにファイヤーボールを同時に5個作り出すのも、自分の前に一面だけじゃなくて、あの大きな炎の壁を自分の周囲にすべて張るというのは結構な魔力を使っていたはずだ。よく考えると、昨日の2人よりもいっぱい魔法を使っていた気がする。


「エ、エルオ様……」


「エルオ様、無理はやめましょう!」


 魔力切れの状態で魔法を撃つのは危険だと言っていた。さすがにエルオくんの友人の2人もエルオくんを心配して止めようとしている。


「くそっ……!」


「エルオ君もエフォート君もとても良い模擬戦でしたよ。エルオ君の魔法の規模や発動時間、そして何より状況に合わせてファイヤーボールを選んだ判断はとても素晴らしかったです」


「………………」


 クレイモア先生がエルオくんを褒めているけれど、全然嬉しそうじゃない。


「エフォート君も素晴らしい速さと力でした。本当に皆さんほどの年齢には見えないほどです」


「ありがとうございます……」


 嬉しいには嬉しいんだけれど、実際にもう一本やっていたら僕は勝てていたか分からなかったから素直に喜ぶことはできない。


 それにこの模擬戦ではダメージが無効化されるからいいけれど、もしも普通の模擬戦だったらエルオくんのファイヤーボールを一撃受けた時点で服に火が燃え移って戦闘不能になっていたかもしれない。


 あのファイヤーボールも全部避けられるくらいにならないと駄目だ。僕もまだ鍛錬が足りていない……


「この学園に入ってから2日目です。まだまだお互いに学ぶことがありますし、他の人との模擬戦もとても参考になりますよ。定期試験では対人戦もありますので、それまでにぜひ自分自身を磨いてくださいね」


「はい!」


「………………」


 エルオくんも渋々ながらクレイモア先生の言葉に頷く。そうか、定期試験の実技試験だと対人戦なんかもあるのか……


「……おい、エフォートとか言ったな」


「うん」


「今回は俺の負けにしておいてやる! だが、次は必ず貴様を倒してやるからな! 首を洗って待っていろよ!」


「う、うん……僕もすごく勉強になったよ。でも次も負けないからね!」


「ふんっ……」


「エルオ様!」


「エルオ様、待ってください!」


 エルオくんはそう言うと2人と一緒に僕から離れていった。あの様子だとしばらくは模擬戦を申し込まれることはなさそうかな。


 物騒なことを言われたけれど、ちゃんと僕の名前を憶えてくれたみたいだし、お金の力や貴族の力で僕や村に何かするみたいなことはなさそうだ。昨日の模擬戦での戦闘からしっかりと対策をしていたし、少し口は悪いかもしれないけれど、意外と真面目な性格なのかもしれない。




「エフォート、今日も勝てたのか?」


「怪我はない?」


「うん、なんとかだけど勝てた感じかな。次戦ったらどうなるかわからないけれど……」


 しばらくするとオズとモニカが模擬戦場にやってきた。


「なんだ、2回連続で勝ったなら大丈夫だろ。今日はモニカと決着を付けてから俺と勝負だ!」


「駄目! モニカが先!」


「そうだね、僕も2人と戦ってみたいよ!」


 今日はオズとモニカが昨日一本ずつ取って魔力切れを起こしたあとの決着をつける。いったいどっちが勝つのか楽しみだ。それに僕もオズとモニカと魔法ありで本気で戦ってみたい!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る