第39話 ニ本目
「それまで! まずはエフォート君が一本先取ですね」
「んなっ!?」
「「「わああああ~!」」」
クレイモア先生が右手を挙げて、僕の一本先取を宣言する。
とたんに模擬戦場の周りにいる生徒たちから歓声が上がった。
「やったぜ、エフォート!」
「やったあ!」
オズとモニカがとても喜んでくれている。
でも今ので一本で本当にいいの? 僕はまだ龍牙穿を一撃しかエルオくんに当ててないんだけれど……
「おい! まだ俺は一撃しか受けてないぞ! なのになんで一本になるんだ!」
「そうだ、そうだ!」
「なんで1回当たっただけで、あいつの一本になるんだ! ずるいぞ!」
エルオくんとフィールドの外にいるエルオくんの2人の友達がクレイモア先生に抗議をする。
「この模擬戦場に使用されている魔道具の判定は正常です。もしもこのフィールド外で2人が本当に戦っていたら、今のエフォート君の一撃でエルオ君は戦闘不能になっていたということになります」
「ば、馬鹿な! こんなやつのたった一撃で俺が戦闘不能になるわけがないだろう!」
「先ほどのエフォート君の速度は君も見た通りです。彼の身体能力強化魔法は発動速度も素晴らしかったですね。彼は最近ではあまり見ない武術を学んでいたようですから、あの速度と力も納得できます。むしろこのフィールドでなければ、戦闘不能どころか大怪我をしていた可能性がありますよ」
「ふ、ふざけるな! そんなことがあり得るわけない!」
「まだもう一本残っておりますよ。今度はエルオ君も油断せずに本気で戦ってみてはいかがですか?」
「くっ!」
エルオくんが抗議をするけれど、クレイモア先生の判定は覆らない。
確かに今のは僕の本気の一撃だったけれど、このフィールドの外で撃てばエルオくんを怪我させてしまうくらいの威力だったようだ。今まで身体能力強化魔法を使って本気の龍牙穿を人に向けて撃ったことがなかったけれど、よかったのかもしれない。
でもエルオくんは油断をしていたようだ。道理であの白い円からまったく動かなかったし、魔法も発動するのが遅かった。それに魔法を発動する前に何か喋っていた気がするもんね。
今回は運よく一本を先に取れたけれど、次はエルオくんも本気でくる。僕には油断なんてしている余裕はないから、次も全力で挑むだけだ。
「それでは二本目になります。双方、用意をしてください」
結局判定はそのままで、一本目は僕の先取となった。次に僕がもう一本を取れば、この模擬戦は僕の勝利となる。
僕もエルオくんも再び両フィールドにある白い円の内側へ入る。僕はさっきと同じように獅子龍王流の構えを取る。そして今回はエルオくんも両手を前に突き出して、開始の合図と同時に魔法を発動できるように構える。
さっきは油断していただけだし、今度はさっきのようにはいかないぞ。改めて気を引き締めないと!
「それでは……始め!」
「ファイヤーランス!」
クレイモア先生の合図と同時に僕はさっきと同じように右足で地面を蹴って走った。そしてエルオくんが魔法を発動させる。
やはりオズやモニカと同じくらいに魔法の発動が早い。それに火属性魔法のファイヤーランスはファイヤーボールよりも難しい魔法のはずだ。さっきクレイモア先生が発動させた炎の槍より大きさは小さく数も2本だけれど、十分にすごい魔法だ。
「くらえ!」
エルオくんの合図と共に2本の炎の槍がこちらに向かって飛んでくる。
確かに威力はありそうな火魔法だけれど、そのスピードはまだ遅い。これなら……
「なにっ!?」
迫ってくる炎の槍の一本を前に左足を思いっきり踏み込み、さらに外側へと一気に跳躍して回避する。炎の槍を回避して再びエルオくんの元へ一気に詰め寄った。
「くっ、ファイヤーウォール!」
「龍牙穿!」
エルオくんが新たな魔法を発動させようとするけれど、その前に僕の右の拳がエルオくんのお腹を捉えた。そしてエルオくんの魔法が発動する前に後ろへと跳躍した。
ビーッ!
「それまで!」
「な、なんだと!?」
再びエルオくんの方の柱から大きな音が鳴り響き、クレイモア先生が一本の合図をする。しかし、それと同時にエルオくんの火魔法が発動して、目の前に2m四方くらいの炎の壁が出現した。
これくらいの規模の魔法を連続で発動できるなんて、エルオくんも本当にすごい。一歩間違えたら、あの炎の壁に突っ込んで、僕が戦闘不能になっていたかもしれない。
でも、どうして白い円から一歩も動かずにいたのだろう? あの場から一歩も動かずに魔法を放っているだけだったら、いい的になっちゃうのに。
たぶんオズとモニカなら動きながら魔法を放ってくるから、こんなに簡単に攻撃を当てることすらできないと思う。
「二本先取で、この模擬戦はエフォート君の勝利となります」
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