第38話 一本目
「それではこちらが模擬戦のフィールドとなります」
案内されたフィールドはテニスコートくらいの広さで、中央に白い線が引かれていた。そしてフィールドの4隅にはよく分からない文字が書かれた大きな柱が立っていた。もしかしたら、あれがダメージを無効化する魔道具の一部なのかもしれない。
でも、本当にこの中ではダメージが無効化されるのかな?
「それではまずは私が試してみますので、見ていてください」
僕がそう内心で思っていると、クレイモア先生はそう言いながらひとりでフィールドの中に入った。
「ファイヤーランス!」
クレイモア先生が両手を前に突き出し魔法を発動させると、先生の前方に大きな炎の槍が4本現れた。
「……あれだけの大きさのファイヤーランスをこれだけの速さで発動させるとは、さすがはこのイーサム学園の教員だな」
エルオくんが先生を褒めている。確かにあの火魔法の発動時間の短さと大きさはすごい。多分オズとモニカでもあれほど早く魔法を発動できないだろうな。
「はっ!」
先生が両手を振るうと、4本の炎の槍がクレイモア先生自身へ向けて放たれた。
ビーッ!
「おおっ!」
自身へと放たれた4本の炎の槍。しかしそれは先生を傷付けることはなかった。それどころか服すらもまったく燃えていない。
その代わりに先生がいる側の2つの柱から大きな音が鳴り響いた。
「このようにこのフィールドでのダメージはすべて無効化されます。そして一定量のダメージを受けると今のように音が鳴る仕組みとなっています」
炎の槍が当たったはずの先生はピンピンしながら、このフィールドの仕組みを説明している。
「模擬戦をする場合には必ず1人以上の教官に監督してもらう必要があります。また、模擬戦では魔法の使用は許可されますが、日常で魔法を使用して人を傷付けたり物を壊したら最悪退学になるので、絶対にしないように気を付けてください」
「は、はい!」
「分かっている」
当然だけれど、実技の授業や魔法の自主トレ以外での魔法の使用は禁止されている。もしもそれを破って人を傷付けたり物を壊したら罰則がある。最悪の場合は退学だ。もちろんそんなことをするつもりはないけれど、気を付けないといけない。
「それではエフォート君はそちらへ。エルオ君はそちらの円に入りなさい」
両方のフィールドの中央には白色で描かれた丸い円があった。この円が模擬戦のスタートラインらしい。
「エルオ様、頑張ってください!」
「あの無能の平民に身の程を教えてあげてください!」
フィールドの外でエルオくんの友達2人がエルオくんを応援をしている。
「エフォート、頑張れよ!」
「エフォート、頑張って!」
「オズ、モニカ、ありがとう!」
そしていつの間にかオズとモニカが僕を応援してくれていた。気付けば、他の生徒たちの大勢がフィールドの外で僕とエルオくんの模擬戦を見守っていた。どうやら、属性魔法の授業の方が終わって、模擬戦の様子を確認に来たらしい。
他の属性魔法の教官たちが改めてこの模擬戦のフィールドの説明をしているみたいだ。
「ふ~」
スタート地点の白い線で描かれた丸い円の中に入る。そしていつもと同様に獅子龍王流の構えをとる。
先ほどまではいつもとはまったく異なった状況に心臓がバクバクしていたけれど、構えを取ると自然と落ち着いてくる。何度も何度も繰り返した型と技、それを思い出す。
エルオくんがどんな属性魔法を使ってくるかは分からないけれど、僕は僕のできる全力を尽くそう。スタートの合図で身体能力強化魔法を掛けて一気に仕掛ける!
……昨日学んだばかりの獅龍双蹴を試してみようか? いや、確かに対人戦であの技は使えるかもしれないけれど、昨日習ったばかりで練度がまるで足りていない。それよりも今までに一番鍛錬をしてきた龍牙穿の方だ。
「それではこれより模擬戦を開始します。模擬戦は片方が戦闘不能になるダメージを負うと音が鳴り響きます。そこで一本となり、再び双方が白い円に戻ってもう一本を同様に繰り返し、先に二本を先取した方が勝利となります」
なるほど、一度どちらかの音が鳴ったら、仕切り直してもう一戦を行って、二本先取したほうが勝利になるらしい。
「まずは一本目となります。それでは……始め!」
クレイモア先生の合図で一本目の模擬戦が開始された。
開始と同時に身体能力強化魔法を全身に掛けて、一気に右足で地面を蹴る。
「いくぞ、無能! ファイヤー――何っ!?」
エルオくんが両手を前に突き出して魔法を唱える前に一気に距離を詰めた。
……あれ、ずっと白い円の中にいて、まったく動いていないけれどいいのかな? オズやモニカだったら、距離を取りながら属性魔法を撃ってくると思うんだけど、もしかして何かの罠?
いや、ごちゃごちゃ考えるな! 僕は僕の全力を出す!
「龍牙穿!」
僕の右拳がエルオくんのみぞおちを捉えた。例のダメージを無効化する魔道具のせいで僕の本気の一撃はエルオくんの身体に当たったけれど、まったく手ごたえがない。
けれどダメージは入っているはずだ! なぜかエルオくんは動揺していて防御もしていない。この隙に攻撃を連打して一気に勝負を決める!
ビーッ!
「……えっ?」
さらに2撃、3撃を続けて加えようとしたところで、エルオくん側の柱から大きな音が鳴り響いた。
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