第20話 実技試験


「や、やばい! 全然できなかった……」


「う~ん、モニカも……」


 筆記試験を終えてオズとモニカと実技試験の会場まで移動をしている。


 そうやら2人とも筆記試験は微妙だったらしい。


「2人なら次の実技試験で絶対に巻き返せるよ。大丈夫だから、自信を持っていこう!」


 むしろ、これからの実技試験は俺だけが不安で仕方がない


「……うん、そうだな! 絶対に3人で受かってやろうぜ!」


「うん! モニカも頑張る!」


「うん。せっかくなら3人全員で受かろう!」


 さて、いよいよ実技試験だ。




「それでは実技試験の説明をさせていただきます。名前を呼ばれたら前に出て、それぞれの一番得意な魔法を一度だけ使用して、あの的を攻撃してください。的を破壊できなかったとしても、この的には各々の攻撃の威力が分かる仕組みとなっておりますので、残念がる必要はございません。そもそもこの的を壊せるほどの魔法が使える者はほとんどいないでしょう」


 イーサム学園の実技試験は本当にシンプルな試験で、昔からこの実技試験を採用している。


 他の学校だと、属性魔法を使用した試験を採用していることがほとんどで、僕がまともに受けられる学校はここしかないのが現状だ。


「それではこれより実技試験を開始します! それぞれ、各教員の指示に従ってください」


 ここには30人くらいの子供たちが集められている。筆記試験の時もそうだったけれど、見渡す限りは僕たちと同じような服装をしているから、ここにいるのは小さな村や街出身の子供たちなのかな。


 さすがに貴族の子供たちと一緒に試験をするのはいろいろとまずそうだから、別々に試験を受けさせているようだ。


「うわあ……ドキドキしてきた……」


「だ、大丈夫だぜ、モニカ! あ、あんなに鍛錬してきただろ!」


 2人ともだいぶ緊張しているようだ。僕も筆記試験の方は大丈夫だったけれど実技試験の方は不安だ。


 それに村長は2人くらいの魔法が使えれば、ここ名門のイーサム学園の試験に合格できることは間違いないと言っていたけれど、僕たちが同じ年代の子供たちがどれくらいの実力を持っているのかはさっぱり分からない。


 オズもモニカも例のワイバーンに襲われた時から思うことがあったらしく、属性魔法や獅子龍王流の武術を熱心に鍛錬してきた。村長までとはいかないけれど、他の大人と同じくらいの属性魔法を撃てるようになっている。


 とはいえ、それがどのくらいのレベルなのかが分からない。実際に街に出てみたら井の中の蛙だったなんてこともあるかもしれない。


「シュメロ殿、前へ」


「ひゃ、ひゃい!」


 名前を呼ばれた男の子が緊張した様子で前へと出る。


「それでは自分の一番得意な魔法を使用してあの的を攻撃してみてください」


「は、はい!」


 的は黒い長方形の物質で、かなり硬そうに見える。よくわからないけれど、あれで攻撃力の強さを判定できるらしい。


「い、いくぞ! ファイヤーボール!」


 シュメロと呼ばれた男の子が両手を前にかざすと何もない宙に火の塊が現れ、少しずつ大きくなっていく。それがテニスボールくらいの大きさになったところで、一気に的へ向かって飛んで行った。


 バシュッ


 放ったファイヤーボールが的に当たって消滅した。的の横には立派なローブを着た試験官が5人ほどいて、何かを書き込んでいた。もしかすると魔法の発動時間なんかもチェックされているのかもしれない。


「それまで! 試験が終わったものは元の場に戻って待機するように」


 男の子は少し悔しがるような顔をしながら元の場所に戻っていった。的が少しも傷付かなかったのが悔しいのかな。でも確かにあの的は相当な硬さみたいだ。


「……なあ、あれくらいなら大丈夫そうじゃないか?」


「……うん。多分モニカたちの方が凄いよね?」


「……いや、まだ分からないよ。今の子がたまたま緊張して力を出し切れていなかっただけかも」


 小さな声でオズとモニカと話をしている。確かに2人の気持ちはよく分かる。あの子には悪いけれど、あれならオズとモニカの方がよっぽどすごい魔法を使える。


「次、ナーデリア殿」


「は、はい!」




「それまで! 次、フルジオ殿」


「はい!」


「「「………………」」」


 これまでに20人ほどの子供たちが魔法を的に放つところを見てきたが、どの子も一番最初の男の子が使ったファイヤーボールくらいの魔法の威力くらいしかなかった。


 これに比べるとオズとモニカの魔法はこの中でもだいぶ抜きん出ていると思う。確かに、僕たちみたいにあれほど鍛錬をしている子供はいないのかな。今じゃ村では遊ぶ代わりにずっとみんなで身体を鍛えているもんね。


「それまで! 次、オズ殿」


「はい!」


「オズ、頑張ってね!」


「頑張れ、オズ!」


 モニカと僕の声援を受けて、オズが的の前に出る。


「いくぜ、ウインドランス!」


 オズが両手かざして風魔法を唱えると、周囲の風がオズの目の前へと収束していく。


「ほう……」


「これはなかなか」


 審査官の大人たちもオズの魔法を見て驚いた様子をしている。


 そして収束した1メートルほどの風の槍が黒い的へと衝突する。


 バシュッ


 結果としてはオズの放った風の槍は他の子が放った魔法と同じように、的に当たって消失したけれど、審査員の大人たちの反応を見ると、かなり好印象みたいだ。


 オズの風魔法は魔法を発動するまでの時間もとても短かった。狩りをする時に時間をかけすぎていたら、実践ではとても使えないもんね。


「それまで! 次、モニカ殿」


「はい!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る