第29話 稽古


「とりあえず、3人とも見事に合格できたな。こりゃ俺や村長たちも鼻がたけえぜ!」


 イーサム学園での合格発表を見て、3人分の入学手続きを終え、学園の外へ出た。ゴード師匠の言う通り、3人ともこの学園へ入学することができる。


 僕はギリギリの補欠合格だったけれど、結果的には他のみんなと同じ待遇でこの学園に通えるみたいだ。


「よっしゃあ、これで3人一緒に学園へ通えるな!」


「これで一緒に学園へ通えるね、エフォート、オズ!」


「うん!」


 オズもモニカもとても嬉しそうだ。2人とも学科試験が駄目で、実技試験も2属性持ちの受験生の試験を見て不安そうにしていたからね。


 もちろん僕もこの2人と一緒に学園へ通えるのはとても嬉しい。前世では身体が弱くてあんまり学校では自由にできなかったこともある。


 ……だけどちょっとだけ心配でもある。なにせ僕はギリギリの合格で、係の人が言うには、補欠合格の人の大半はこの学園の授業についていけずにこの学園を去ることになるらしい。


 しかも僕はみんなとは違って属性魔法を使えないということもあるから、みんな以上に頑張らないといけない。そうなるとやっぱりあの獅子龍王流の道場でリオネさんにいろいろと教えてもらいたいんだけれどなあ。




「リオネ殿、昨日お邪魔したゴードだ。中に入ってもいいか?」


「ああ、開いているよ」


 入学の手続きを終えて、軽くご飯を食べてから昨日訪れたこの街にある獅子龍王流の道場へとやってきた。昨日の約束通り、今日はリオネさんに新しい獅子龍王流の技を教えてもらうためだ。


 ゴード師匠が入り口を叩くと、中からリオネさんの声が聞こえてきた。その言葉を聞いて、僕たちは道場の中へ入った。


「よく来たね」


 道場の中へ入ると、そこには昨日と同じ着物のような服を着たリオネさんが背筋を伸ばして正座をしながら座っていた。


「「「………………」」」


 正直に言って、昨日はお酒を飲みながら横になっていてだらしのない格好をしていたけれど、今日はしっかりと座っているから昨日とはまったく別人の綺麗なお姉さんに見えた。


 それは僕だけじゃなかったみたいで、横を見るとみんなもとても驚いた顔をしていた。


「学園の試験の方はどうだったんだい?」


「あ、ああ。3人とも無事に合格したぜ。今日の夕方からは3人は学園の寮へ入ることになる」


「……ほう、そっちの属性魔法が使えないガキの方も合格したのか。そいつは意外だったな」


 そのガキというのは僕のことだ。そういえば昨日もそうだったけれど、リオネさんは僕たちのことを名前で呼んでくれないみたいだ。


「でも僕はギリギリの合格で、合格を辞退するように勧められました」


 試験には合格したとはいえ、本当にギリギリの合格だったことを一応正直に伝えておいた。


「……ふむ。そいつはお前が属性魔法を使えないせいだろうな。むしろ、属性魔法を使えないのに、ギリギリとはいえイーサム学園の入学試験に合格したことは誇っていいことだと思うぞ」


「は、はい!」


 ギリギリの合格だったというのに褒めてもらえるとは思えなかった。


「それじゃあ合格祝いということで、獅子龍王流の技をひとつ教えてやるとしよう。この街の道場にやってきたのも何かの縁だしな」


「「「ありがとうございます!」」」


 3人でリオネさんに頭を下げた。


「リオネ殿、俺も一緒に教わってもいいだろうか? こちらに酒を持参したんだが」


「ああ、別に構わんぞ。ほう、なかなか良い酒だな。あとで楽しませてもらうとしよう」


「あ、ああ。感謝する」


 ゴード師匠がお土産に持参したお酒をリオネさんに渡した。大人の気遣いみたいなものかな。


 そしてリオネさんがゴード師匠の方へお酒を受け取りに近付くと、ゴード師匠は少し慌てた感じで顔が少し赤くなった。


「父ちゃん! 浮気したら母ちゃんに言いつけるからな!」


「ば、馬鹿野郎! そんなんじゃねえよ!」


「「………………」」


「くっくっく」


 リオネさんは綺麗な女性だし、村にはないような綺麗な服を着ているから、ゴード師匠は鼻の下を伸ばしてしまったんだな。笑っているリオネさんもとても綺麗だ。


 ……でも僕もオズと一緒で浮気は絶対に許さないよ。万が一ゴード師匠が浮気しそうだったら、迷わずオズのお母さんに告げ口しよう。オズのお母さんは普段とても優しいけれど、怒ると本当に怖いからね。

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