第26話 新しい技
「……悪いが、もう道場は閉めたんだ。これ以上、誰かを門下生として迎えて、獅子龍王流を教えるつもりはない」
「「「………………」」」
リオネさんは少しだけ何かを考えるように目を瞑ったが、すぐに目を開けて否定の言葉を口にした。
「少しだけでも考えてくれないか? もちろんちゃんと謝礼も出させてもらう」
この街で武術を教えてもらうためにはどれほどの対価が必要なのかは分からないけれど、村長は例のワイバーンの素材を売って得たお金の一部を今回持たせてくれていたみたいだ。
「すまんが金の話ではないんだ。他の街にはまだ獅子龍王流の道場が残っている場所もあるだろう。悪いが他をあたってくれ」
「……そうか、承知した。それでは、獅子龍王流の技をいくつか教えてくれないだろうか? 残念ながら俺が学んだり、他の者から聞いた技は弐の技までしか知らないんだ」
「この道場に来たのも何かの縁だ、ひとつだけだが技を教えてやる。謝礼も不要だ。先ほどそのガキの力は見せてもらった。遊びで獅子龍王流を学んでいるというわけではなさそうだからな」
「……はい、ありがとうございます」
「ありがとうございます!」
「あ、ありがとうございます!」
どうやら弟子として鍛えてはくれないようだが、獅子龍王流の技のひとつを教えてくれるらしい。
この人に褒められるのはとても嬉しいけれど、弟子として鍛えてもらえないのはすごく残念だ。ゴード師匠と一緒にリオネさんにも鍛えてもらいたかった……
いや、そもそも僕たちは学園の試験に合格しないと明日には村へ帰ってしまうんだった。そうなると、獅子龍王流の技を教えてくれるだけでもとても嬉しい。
「とはいえ、さすがに今日は酒も入っているからな。明日またここに来るといい」
「はい。あっ、でも明日はイーサム学園の入学試験の結果が出るんだった……」
そもそも、僕たちがこの街に来た理由はこの街のイーサム学園へ入学するためだ。
「発表は明日の朝から学園の掲示板に張られるから、それが終わってからここに来させてもらえばいいだろ。全員受かっていたとしても、寮へ入るのは夕方からだしな」
「なんだ、お前たちはこの街の学園へ入りに来たのか?」
「は、はい! 3人一緒に同じ学園へ入りたいけれど、属性魔法を使えない僕はそもそも試験を受けられる学校がほとんどなくて……」
「はは、今時属性魔法を使えないのに学園の入学試験を受けるとは面白いやつだな!」
リオネさんは軽く笑っているが、それは僕を馬鹿にしたような嘲笑ではなく、純粋に面白いと思っているような笑いだった。
「学科試験は大丈夫だったと思うけれど、実技試験がどうだったかは分からないんです」
「イーサム学園の実技試験だと、純粋な戦闘能力だけの試験だったか。そうなると今のこいつの攻撃ならば……いや、とはいえ属性魔法が使えないのか……だが、あるいは……」
リオネさんは顎に手を当てながらうんうんと唸っている。僕がイーサム学園に受かるかどうかを考えてくれているのかな?
「リオネ殿、そんなわけで、もしもイーサム学園の入学試験に合格した場合、明日の夕方には学園の寮に入ってしまうのだが大丈夫だろうか?」
ゴード師匠はあえて言ってないみたいだけれど、試験に落ちた場合も夕方には馬車が出て、僕たちの村に戻る予定だ。……僕だけが落ちるという結果になる可能性もかなり高いので、そうならないことを祈るしかない。
「……んっ、ああ、大丈夫だ。先にも伝えたが、どうやら私は人にものを教えるのがうまくないようだからな。どちらにせよ、基本的には私が繰り返す技を見て真似てもらうだけになるぞ」
「な、なるほど。いや、それでも十分にありがたい。それじゃあ明日はよろしくお願いする」
「よろしくお願いします!」
「よろしくお願いします!」
「よ、よろしくお願いします!」
「しかし、あんな武人がいる道場でも畳んでしまうほど、今は武術が廃れちまっているんだな」
「ゴード師匠がいた道場の師範の人たちよりも強そうだったの?」
「ああ。俺が入った道場もかなり有名な獅子龍王流の道場だったが、その一番上の大師範並みの圧を感じたぞ。最初に酒を飲んでいた時はまったく感じなかったぜ。エフォ坊はよく分かったな」
「えっと、圧みたいなものは感じなかったけれど、それぞれの所作がとても流れるような動きだったよ」
「すっげ~! 全然気づかなかったぜ!」
「モニカも全然わからなかった!」
一見すると盃を持ってお酒を飲んでいただけだけれど、その所作には獅子龍王流の型の流れるような動きが見て取れた。あれは相当な鍛錬を積んでいる証拠だと思った。
ゴード師匠がいう圧についてはまったく感じなかったけれど、対人戦なんかの経験とかで分かるものなのかな。
「少なくとも、ただの酒飲みじゃあの動きはできっこねえな。前にも言ったが、武術は少しサボるだけで、力がすぐに衰えちまうからな」
そう、この世界の武術は積み重ねた努力がほんの少しずつだが、自らの肉体を強くする。あれだけ強かったリオネさんがただのお酒飲みなはずがない。
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