第21話 全力の一撃


「モニカ、頑張って!」


「うん!」


 オズの次はモニカの番だ。今のオズの試験を見て少し緊張が解けたようで、元気に返事をして前へ進んでいった。試験の順番が一番最初じゃなくて良かった。もし一番だったら、緊張して本来の実力を出し切れていなかった可能性もある。


「ふう~緊張したぜ!」


「すごかったよ、オズ。審査官の大人も驚いていたみたいだったし」


「本当か! よっしゃあ、これで筆記試験の分は取り返せたぜ! 次はモニカの番か。あいつも緊張してなきゃいんだけどな」


「オズのを見て少し緊張が解けたみたいだから多分大丈夫だよ」


「それならよかったぜ」


 モニカは少し緊張しがちなことがあるからね。実践の狩りでも魔物にビビって本来の実力を出せずに危ないこともあった。モニカは元から大人しい女の子だから、当然と言えば当然だ。


「……ウォーターボール!」


 モニカの前に水の塊が現れる。そしてその水球は一番最初の男の子が見せたファイヤーボールよりも遥かに速く膨らんでいき、50センチメートルほどの巨大な水の球となって、高速で的へと飛んで行った。


 バシュッ


 そしてその水球は他の子の魔法と同様に的へ命中して消えていった。的自体は無傷だったけれど、審査官がとても驚いた表情をしていたから、試験はたぶん大丈夫じゃないかな。


「相変わらずモニカの魔法はすごいぜ」


「うん、村ではもう村長の次にすごいもんね」


 そう、モニカはすでに村では幼いながらも村長の次に凄い魔法の使い手になっていた。あのワイバーンの襲来のあとに一番鍛錬を頑張っていたのはモニカかもしれない。


 とはいえ、村に属性魔法の使い手は数人しかいないから、あまりその凄さが分かっていなかった。他の同年代の子供たちと比べると、抜きん出た力を持っていることが良く分かる。


「それまで! 次、エフォート殿」


「はい!」


 続けて僕の番がやってきた。同じ村だから、順番に行われているのかもしれない。


「エフォート、頑張れよ!」


「うん!」


 オズからの声援をもらい、的の方へ進む。


「エフォート、頑張って!」


「うん! 本当にすごかったよモニカ」


「えへへ~」


 元の場所に戻っていくモニカとすれ違いながら言葉を交わす。


 そうだ、僕だけ2人に置いて行かれるわけにはいかない! 絶対に3人でこの試験に合格してみせる!


「あの、僕は属性魔法を使えないので、身体能力強化魔法を使った武術でも大丈夫ですか?」


「うん? ……君は属性魔法が使えないのだな。ああ、別に武術でも構わないぞ。ただし、その場合も他の者と同様に一撃だけだ」


「はい、分かりました!」


 念のために試験官の人に確認をする。試験官の人は名前を読んでいた名簿をもう一度見て、改めて僕を見た。もしかしたら、その名簿には受験生の属性魔法が書かれているのかもしれない。


 イーサム学園の試験を受ける際に、何の属性魔法を使用できるかを記載している。属性魔法を使えない僕はその欄を空白で提出した。当然虚偽の報告なんかはすぐに不合格だ。嘘を付いて2属性持ちとか書いても、すぐに祝福によってバレてしまうからね。


「……ふう~」



 さっき僕が属性魔法を使えないと自己申告をした時から、周囲はざわざわとしている。大方、属性魔法を使えない子供がどうして試験を受けに来ているんだとか言われているのかもしれない。


 事実、これまでに実技試験を受けていた子供たちはオズやモニカを含めて、その全員が何らかの属性魔法を使用できていた。やはりゴード師匠が言っていたとおり、今では武術は完全に廃れて、魔法を使えるということがステータスとなっているらしい。


 だけどそんなのは関係ない。たとえ属性魔法が使えなくても、僕にはこれまでずっと積み重ねてきた獅子龍王流の武術がある。


 獅子龍王流の構えを取って気を落ち着かせる。いつも通り構えを取れば、周りの雑音はすべて消えていった。


「獅子龍王流壱の技『龍牙穿りゅうがせん!』


 握りしめた右拳を上へと向け、左手の二の腕を発射台に見立て、拳を半回転させながら穿つ突きを的へ向けて放つ。今の僕が何度も何度もひたすらに繰り返してきた技だ。


 もうすでに何度放ってきたか分からないほど繰り返してきた龍牙穿が、身体強化魔法によって通常の数倍になった速度と合わせて的へと激突した。


「………………」


 確かな手応えを感じつつ、衝撃により黒い的が少し後ろへと下がった気がした。


 ……だが、それだけだった。どうやら今の僕の全力の一撃ではこの黒い的を破壊することができなかったようだ。


「そ、それまで! 次、シュトレー殿」


 名簿を見て審査官の人が次の順番の人の名前を呼ぶ。


 僕の一撃はどうだったのだろう? 最初の説明だと、それぞれの攻撃の威力は測定されているようだけれど、受験者にはそれが分からない。少なくとも、他の属性魔法を使った攻撃よりも見た目だけは劣っているっぽいなあ。


「やったな、エフォート。凄い一撃だったな!」


 オズとモニカのいる場所に戻ると、オズが褒めてくれた。


「エフォート、思いっきり打っていたけれど、拳は大丈夫?」


 昔は身体能力強化魔法を掛けて全力で拳を撃つと僕の拳の方が痛くなっていたけれど、身体が成長してきて、鍛錬を繰り返していくと拳を傷めないようになった。


 全力で龍牙穿を撃つと巻き藁なんかはすぐに壊れるので、最近では崖に向かって練習をしている。


「うん、全然痛くないから大丈夫。今の僕が打てる全力の一撃が打てたから、これで駄目なら悔いはないよ」


 ……これはちょっぴり嘘だ。できることなら、オズとモニカと一緒にこの学園へ入りたい。

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