第19話 試験開始


「うわっ、うめえ!」


「うん、とってもおいしいね!」


 無事にイーサムの街へと到着して、宿で晩ご飯を食べている。


 確かにオズとモニカの言う通り、この宿の食事は村で食べるご飯よりもとてもおいしい。悔しいけれど、お母さんの作ったご飯よりもおいしいかもしれない。


 ……村にはない香辛料や肉や野菜の食材がおいしいだけで、料理はお母さんの上だよ、きっと。


「ははっ、レスリアの街とは違ってイーサムの街なんてめったに来ることができねえから、しっかりと食っておけよ。試験は明後日からだから、明日はこの街を見て回るからな」


「本当か、父ちゃん。やったぜ!」


「モニカも楽しみ!」


「……えっと、ゴード師匠。僕は明後日の試験が不安だから、宿の庭でいつも通り鍛錬をしているよ」


「エフォート、せっかくここまで来たんだから、一緒にこの街を楽しもうぜ!」


「モニカもエフォートと一緒に街を回りたい!」


 オズもモニカもそう言ってくれるのは嬉しいけれど、僕には学園の試験を前にして観光をしている余裕はあまりない。イーサムの街に来るまでの馬車の中で鍛錬は続けていたとはいえ、この1週間は村でいつもしている鍛錬はできていない。


 もちろんこの宿でご飯を食べ終わった後も、庭か部屋で鍛錬は続けていくつもりだけれど、それでも今の僕には明後日の学園の試験が不安でしょうがない。


「まあ、エフォ坊の気持ちも分からんでもない。確かに学園の試験に合格して寮に入ることができれば、この街はいつでも楽しむことができるからな」


 試験に合格してイーサム学園に入ることができれば、この学園の寮で生活をすることになる。週に一度は学園の外に出ることもできるから、観光はその時でいい。それにもし試験に落ちたら、試験のあとは観光をすることができるからね。


 ……とはいえ、今試験に落ちた時のことを考えるのは止めておこう。


「そうだな。長い馬車での移動もあったことだし、明日は身体を休めることを優先するか。だが、せっかく遠くの街に来たんだし、明後日の試験のあとはこの街を一緒に回るぞ、いいなエフォ坊?」


「うん!」


 試験が終わったあとなら全然構わない。僕もこの大きな街を回ってみたいもんね。


「ちぇっ、相変わらずエフォートは真面目過ぎるぞ」


「オズもちっとはエフォ坊を見習え。この街にはいろんな場所から優秀な子供が集まってくるんだからな。それこそ、2属性持ちの子供だっているかもしれねえんだぞ。確かにお前たちがそこいらの子供よりも鍛錬していることは認めるが、それでも周りは全員才能があるやつらばかりだからな」


「モニカも明日はちゃんと勉強する!」


「お、俺もちゃんと勉強するぜ!」


 ゴード師匠に言われてモニカとオズも気合を入れ直したようだ。確かに村長からは2人とも十分に鍛錬をしていると褒めていたけれど、この街には遠くの街からも大勢の属性魔法を使える子供たちが集まってくるんだもんな。


 ……ますます僕は合格する気がしなくなってきた。いや、弱気になったら負けだ。こういう時にこそいつも通りの鍛錬を繰り返そう。






 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 イーサムの街に到着した翌日。今日は朝から、宿の庭でゴード師匠と一緒に組み手をしたり、オズとモニカと一緒に勉強をして次の日の試験に備えた。


 そして試験当日、イーサム学園には大勢の子供たちとその親が集まっている。こんなに多くの同年代の子供を見るのは初めてだ。村にはオズとモニカしか同年代の子供はいないからね。


「うわあ……すげえ……」


「人がいっぱいいる……」


「イーサム学園はこの辺りの街の中じゃあ一番有名な学園だからな。そりゃいろんな場所から子供が集まってくるんだぞ。それと、昨日も言ったが、ここには偉い貴族様の子供たちもやってくるからな。喧嘩なんかするんじゃねえぞ」


 お父さんやお母さんからも聞いているけれど、この世界は貴族社会らしい。お偉い貴族さんの機嫌を損なうと大変なことになるみたいだから、気を付けないといけない。


「うん、もちろん分かっているよ」


「も、もちろんだぜ!」


「だ、大丈夫!」


 2人ともそのことについてはしっかりと両親から聞いているようだ。本気で貴族様の機嫌を損ねたら、うちの小さな村なんてひとたまりもない。


「それじゃあ、まずは学科試験からだな。俺はここで待っているから、3人とも頑張るんだぞ」




「それでは筆記試験を始めます。時間はこの砂時計が落ちきるまでです。それでは始め!」


 まずは筆記試験が始まった。目の前の机の上には試験用紙がある。


 ……うん、筆記試験の方は大丈夫っぽいな。簡単な四則演算と文字の読み書きになっている。これなら僕の方は問題ない。


 ちらっとオズとモニカの方を見ているとだいぶ唸っている。この世界では祝福により属性魔法を授かったものは、学校へ入るために教育を受けさせられるから、2人とも村長に勉強を教わっていたみたいだけれど、2人とも勉強は苦手だったみたいだ。


 僕の方は読み書きをお父さんとお母さんに教わった。この世界の文字や言葉は日本語とはまったく異なるけれど、さすがにこの世界で12年も生活していれば、文字や言葉は自然と覚える。


 僕にとっての問題は次の実技試験だ。精一杯がんばろう。

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