第41話 2人の模擬戦


「行くぜ、モニカ!」


「うん、オズ!」


 模擬専用のフィールドの外でオズとモニカが向かい合っている。


 クレイモア先生との話が終わって、今度はオズとモニカが模擬戦をすることになった。他の生徒たちの一部もオズとモニカの模擬戦を見るため、僕と一緒でフィールドの外にいる。


 この模擬戦のフィールドはもうひとつあって、すでにそっちの模擬戦は開始しているから、そっちを見学している生徒も多い。他にも的を標的に属性魔法を練習している生徒や、さっきと同じで担当の教員から魔法を教わっている生徒もいる。


 どうやらこの学園の実技の授業はだいぶ生徒の自主性に重きを置いているようだ。定期試験で酷い成績を取ると退学になってしまうようだし、みんなすごいやる気だ。


「2人とも頑張って!」


「それでは1本目、開始!」


 クレイモア先生の開始の合図と同時にオズとモニカがスタート位置の白い円から後ろに跳躍する。


 2人ともさっきの僕とエルオくんの模擬戦を見ていたから、エルオくんと同じようにずっと白い円の上で魔法を撃っているだけだといい的になるという判断なのだろう。


 そして身体能力強化魔法を発動させたようで、2人のスピードがさらに上がった。2人とも属性魔法と一緒に獅子龍王流の鍛錬をずっと続けていたため、身体能力強化魔法を使った時の動きは普通の人よりも速い。


「行くぜ、ウインドアロー!」


 相手に的を絞らせないよう不規則に動きつつ、オズが風魔法を唱える。すると走りながら両手を前に突き出しているオズの前に風が集まり、風の矢が生成される。


 ウインドアローの威力はウインドランスには劣るけれど、魔法の発動時間は短くてスピードも速いから、初撃にはこちらの方が向いているという判断かな。オズが村で魔物を狩る時はいつもだいたいこの魔法を使っている。


「ウォーターウォール!」


 モニカが足を止めて、目の前に水の壁を作る。オズの風の弓矢のスピードはモニカも知っているから、足を止めて受けた方がいいという判断だろう。


「いけえ!」


 オズが手を振るうと風の矢がモニカの水の壁を襲う。


「……ちぇ、駄目か」


 しかし風の矢はモニカの水の壁によってすべて阻まれた。どうやらモニカの水の壁のほうが勝ったらしい。


「今度はこっち! ウォーターボール!」


 今度はモニカが水魔法によって水球を作る。ウォーターボールは水の球をぶつける基本的な魔法だ。魔力を込めると水球を大きく作ることもできるらしいけれど、今はソフトボールくらいの大きさになっている。ただし、その数は4つもある。


 ウォーターボールは初歩的な魔法とはいえ、あれだけの数を一気に生成するのはかなり大変なはずだ。モニカは同じ水魔法の使い手の村長から直接教えてもらっていたし、魔法の扱いはモニカの方が少しだけ優れているみたいだ。


「えい!」


 モニカの合図でウォーターボールが一斉にオズへと向かう。相変わらずモニカの魔法の発動時間は短く、魔法の速度は速い。オズの方は防御系の風魔法を使えないけど、どう防ぐんのだろう?


「くらうか!」


 オズは身体能力強化魔法をかけた肉体でウォーターボールを次々にかわしながら前へ出ている。


「あいて! ……あれ、痛くない!」


 だが、最後のひとつがオズの右手に少しだけ当たった。けれどオズは全然痛くなさそうだ。このフィールド内だと、ダメージは受けないんだっけ。


 戦闘不能になるほどのダメージを受けた時には大きな音が鳴るけれど、それがないということは今のダメージでは戦闘不能にならなかったということかな。とはいえダメージは入ったようだから、ダメージを積み重ねれば相手を戦闘不能にできるんだろうな。


「行くぜ!」


 そしてオズが一気に走ってモニカとの距離を詰める。


「ウォーターボール!」


 対するモニカは後ろに跳躍してオズと距離を取りつつ、発動時間の短いウォーターボールを再び放った。


「くっ!?」


 そのうちの1発はまたオズに当たったけれど、まだ戦闘不能の音は鳴らない。


「ウォーター……っく!?」


「龍牙穿!」


 モニカがまた距離を取りつつ魔法を撃とうとしたけれど、それよりもオズの方が懐に入る方が早かった。きっとオズは少し被弾する覚悟で突っ込んだんだな。


 モニカが魔法を発動させる前にオズの獅子龍王流の技を繰り出す。モニカは水魔法を発動させるのを諦めて両腕でオズの龍牙穿をガードしたけれど、多分あの受け方だと腕にダメージが入っているかもしれない。


「えい!」


「おらあ!」


 そしてそこからは互いに魔法を繰り出す隙がないみたいで、武術による体術で戦闘をしている。


「きゃっ!?」


 普段のオズとモニカの組手だとオズの方が少し勝ち越しているから、この距離はオズの方が強いみたいだ。


 ビーッ


「そこまで! 1本目はオズ君の先取となります」


 そしてモニカの側から戦闘不能の合図である音が鳴り響いた。

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