第23話 道場


 2属性持ちの受験生の見学を終えて、イーサム学園の外で待ってくれていたゴード師匠と合流した。


「おう、3人とも試験はどうだった?」


「父ちゃん、俺たぶん駄目だと思う……」


「ゴード師匠、モニカも落ちちゃったかもしれない……」


「おいおい、2人ともそんなに駄目だったのか!?」


 ゴード師匠がとても驚いた声を上げる。そりゃまあ、朝にあれだけ自信のありそうだった2人が落ち込んで帰ってきたら、何事かと思うに違いない。


「ゴード師匠、少なくとも2人の実技試験は大丈夫そうだったよ。ただ、そのあとに2属性を持った受験者の実技を見て、少し自信を無くしちゃったみたいなんだ」


「ああ、そういうことか。世の中、上には上がいるものだからな。貴族のお偉いさんのガキどもなんかには2属性持ちなんてゴロゴロいるだろ。まあ、2人には自分の力を過信することにならず、むしろ良かったかもな。それでエフォ坊はどうだったんだ?」


「う~ん、僕は分かんないな。筆記試験は大丈夫だったけれど、実技試験がどうなるか次第だと思うよ」


「……エフォ坊は相変わらずだぜ。この学園の実技試験ならエフォ坊の力はちゃんと評価されると思うんだが、属性魔法を使えないことがどう響くのかは村長や俺にも分からねえからな。まあいい、とりあえずもう試験は終わったんだから、忘れておけ。せっかく、イーサムの街まで来たんだから、楽しむぞ!」


 ゴード師匠の言う通り、もう試験は終わったのだから、今更何をしても意味がない。


「そうだね、もう入学試験は終わったんだし、それをいつまでも気にしていてもしょうがないよ。ほら、オズもモニカも元気出して。ゴード師匠、僕はこの街の屋台街に行ってみたい!」


「そうだよな、男がいつまでもくよくよしていても仕方がないもんな! 父ちゃん、俺もこの街を歩いてみたい!」


「モニカも! お母さんがこの街に甘いお菓子があるって言ってた!」


「おう、せっかく街に来たんだから、いろいろと回るぞ! 街にはうまいもんもいっぱいあるからな。まずは腹ごしらえするぞ」


 どうやらオズもモニカも少し元気が出たようだ。この街へ来る時、お父さんとお母さんからお小遣いをもらっている。あんまり使う気はないけれど、街に来ることなんてめったにないんだ。せっかくならおいしいものを食べてみたい。


 そのままみんなと一緒にイーサムの街を観光しておいしいものを食べた。イーサムの街はレスリアの街よりも大きくて、見たことがない食べ物もいっぱいある。油断をするとすぐにお金が無くなっちゃいそうだよ。


 そのあとは昨日と同じ宿へ戻ってきた。当然いつもの日課になっている獅子龍王流の鍛錬は忘れない。






 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「よし、それじゃあ今日はまず、獅子龍王流の道場へ行ってみるとするか」


「うん!」


 今日は1日中休みとなる。試験の結果は明日発表される。もしも入学試験に落ちていたら、明日のうちに馬車で村へと出発する予定だ。うちの村はそれほど余裕があるわけじゃないからね。


 そして今日はまず、このイーサムの街にある獅子龍王流の道場を訪ねる予定だ。武術は寂れてきたようだけれど、どうやらこの街にはまだ獅子龍王流の道場が残っているらしい。


「レスリアの街にも道場はなかったもんな。初めて見る武術の道場は楽しみだぜ」


「きっと大きいんだよね~!」


 すでにオズとモニカも獅子龍王流――というよりは武術が廃れてきていることをゴード師匠から聞いている。それでも、属性魔法の鍛錬もあるのに2人とも今日まで僕と一緒に武術の鍛錬を続けてきてくれた。2人は本当に感謝しかない。


「……まあ、あんまり期待はすんなよ。俺が子供のころは道場もいくつかあったが、今じゃ街に道場が残っているだけで珍しいからな」


 ゴード師匠が少しの期間だけ入門した道場は別の街にある道場だけれど、それほど大きい道場じゃなかったらしい。それでも道場がまだ街に残っているだけマシらしかった。


 それに武術には獅子龍王流だけじゃなくて、他の流派もあるらしい。イーサムの街は大きな街で、他の流派の道場もいくつか残っているようだ。




「……ここがこの街にある獅子龍王流の道場だな」


 ゴード師匠は昨日のうちに道場の場所を調べてくれていたようで、すぐに道場まで辿り着くことができたのだが……


「ボロっちいな……」


「あんまり綺麗じゃないね……」


 オズとモニカの言う通り、やってきた獅子龍王流の道場はお世辞でも立派な道場とは言えなかった。


 この街の建物の大半はレンガのような物と塗り固められた土のようなもので建てられている家が大半だったけれど、この道場は僕たちの村と同じ木造の建物らしい。


 だいぶ老朽化していて、壁のところどころに穴が開いている。あちこちに蜘蛛の巣も張っていて、長い間使われていないように思えた。


「こりゃ、今はもう使われていなそうだな。残念だが、今の武術はこんなもんだ。しょうがねえ、獅子龍王流じゃねえが、この街には他の流派の道場があるから、そっちを覗いてみるか」


「せっかく来たから、中に誰かいないかは見てみようよ。すみません~誰かいませんか?」


 道場の外見は寂れていたけれど、中には人がいるかもしれない。せっかくなら、僕は今までずっと鍛錬してきたこの獅子龍王流の武術を学び続けたい。

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