第18話 馬車での移動


「エフォート、気を付けるんだぞ!」


「行ってらっしゃい、エフォート。身体には気を付けてね!」


「お父さん、お母さん、行ってきます!」


 お父さんとお母さんにぎゅっと抱きしめられた。お父さんとお母さんに会えないと思うとなんだか悲しくなってくる。


 いよいよ学園の入学試験のために村を出発する日がやってきた。もしも入学試験に合格した場合、そのまま学園の寮へお世話になるため、長期休みまでこの村に帰ってこれない。お父さんとお母さんとはしばらくの間お別れになる。


 ……もしも入学試験に落ちたら、そのまますぐに村へ帰ってくるんだけどね。


「よし、それじゃあそろそろ出発するぞ。早く馬車に乗れ」


「うむ、それではみんな気を付けてくるのじゃぞ!」


「エフォートお兄ちゃん、オズお兄ちゃん、モニカお姉ちゃん、行ってらっしゃい!」


「頑張ってこいよ~!」


 馬車が出ると村の人たちが総出で見送りに来てくれた。村長さん、妹弟子のアルル、門番のみんなまで来てくれて本当にうれしかった。




「学園かあ~どんなところなのか楽しみだぜ!」


「えへへ~3人一緒に入れるといいね!」


「うん!」


 馬車の中に揺られながら、オズとモニカと話をしている。オズの言うとおり、この世界の学園はどんなものかすごく気になる。魔法の授業とかってどんなことを学ぶんだろうな。


 ……3人一緒に入れればいいんだけどなあ。


「さあ~て、道中はだいぶ暇だろうからゆっくりと過ごせよ」


 そして馬車には僕たちのお世話係として、オズのお父さんのゴード師匠も乗っている。


 今回行く予定の街は祝福を受けた街よりも遠いため、さすがに僕やモニカの親まで馬車に乗って街に滞在するお金を用意するのは難しかった。そのため、同行するのはゴード師匠だけだ。


 村から街までは片道1週間はかかるらしい。こんなに長い道のりを進むのは初めてだから少し楽しみではある。でも基本的にはずっと馬車に揺られているだけのようだ。


「もしも村から3人もイーサム学園に入れたら、うちの村始まって以来の快挙だな」


 イーサム学園――今僕たちが向かっているイーサムの街はこの辺りでは一番大きな街で、当然そこにある学園は有名な名門である。どうしてそんな名門校を受けることになったのかというと、これもひとえに僕のせいだ。


 というのも、この辺りにあるいくつかの学園の中で、受験資格に属性魔法を必要としない学園がイーサム学園しかなかったのだ。昔からある伝統校であるがゆえに、その受験資格も昔から1度も変わったことがなかったらしい。


 オズとモニカはこの名門校でも十分に受かるという村長の判断と、僕が学園の入学試験を受けたいといつ言い出してもいいように、この学園を考えてくれていたらしい。


「でも師匠、本当に僕は大丈夫なんですか?」


「う~ん、俺もそのあたりについては詳しくねえからな……まあ、エフォ坊の実力自体は俺も大丈夫だと思うが、属性魔法を使えないってところがどうなるかは正直俺にも読めん。逆にオズとモニカは学科がちと不安なんだよな。まあ実技で十分に取り返せるとは思うんだが……」


「うっ……べ、勉強なんてできなくても大丈夫だぜ!」


「モニカお勉強は嫌い……」


 オズとモニカは実技試験の方は大丈夫だが、学科試験のほうが少し不安のようだ。一応簡単な足し算なら2人ともできるみたいだけれど、他の四則演算については厳しいらしい。とはいえ、聞いたところによると実技試験の方が重視されるらしいから、2人は多分大丈夫だろう。


 むしろ問題は僕の実技試験なんだよなあ……


 なんだか不安になってきた……うん、鍛錬しよう。


「……おいエフォ坊、不安なのはわかるが、こんな狭い馬車の中で動き回るなよ」


「すみません、何かしていないと不安でしょうがなくて……」


「おっ、俺もやるぜ!」


「モニカもやる!」


「はあ……しょうがねえな」


 やっぱり型を繰り返すと落ち着くなあ。不安だった気持ちがどこかに飛んでいってしまう。揺れる馬車の中で型を繰り返すと、バランスを取るのが難しくて、意外といい鍛錬になる気がする。


 そんな感じで僕たちは馬車の中でも獅子龍王流の型を繰り返すのであった。




 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「うわ~でっけー!」


「おっきいね~!」


「街の周りの壁もすっごく大きいね!」


 馬車での1週間が過ぎ、僕たちはようやくイーサムの街へと到着した。馬車の旅であるこの1週間はいろいろとあったけれど、とても楽しい旅路だったな。前世では泊りがけの旅行なんてほとんどしたことがなかったから、尚のことそう感じたのかもしれない。


「俺もこの街に来るのはだいぶ久しぶりだな。入学試験は明後日からだし、明日はこの街を少しだけ案内してやるよ」


「やったぜ!」


「楽しみだね、エフォート」


「うん!」


 今日はもうすぐ日が暮れるから、街を回るのは明日になるみたいだ。もちろんこの街へ遊びに来たわけじゃないということは百も承知だけど、それでもこんな大きな街を観光するのはとても楽しみだ!

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