第40話 勝利


「エフォート、やったぜ!」


「エフォート、格好よかったよ!」


「うん、ありがとう」


 模擬戦が僕の勝利で終わって、オズとモニカがフィールドの中に入ってきた。


 ふう~どうにか勝てたみたいだ。それにしても属性魔法って本当にすごいんだな。炎の槍とか、炎の壁とか、実際に目の前にするとかなり怖かった。事前にクレイモア先生が炎の槍をくらっても傷ひとつないところを見せてくれなかったら、僕もあそこまで思いっきり突っ込むことができなかったかもしれない。


「ば、馬鹿な……」


「「エルオ様!」」


 エルオくんの方を見ると、怪我はなさそうだけれど、地面に膝をついてうなだれている。エルオくんの友達の2人がエルオくんの方へ駆け寄った。


「ふ、不正だ! そこの無能は不正したんだ! じゃなきゃエルオ様が負けるわけない!」


「そうだ! じゃなきゃエルオ様が無能なんかに負けるもんか!」


 ……いや、筆記試練とかならともかく、実技で不正できるわけないじゃん!


「いえ、エフォート君に不正はありませんでしたよ。どちらも素晴らしい模擬戦でした。エルオ君も落ち込む必要などありません。まだ入学したばかりなのにあれほどの規模の魔法と、短い発動時間は十分に誇るべきものです」


 クレイモア先生の判定は覆らなかった。それにクレイモア先生が言っているように、エルオくんの魔法はとてもすごかった。周りで属性魔法を使っていた他の同級生よりも大きな威力と短い発動時間で魔法を放っていた。


「………………くそっ!」


「エルオ様!」


「待ってください!」


 2人の制止を振り切って、エルオくんはこの演習場から出て行ってしまった。2人もそれを追って出て行ってしまった。


「まだ授業中なんですけれどね……明日注意しておきましょう。エフォート君お見事でしたよ」


「ありがとうございます」


 エルオくんは大丈夫かな? というかこの状況だと、明日僕がまた何か言われるような気がする……


「先生、俺も模擬戦をやってみたいです!」


「モニカも!」


「それでは次は2人でやってみますか。え~と、オズ君とモニカさんですね。2人ともしっかりと準備運動をしてください」


「「はい!」」


 おお、次はオズとモニカが模擬戦をするのか! 2人が魔法を使って本気で戦うのは初めて見るし、どうなるのか予想がつかない。それに僕も2人とは模擬戦をしてみたいし、参考にさせてもらおう!


「エフォート君、ちょっとこちらへ」


「はい?」


 2人が準備運動をしている間、クレイモア先生に呼ばれたので、先生の方へ近付く。いったい何の話だろう?


「先ほどのエルオ君との模擬戦は実に見事でしたよ。武術とは日々の鍛錬の積み重ねがとても大事と聞いておりましたが、エフォート君はとても頑張っているみたいですね」


「ありがとうございます」


 クレイモア先生に褒められた。前世でも学校の先生に褒めてもらったことはあるけれど、どうしても身体の弱かった僕に同情してくれているような感覚があったから、なんだかとても嬉しい。


「エフォート君のおかげでエルオ君も明日からは慢心することなく、真面目に魔法を学んでくれそうです。いやあ、予想通りエフォート君が圧勝してくれましたね」


「えっ!? 先生は僕が勝つと思っていたんですか!?」


 普通に考えたら、補欠合格で属性魔法を使えない僕が勝てるとは到底思えなそうなのに。


「……ここから先は内緒の話になります。エフォート君は自分の実力が足りずに補欠合格となったと思っているでしょうけれど、実は違うんですよ。筆記試験はほぼ満点に近く、実技試験でも上から数えた方が早いくらい高得点でした。ですが、この学園は基本的に属性魔法を持っている者が優遇されます。そのため、多くの教師がエフォート君の入学に反対したんですよ」


「そ、そうだったんですか……」


 知らなかった。でも確かに実技試験の時のあの一撃は自分では結構な手応えがあったんだ。それでも補欠合格で駄目だと思っていたんだけれど、悪い一撃じゃなかったらしい。


 でもやっぱりエルオくんみたいに属性魔法が使えない人は認めないみたいな人もいるのか……


「エルオ君のような子供も毎年多いのですが、自分の才能とこれまでの努力に慢心して、今よりも上を目指そうとしなくなってしまうのです。そういった意味でもどこかでエフォート君と模擬戦をさせたいと思っていたのですが、まさか自分たちから模擬戦をしたいと言ってくるとは思っておりませんでしたよ」


「………………」


 模擬戦をする前にクレイモア先生が丁度いいと言っていたのはこのことだったのか……


 どうやらクレイモア先生は僕が思っているよりも、ずっといろいろと考えがあったみたいだ。


「これを話したのも、エフォート君は慢心しないと分かっているからです。それに他の子もそうだけれど、君の場合は模擬戦以外で拳を振るうと危ないことも伝えておきたかったというのもあります」


 確かに多少は強くなったのかもしれないけれど、ただでさえ僕だけ属性魔法が使えないし、リオネさんという目標がある僕には慢心なんてしている暇はない。……でも模擬戦以外で拳を振るう時はちゃんと考えた方がいいみたいだ。


「エフォート君もこれから大変だと思うけれど頑張くださいね。今までとは違った学年になりそうだし、個人的には応援していますよ」


「はい、ありがとうございます!」

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