第25話 廃れた理由
「こんなご時世にまだお前みたいなガキがいるとはな。そっちの2人のガキもお前くらいの腕なのか?」
「いえ、2人は属性魔法を使えるから、僕よりも強いです」
「ほう……属性魔法持ちか」
お姉さんがオズとモニカの方に視線を送る。
「そ、そんなことはねえぞ! 多分本気で戦ったら、エフォートの方が強いぜ!」
「モ、モニカよりもエフォートの方が強いもん!」
オズもモニカもそんなことを言うけれど、昨日の実技試験での魔法を見る限り、実戦では僕の方が劣っていることは明らかだ。
それにしてもこのお姉さんは本当に強い。女性なのにこれほど速く動き、力のある人を僕は初めて見た。前世では女性よりも男性の方が肉体的に強いはずだったけれど、こっちの世界では全然そんなことはないみたいだ。これも魔法というものが関係しているのかもしれない。
少なくとも、この人は今まで僕が見た中で一番強く、そして最も鍛錬を積んできた人だ!
「それでこの3人のガキを教えたのはあんたかい?」
「……ああ。俺はゴードという。確かにこの3人を鍛えたのは俺だが、俺は獅子龍王流の武術をほんの少ししか習うことができなかった。俺には獅子龍王流の型と少しの技しか教えられていねえ。それに組手ではもうそっちのエフォ坊には敵わねえよ」
「ふむ、なるほどね。おっと、名乗りが遅れたね。私はリオネだ。それにしても、この年でここまでの研鑽を積んだ子供を見たのは初めてかもしれないよ。将来が楽しみじゃないか」
「………………」
あれ、もしかして僕が褒められている? 僕の本気の攻撃はリオネと名乗る着物を着たこのお姉さんに手も足も出なかったのに。
「うちの村や近くの街にはあんたほどの腕を持った獅子龍王流の武術の使い手はいねえ。いや、まだリオネ殿の全力を見させてもらったわけじゃねえが、少なくとも俺がいた道場にいた武術の使い手の中ではあんたが一番の武術の使い手だと思う」
どうやらゴード師匠が今まで出会った武術の使い手の中でもこのリオネさんが一番の使い手らしい。
「道場を閉めたと言っていたが、あんたほどの腕があっても門下生は入らないものなのか?」
確かにゴード師匠の言う通りだ。いくら武術が廃れたとはいえ、リオネさんみたいに強い人がいる道場に人が来なくなることなんてあるのかな?
「元々この道場は祖父の道場でね。私も祖父から獅子龍王流の武術を学んだよ。祖父が若かった頃にはここの道場にも大勢の門下生がいたらしい。しかし、やはり時代の流れと言うべきか、属性魔法の発見と効率的な運用方法が見つかってからは獅子龍王流の武術も急激に廃れていったようだね」
お姉さんが過去を振り返るようにゆっくりと語る。
「それでも私が子供のころにはまだ何人かの兄弟子や姉弟子がいて、一緒にひたすらに武術を極めようとしたものだよ。だが、祖父が亡くなってからは兄弟子や姉弟子たちもこの道場から離れていった。その頃には私も獅子龍王流を教える立場になっていたが、どうやら私は祖父と違って人に何かを教えるのが得意ではないらしい。そんなわけでこの道場は少し前からご覧の有様ってわけだ」
「「「………………」」」
やっぱり、属性魔法の発見はだいぶ武術にも影響を与えたみたいだ。
僕の頭の中に昨日の試験の時にいた2属性の魔法を使った混成魔法が思い浮かぶ。確かにあんな魔法が使えてしまえば、武術が廃れていくのも分かってしまう。さすがにあんな魔法を使える人はほとんどいないと審査員人は言っていたけれど、あんな魔法にあこがれるという気持ちは僕も痛いほど分かる。
「なるほどな、変なことを聞いてしまってすまなかった」
「なあに、別に気にする必要はない。そんな訳でこの道場はもうやっていないよ。そのガキどもはちっとは見どころがありそうじゃないか。この辺りだと、白雷狼流の道場がまだやっているはずだから、そっちに連れていってやるといい」
そう言いながら、道場の床へ置いていた盃を再び拾い、そこに酒を注ぎ始めた。リオネさんはこれ以上僕たちを教えるつもりはないという態度だ。
「……だってよ、エフォ坊?」
僕は白雷狼流の武術がどんな武術かは知らないけれど、これまでずっと獅子龍王流を学んできたんだ。僕は獅子龍王流の武術を学んでいきたい。
「僕は獅子龍王流がいいんです! お姉さん、僕に獅子龍王流の武術を教えてください!」
「俺にも獅子龍王流を教えてください!」
「わ、私にも獅子龍王流を教えてください!」
僕に続いてオズとモニカもお姉さんに頭を下げた。
「……こんなにも廃れた武術の何がいいのかねえ」
「たとえ廃れた武術であっても、僕は獅子龍王流の武術を学んでいたおかげで、大切な人たちを守ることができました! 僕は獅子龍王流がいいんです!」
村がワイバーンに襲われた時は奇跡が起きたとはいえ、獅子龍王流の武術を学んでいたからこそワイバーンを討伐することができた。もしも獅子龍王流の武術に出会っていなければ、ワイバーンに立ち向かうことすらできなかった。
モニカやゴード師匠だけでなく、僕自身も間違いなく死んでいただろう。だからこそ、僕は他の武術ではなく、獅子龍王流の武術を学びたい。
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