第34話 授業
「以上、新入生代表キャロル=ステイフィア嬢のご挨拶でした」
これだけ大勢の立派な貴族や大人の人たちの前で堂々とした挨拶をして、ゆっくりと教壇を降りていくその様子はとても立派なひとりの女性に見えた。本当に僕たちの同級生とは思えないくらい大人びている。
「すっげ~綺麗な女の子だったな!」
「うん……」
オズの言う通り、あの子は本当に綺麗な女の子だ。たぶん住む世界が違うというやつなのかもしれない。
「むう……」
オズと僕があの女の子を褒めるとモニカは頬を膨らませて不満そうな顔をしている。
前世でも恋愛なんてしている余裕はなかったし、女心なんて全然分からないけれど、やっぱり一緒にいる異性が別の子を褒めたりすると嫌なものなのかな?
……うん、逆の立場で、モニカがオズや僕以外の男の子をいっぱい褒めたらなんだかちょっと嫌な気持ちになる。あんまりモニカの前ではあの子のことを褒めないようにしておこう。
でもあの子の混成魔法は本当に綺麗だった。機会があれば、あの魔法をもう一度見てみたいな。
入学式が終わった後はそれぞれの教室に移動した。この学年は魔法適正を2属性持ったクラスとそれ以外のクラスが2つに分かれている。幸いオズとモニカとは同じクラスのようだ。同じ村出身ということで配慮されているのかもしれない。
教室には同じクラスの子供たちが20人ほどいる。前世の小学校のようにひとりひとり自分の机がある感じじゃはなく、3人ずつ座れる長い椅子と机があって、各自で自由に座るみたいだ。
「このクラスの担任をするクレイモアです。これからしばらくの間よろしくお願いしますね」
僕たちの担任は金髪で少し顎髭の生えた40代くらいの男の人だった。
「入学式で説明がありましたが、午前中は座学となり、算術や文字や魔法の勉強となります。そして午後からは実技を中心とした授業となります」
この学園では午前中では主に座学で勉強をして、午後は実技による勉強になるらしい。
「この学校の各施設などは使用をする際に説明をしていきます。それでは早速授業を開始していきます。先ほど各自に配布した算術の教科書を開いてください」
どうやら入学式の日からすぐに授業が開始されるらしい。しかも生徒の自己紹介や学校の施設の案内なんかもなしにだ。
やっぱりこの学園は教育にだいぶ力を入れているらしい。授業料の免除やら生活費を出してくれている以上、それも当然なのかもね。
「――であるからして、2桁の乗算の場合はこのように計算するわけで……」
「うう……難しいぜ……」
「モニカもよく分からない……」
「オズ、こっちはこうやってこうするんだよ。モニカ、こっちの式はこうするんだよ」
「……なるほど、サンキュー!」
「ありがとう、エフォート」
オズとモニカに2桁の掛け算のやり方を先生の説明に補足して伝える。
2人とも学科の方はあまり得意じゃないみたいだ。この学園の学科試験もだいぶ苦労していたもんなあ。この世界の学科のレベルは前世と比べたらそこまで高くない。というのも、村では数を数えることさえできれば、生活には何の支障もないからね。
文字についても村で読み書きできる人は半分もいないくらいだった。この世界の言葉や文字についてはこちらの世界に来てから覚えたけれど、前世の小学校までの知識や経験がある僕にとっては他の人よりも勉強はできた。
前世では身体が弱くて、普通の人よりもベッドの上でよく勉強をしていたこともあるのかもしれない。
「クレイモア先生!」
「はい。ええ~と、君は……テオドール=エルオくんだね。どうかしましたか?」
授業の途中で前にいた男子生徒が手を上げ、先生に名前を呼ばれて立ち上がった。赤みがかった茶髪に少し太った体型をしている。苗字があるということは彼も貴族なのかな。
「俺はこんな計算は簡単にできます。もっと難しい問題を出してください」
「ふむ……君にとっては簡単な問題だったかな。それではもっと難しいを出してみるので解いてみてください」
「はい!」
突然そんなことをいうエルオくんだけれど、先生は特に叱ることもなく、前の板に今のよりも難しい問題を書いていく。そしてエルオくんは前に出てその問題をスラスラと解いていく。
「ふむ、素晴らしい。全問正解だよ」
「さすがエルオ様です!」
「エルオ様、格好いいです!」
先生が彼を誉めて、彼の両隣の席に座っていた2人の男子生徒が彼を称賛した。あの2人はエルオくんの友達なのかもしれない。
「エルオ君もそうですが、この学園では学科も実技もできる者はどんどん先へと進んでいってください。こちらの授業はあくまでも最低限の知識を教えているので、可能であれば教科書の先を学んでいて良いです」
どうやらこの学園ではみんなで足並みをそろえて学んでいくという感じじゃないみたいだ。できる人はどんどん先へ進んでいっていいらしい。
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