第27話 合格発表


「はあ、緊張するぜ……」


「モニカ、お腹痛い……」


 オズもモニカもイーサム学園の入学試験の結果発表にものすごく緊張しているみたいだ。


「大丈夫、2人なら絶対に合格しているよ!」


 むしろ僕が落ちているかだけが心配だ。


 2人の手前、ものすごく冷静なように見せているけれど、きっと僕が一番緊張している。こっそりと握った手の中は汗でびっしょりだ。だって前世を含めても合格発表を友達と一緒に見守るなんて初めての経験だよ!


 頭の中ではいろいろとパニック状態だ。前世で試験の合否を見守る人たちって、いつもこんなにすごいプレッシャーに耐えていたんだね。本当に尊敬するよ……


「ほら、さっさと結果を見て来るぞ。別に落ちたところで取って食われたりはしねえよ。駄目でもイーサムの街までこれていい経験になっただろう」


 確かにゴード師匠の言う通り、別に試験に落ちたとしても死ぬわけでもなく、村に戻ってお父さんとお母さんと今まで通り村で暮らすだけだ。


 ……でもそこにはオズとモニカがいない可能性もある。受かるなら3人で受かるか、落ちるなら3人で落ちたいなあ、なんて酷いことを考えちゃうよ。いけない、そんなことを考えていると罰が当たって、僕だけが落ちちゃう。


 それにもう結果は決まっているんだ。今から焦っても仕方がないもんね。


 いやごめん、そんな強がりを言っているけれど、僕も緊張でやばいかも……




 昨日獅子龍王流の道場を訪れてリオネさんと出会ったあとはイーサムの街を見て回った。村へのお土産をみんなで選んだり、もしも今日合格していた場合に必要な物を確認しておいた。


 もしも今日入学試験に落ちてしまったら、夕方には村へ向けて帰らなくちゃいけない。


「おっ、こっちだな。時間になったら、あそこに番号の書かれた紙が貼り付けられることになっているぞ」


 ゴード師匠たちと一緒に学園の庭へ行くと、そこには大きな掲示板があり、すでに多くの受験生が試験の合格の発表を待っている。


 周りにいる受験生は僕たちみたいな村からやってきた子供やそこまで身なりが良くない子供たちしかいなかった。やはりその辺りは貴族や身分が良い人たちに配慮されているみたいだ。


 きっと2属性持ちの受験生たちは発表も別の場所なのかもね。


「おっ、いよいよ発表されるみたいだな」


 周囲がざわざわとしてきたと思ったら、大きな紙を持った学園の人たちがやってきた。


「い、いよいよだな!」


「う、うん」


 さすがのオズもだいぶ緊張しているみたいだ。もちろん僕も心臓がバクバクしている。


「神様、お願い……」


 モニカが両手を握りしめて、神様に祈っている。


 ここまできたら、僕も神様に祈るしかない。神様、どうか3人でこの学園に合格させてください……


「やったあ、私の名前があるわ!」


「おお、よくやったぞ! さすがパパの娘だ!」


「……父さん、僕は駄目だったみたい」


「ほら、元気を出せ。ここが駄目でも別の街の学園もあるからな!」


 順番に合格者の番号の書かれた紙が掲示板に貼られていく。そして紙が貼られているたびに、受験者やその親の一喜一憂する声が聞こえてくる。本当に緊張してきた。オズとモニカはともかく、僕はこのイーサム学園の入学試験が駄目なら、他に行ける場所がない。


 僕たちの番号は全員が100番台で、いよいよ僕たちの番号が近付いてきた。


「やったぜ、父ちゃん! 俺の番号があるぜ!」


「モニカの番号もあったよ!」


「おお、やったな、オズ! モニカもよくやったぜ!」


「………………」


 ……そうか、オズもモニカも合格したんだな。やっぱり2人はすごいや。


 貼り付けられた合格者の番号が書いた紙には僕の番号は載っていなかった。どうやら僕は駄目だったみたいだ。


 なんだか、とても悔しい。これが試験に落ちるという気持ちなんだね。前世ではこんな経験をしたことがなかったけれど、本当に悔しいものなんだ。なんだか、胸の中でドロドロしたものが暴れまわっているみたいだよ。


 おっといけない。僕が暗い顔をしているのを見て、みんなが僕になんて声を掛ければいいのか分からない顔をしている。とても悔しいけれど、みんなにはその気を遣わせちゃいけない!


「オズ、モニカ、おめでとう! やっぱり2人はすごいや!」


「エフォート……」


「オズ、そんな顔はしちゃ駄目だ。僕も精一杯やったんだから悔いはないよ! この学園には入れなかったけれど、僕は村でもずっと鍛え続けるからね。オズが村に戻ってきた時、僕はもっともっと強くなって、オズには絶対に負けないよ!」


「……おう、俺だってエフォートには絶対に負けねーからな!」


「エフォート……」


「ほら、モニカは受かったんだから泣いてちゃ駄目だよ。うちの村から2人もイーサム学園に受かるなんて本当にすごいことだって村長も褒めてくれるからね。でも僕もモニカに会えないのはとっても寂しいから、休みの時はちゃんと帰ってきてほしいな」


「うん、休みの時はモニカ絶対に村へ帰る!」


 モニカが泣きながら僕に抱き着いてきた。さすがにここまできて、学園に入りたくないなんてことはモニカも言わないみたいだ。


 ……でも、しばらく2人に会えないのは本当に寂しい。


「それではこちらが補欠合格の者である! 合格者の掲示板に番号がなかった者はこちらも見ておくように!」


 掲示板に合格者の番号を張り出していた人たちが、今ある掲示板の横にある小さな掲示板へ新たな紙を貼り出した。

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