第30話 参の技
「さて、お前たちは獅子龍王流の型はすべてと、弐の技までは知っているんだな」
「ああ、そうだな」
一度仕切り直して、道場の方へ4人で並んだ。目の前にはリオネさんがいる。
昨日はあまりよく見ていなかったけれど、この道場の周りはボロボロだったにもかかわらず、道場の真ん中あたりはとても綺麗な状態だった。昨日あの後綺麗にしたというわけじゃなくて、きっと毎日ここでリオネさんはちゃんと鍛錬を続けていたに違いない。
「これから教えるのは参の技である
「ああ」
「「「はい!」」」
昨日僕と組手をしてくれた時には構えなかったリオネさんが獅子龍王流の基本的な構えをとる。ちゃんとした構えをとっても相変わらず隙が一切ない。
「獅龍双蹴!」
技名を発するとともにリオネさんは身体を時計回りに1回転しながら、右足で上段への蹴り、続けてさらにもう半回転しながら左足で下段への蹴りを流れるような動作で繰り出した。
参の技である獅龍双蹴……それは回転しながら2対の蹴りを繰り出す技らしい。しかし、それはただの蹴りではない。一度身体を回転させることにより、遠心力によってその蹴りの破壊力はさらに上がる。
そして足の力は腕の力の数倍というように、遠心力と合わさったその足技は相当な威力となることは間違いない。
蹴り技と聞くと大したことがないように聞こえるが、これに身体能力強化魔法を合わせれば、防御した相手の腕をそのままへし折ってしまうくらいの威力はあるかもしれない。
「見ての通り、この技は蹴りの2連撃だ。獅子龍王流の型の中には蹴りの流れがあったがその応用となる」
確かに獅子龍王流の型の流れの中には突きや手刀の他に蹴りの流れもあった。それに回転による遠心力を加えて威力を上げているようだ。
「この技は回転することにより威力を上げ、足の出どころを分かりにくくしつつ、上段に右足、下段に左足の連撃を叩き込むことになる。単純そうに見えて、たとえ上段を防御することができたとしても、連続で繰り出される下段の攻撃まで防ぐのはなかなか難しい」
リオネさんの言う通り、一度的に背を向けているため、どこから攻撃が出てくるのか分かりにくい。そして高速で上下の連撃を叩き込むわけだから、たとえ一撃目を防げたとしても、そのまま連続で繰り出される下段の攻撃は防げないわけか。
「ただし、一度相手の前で回転して背を向けるわけだから、一瞬完全に無防備になる。その隙は無防備になるわけだから、使いどころを見極めることが大切だぞ。だが隙があるとはいえ、鍛錬を積んで行けば……獅龍双蹴!」
リオネさんはもう一度獅龍双蹴を繰り出すが、そのスピードは先ほどまでとはまったくの別物であった。
「とまあ、隙はあるかもしれないが、この隙をなくすくらいの速度で技を繰り出せば問題ないぞ」
「……すげえ速さだな。まったくと言っていいほど目で追うことができなかったぜ」
「すっげ~! めちゃくちゃ速かったぜ!」
「お姉さん、すごい!」
みんなが驚嘆の声を上げる。
リオネさんは身体能力強化魔法を使っていなかった。もし今のを身体能力強化魔法を使ってやっていたら、もっととんでもない威力になっていたに違いない。それこそ生身の身体で防御しようとしたら、その防御した腕や足が折れていただろう。
人は武術をここまで鍛えればあれほど速く動くことができるんだ。リオネさんがすごいと思うのとは別に、武術の可能性も同時に感じることができた。あれほどの速度で動ければ、たとえ属性魔法を持っていなくても、それを超える力を持つことができるかもしれない!
「さあ、それでは見よう見まねでいいから、今のをやってみるといい」
「「「はい!」」」
「せいっ!」
「えいっ!」
先ほどリオネさんが放った獅龍双蹴を真似てそれを繰り返している。
「……ふむ、他のやつの動きも悪くはないな。しっかりと毎日続けて鍛錬をしていなければ、これほどの動きはできないだろう」
リオネさんがオズとモニカのほうを見ながら、そんなことを言う。2人は普段村で属性魔法の訓練を行ったあとに、しっかりと獅子龍王流の型や技の鍛錬を行ってきた。そのことがリオネさんにも分かるらしい。
「リオネさん、2撃目の左の回し蹴りについてなんですけれど、こんな感じでしょうか?」
先ほどのリオネさんの動きを真似て獅龍双蹴を繰り出してみたけれど、2回目の蹴りの方があまりうまくできなかったから、リオネさんに直接聞いてみた。
「……ああ。そこはだな、こうやってピーンと伸ばした足をこれくらいの角度でグワッとこうする感じだ」
「「「………………」」」
さっきから何度かリオネさんに質問をしたのだが、返ってきたのはこんな感じの答えばかりだった。
そういえば、昨日リオネさんは人に何かを教えるのが苦手って言っていたっけ。どうやらリオネさんは感覚的に身体を動かしているようで、うまく言語化するのは苦手なようだ。
リオネさんから教えられるのは少し難しそうなので、分からない部分があれば、何度もリオネさんに技を繰り返してもらい、獅龍双蹴の技をひたすらに繰り返した。
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