第33話 入学式


「エフォート、オズ、おはよう!」


「おはよう、モニカ」


「おう、おはよう」


 そして次の日、いよいよ今日からこの学園の授業が始まる。朝も食堂でおいしい朝食を食べてからモニカと合流した。


 それにしても前世では朝ご飯のある生活が普通だったけれど、村では昼と夜の2食だったから、朝にご飯を食べるというのは久しぶりだった。しかも食費が無料というのだから、この世界の学園は本当にすごい。


「モニカと同室のやつはどんなやつだったんだ?」


 オズがモニカに聞く。そういえば、僕とオズは同室だったけれど、モニカは他の生徒と同室のはずだ。


「メルクちゃんっていうの! とっても優しい子だったよ。モニカと友達になってくれたんだ!」


 モニカが嬉しそうにはにかむ。うちの村だと同年代の子供は僕たちだけだから、モニカは同年代の女の子の友達はひとりもいなかった。初めての女の子の友達ができたみたいで、モニカはとても嬉しそうにしている。


「それはよかったね! 僕も同じクラスで友達ができるといいなあ」


 この学園では魔法適正を2属性持った生徒のクラスと、それ以外の2つのクラスに分かれると聞いた。僕たちはそれ以外のクラスになる。それにしても入学試験であれだけの数の同年代の子たちと会ったのは初めてだ。それまでは一番の多くても教会へ祝福に行った時の十人ちょっとが初めてだったもんね。


 前世では友達もいたと言えばいたけれど、僕の身体が弱かったこともあって、本当の意味で対等な友達と呼べる子供はいなかった。どうしても迷惑を掛けてしまったり、僕の病気に気を遣われてしまっていたからね。


 この世界に転生してきて、オズとモニカという親友を得ることができたことにはとても感謝している。この学園でも新しい友達ができるといいな。




「新入生諸君、この度は栄誉あるイーサム学園への入学おめでとう」


 僕たちは大きな講堂へと案内されて、この学園の入学式が始まった。今教壇に上がっているのは白髪に立派な白いひげを生やしたおじいちゃんだ。


「儂はこのイーサム学園の学園長をしておるデルバートじゃ。この学園に入ることができた皆は才能に恵まれたものばかりである。どうかその才能に慢心することなく、自らの能力を伸ばすことに尽力していってもらいたい。この学園からは数多くの優秀な者たちが卒業して国の重要な役割を担っておる。どうか諸君もこの国の歴史に名を残すような立派な人材になってほしい」


 ローブを羽織り、先端に綺麗な水晶が付いた杖を持った学園長の見た目は普通のおじいちゃんに見えるけれど、こんな立派な学園の学園長をしているんだから、きっとすごい人物なんだろうな。


 学園長の挨拶はしばらく続いた。やっぱりこの学園はとても格式の高い学園のようで、卒業生たちは国のいろんな役職に就くことが多いらしい。だからこそ授業料を一切取らず、衣食住すべてが賄われるほどの好待遇なんだろうな。


 学園長の挨拶の後は簡単なこの学園の説明や今後の授業の説明などがあった。


「続きまして、新入生代表の挨拶となります。キャロル=ステイフィア嬢、前へ」


「はい!」


 司会の人がひとりの生徒の名前を呼ぶと、この入学式の最前席前に座っていた女生徒が立ち上がった。この入学式の前の席には2属性以上を持ったクラスの入学生が座っていて、その後ろにはその家族が座っている。次に僕たちが座っていて、最後に僕たちのクラスの家族が座っていた。


 上のクラスの家族の人たちはとても立派な服をしている貴族なんかが多いみたいだ。僕たちのクラスの後ろの席にいる人たちは少なかったけれど、身なりの良い人たちが多くて、僕たちの村のみんなみたいな格好をした人はとても少なかった。


 やっぱり上のクラスは貴族の偉い人の家の子が多いみたいだ。この学園は名門らしいし、僕たちのクラスでも両親が裕福な家の子供が多いのかもしれない。


「お、おいエフォート。あの女の子って……」


「うん。入学試験の時のあの子だ!」


 隣に座っているオズと小さな声で話をする。今呼ばれて教壇へ上がっていく女の子は僕たちの実技試験の後に見学をした際に混成魔法という2属性の魔法を合わせた魔法を放っていた子だった。この一撃は僕たちが傷をつけることができなかった黒い箱にヒビを入れていた。


 この世界でもほとんど見たことがない薄紫色の綺麗なロングヘア、透き通った宝石のように澄んだ青色の瞳、凛として自身に満ち溢れている立ち振る舞い。間違いなく実技試験の時にあの美しい混成魔法を放っていた女の子だ。


「この栄えあるイーサム学園へ入学できたことを大変嬉しく思います。また、私たちの門出をこのような素晴らしい式で迎えてくれました皆さまには新入生一同心より御礼申し上げます。このイーサム学園の名に恥じぬよう精進していきますことをここに誓います。新入生代表、キャロル=ステイフィア」


 パチパチパチ


 もしかしたら学園長が挨拶をした時よりも大きな拍手が講堂内に響き渡る。


 新入生代表を務めるということは彼女が入学試験で一番の成績だったのかもしれない。この世界で苗字を持っているというとこは貴族であることらしいし、いいところのお嬢様なのかもしれない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る