第37話 模擬戦


「えっと、僕は学園をやめる気はないよ。確かに僕は属性魔法を使えないし、補欠合格かもしれないけれど、せっかくこの学園に入学できたから、鍛錬して強くなるんだ」


「……ふっ、才能のない者がいくら鍛錬しても意味のないことなのに可哀そうなやつだ。そもそも属性魔法を使えず、それを鍛えることができない環境に生まれた自分の運のなさを恨むんだな」


「ですよね、エルオ様! 属性魔法を使えないのに、何を言っているんだか」


「ははは、本当に身の程を知らないやつですね」


 なんだか散々に馬鹿にされているようだ。


 ……僕のことはどうでもいいけれど、僕が属性魔法に恵まれなかったことで僕のお父さんとお母さんが馬鹿にされたような気がして、少しだけ腹が立った。


「でもそう言うエルオくんたちも属性魔法を2つは授かれなかったんだね」


「……っ!? き、貴様!」


「お、おまえ! 言ってはならないことを!」


「平民風情がふざけたことを!」


 しまった!


 今のは完全に僕の失言だった。これだけ自分たちのこと誇っている貴族のこの人たちがそのことを気にしていないわけないじゃないか! つい腹が立って、言ってはいけないことを言ってしまった。


「ごめんなさい! 今のは僕の失言でした」


 頭を下げて素直に謝った。


「……おまえ、ただですむと思うなよ! 俺と決闘しろ!」


 ええ……なんでそんな物騒な話になっているの……


「こら、そこ! 何をしているんだ!」


 助かった! 僕たちが騒いでいるのを聞いて、クレイモア先生がこっちに来てくれた。


「この補欠合格風情の無能が俺を馬鹿にしたんだ! 俺はこいつに決闘を申し込む!」


 いや、僕のことを散々馬鹿にしたのはそっちなんだけれど……というか今もまさに馬鹿にされているんだけど……


 だけど貴族の人と問題を起こすとまずいんだった。


「……どうして君が補欠合格者のことを? ふむ、ですがちょうどいいかもしれないですね」


 ちょうどいいって何が!? やっぱり先生は貴族の生徒の味方だったりするの!?


「もちろん危険な決闘などを学園側が認めるわけはありませんが、模擬戦でしたら認めましょう。ちょうどこの学園の模擬戦を他の生徒にも見せるところでしたから」


「えっと、模擬戦でも危険じゃないですか……?」


 さすがにこれだけ怒っている人を相手に決闘も模擬戦もないような気がするんだけど。


「いえ、この学園での模擬戦は怪我をする可能性はないので安心してください」


「えっ、そうなんですか?」


 安全に模擬戦をすることなんてできるのかな?


「模擬戦でもなんでもいい! そこの無能をぶちのめしてやる!」


 ……貴族とは思えないものすごい形相で僕を睨むエルオくん。どうやら僕の不用意な一言は彼が本気で気にしていたことだったらしい。


「えっと、本当に怪我をしないんですか?」


「ええ。この学園の模擬戦は特殊な魔道具を使ったフィールドの中で行われます。その中でのダメージはすべて無効化されるので安心してください。戦闘不能になるほどのダメージを負った場合には合図が鳴り、その者の負けとなります」


「へえ~そんな魔道具があるんですね」


 すごいな、いったいどんな仕組みをしているんだろう? うちの村では魔道具なんて高価なものは見たことがない。


 それに怪我をすることなく模擬戦ができるなら、オズやモニカと魔法を使って模擬戦をすることができるのか。これまではお互いが怪我をしないように魔法を使わない組手しかできなかったけれど、ダメージが無効化されるのなら本気で戦うことができる。


 ……オズやモニカの魔法はいつも本当にすごいと思っているけれど、実際に魔法ありでオズやモニカと戦ってみたいと思ったことがないわけじゃない。


「ええ、ですからエフォート君も安心してください。それでは2人ともこちらへどうぞ」


「えっ!? あの、クレイモア先生!」


「ちっ、ダメージは与えられないのか。まあいい、格の違いというものをその身に教えてやろう!」


「エルオ様、頑張ってください!」


「その生意気な無能の平民をボコボコにしちゃってください!」


 ちょっ!? なぜか僕とエルオくんが模擬戦をする流れになってる!


 ……でも模擬戦というのも興味がある。これまで同年代の子供と戦ったのはオズとモニカしかない。それも魔法なしの組手でプロテクターを付けてだ。


 武術を学び始めてから人と本気で戦ったことはない。今までずっと長い間獅子龍王流の武術を鍛えてきた僕の力が、属性魔法を使う人にどれだけ通用するのか気にならないと言えば嘘になる。


 怪我をすることはないみたいで、断れるような雰囲気じゃないみたいだし、模擬戦で僕の全力の力をぶつけてみよう!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る