第44話 対策
準備運動を終えて、開始位置の白い円の中に入る。
僕は獅子龍王流の構えを取って、エルオくんも両手を目の前に突き出して魔法を撃つ準備をしている。それに昨日の一本目と違って、すごく真剣な目をしている。昨日のことがあってか、本気で僕に勝とうとしていることが分かる。
「それでは一本目……始め!」
「ファイヤーボール!」
試合開始と同時に身体能力強化魔法を発動しながら、エルオくんの元へ一直線に走る。そしてエルオくんのほうは昨日のファイヤーランスではなく、ファイヤーボールを発動させた。
だけど昨日発動させた2本のファイヤーランスじゃなくて5個のテニスボールくらいのファイヤーボールだ。いくら小さくて初歩的な魔法のファイヤーボールだからといって、一気に5個ものファイヤーボールを発動させるのはやっぱりすごい。
「いけっ!」
「……うっ!?」
エルオくんの号令でファイヤーボールが同時に僕へ襲い掛かってきた。
こちらが一直線に突っ込んでいったこともあるけれど、昨日のファイヤーランスよりもかなり速度が速く、回避しようと左へ跳躍したけれど一発は右足へ当たり、一発は右肩にかすってしまった。
そうか、威力が高いファイヤーランスじゃなくて、数が多くて速いファイヤーボールで僕の突進を止めに来たんだ!
「よし!」
「やったー、エルオ様!」
「さすがです、エルオ様!」
僕が被弾したことによって、フィールドの外にいるエルオくんの2人の友達が歓声を上げる。
「もう一度だ! ファイヤーボール!」
エルオくんが再び同じ大きさのファイヤーボールを作り出す。
……駄目だ、このままだと遠距離から削られてしまうだけだ!
ファイヤーボールに少しだけ当たってしまったけれど、このフィールド内にいるおかげで熱くもないし服も焦げていない。戦闘不能のブザーもなっていないし、急所に当たらなければ耐えられるに違いない。
あのスピードをすべてかわし続けるのは難しいし、多少は被弾する覚悟で突っ込んで僕の攻撃が当たるエルオくんの近くまで踏み込むしかない!
「いけっ!」
さっきと同じ5個のファイヤーボールが僕に向かって襲い掛かってくる。それも僕がいる場所に5個全部を撃ち出すんじゃなくて、広くかわし難いような配置で撃ってきていた。
かなり僕に対して対策を考えてきたみたいだ。
「くっ!」
最低限の被弾で済むよう覚悟をして、両手で防御をしながらファイヤーボールのうちのひとつに突っ込んだ。
「……よし!」
ダメージは受けたみたいだけれど、戦闘不能のブザーはならなかった。まだ戦える! このまま次のファイヤーボールの魔法を撃つ前に勝負を決めるしかない!
被弾しながらもスピードは落とさずにエルオくんへ突っ込む。
「ちっ、ファイヤーウォール!」
エルオくんが昨日と同じ炎の壁の魔法を放ってくる。しかも発動が早いうえに自分の周囲を取り囲むように炎の壁を出現させた。
「くっ!」
でもこの速度だと僕も止まれない! 身体を丸めて最小限のダメージでエルオくんの炎の壁に突っ込んだ。
「くそっ!? ファイヤー――」
「龍牙穿!」
ビーッ
「あっ……」
炎の壁を無理やり突破して、僕の拳がもう少しでエルオくんに届くというところで、僕の側の戦闘不能の合図が鳴ってしまった。
どうやら炎の壁に突っ込んだところで、戦闘不能となってしまったみたいだ。
「それまで! エルオ君の一本です」
「よし! まずは俺の一本だな!」
「さすがエルオ様だぜ!」
「やった~!」
くそっ、一本目は取られてしまった! エルオくんは昨日の僕の戦闘を分析して対策してきたみたいだ。
……魔法だといろいろと応用力が利くからいいよなあ。僕はまだ獅子龍王流の技をそれほど知らないから、どうしても戦い方が決まった戦い方になってしまう。
「続いて二本目となりますよ」
一本目に続けて二本目が始まる。でもエルオくんの戦い方は分かった。次は回避しながら少しずつ近付いて、
「それでは……始め!」
「ファイヤーボール!」
一本目と同様に開始の合図と一緒にエルオくんがファイヤーボールを放つ。
「くっ、そうきたか!?」
だけど僕はさっきと違って一直線ではなく、不規則な動きをしながらフィールド内を走り回って的を絞らせないようにした。さすがのエルオくんも身体能力強化魔法を掛けたうえでここまで走り回られたら的を絞り切れないようだ。
不規則な動きと緩急をつけた動きで少しずつエルオくんへとの距離を詰めていく。
「……ここだ!」
「くっ!?」
エルオくんがタイミングを定めてファイヤーボールを放ってきた。さっきよりも距離が近かったこともあって、今回も一発被弾してしまった。
だけど今回は覚悟をしてそれも織り込み済みだ!
さっきと同じで次の魔法を発動させるまでの時間で一気に距離を詰める。
「ファイヤーウォール!」
これもさっきと同じでエルオくんが自分の周囲にファイヤーウォールを展開してきた。
「ここだ!」
「なにっ!?」
だけど今回はそのまま炎の壁には突っ込まず、炎の壁が唯一空いている頭上へと跳躍する。炎の壁は高かったけれど、今の身体能力が強化された僕なら飛び越えることができた。
「獅子爪断!」
空中では龍牙穿を放つことが難しいため、手刀である獅子爪断をエルオくんの頭へ放った。
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