第17話 やりたいこと
「嫌だ! モニカ、エフォートと離れたくない!」
「モニカ、わがまま言うなよ。エフォートも困っているだろ!」
いよいよオズとモニカが街にある学園の入学試験を受けるまであと1週間を切ったのだが、ここでひとつ問題が発生した。直前になってモニカが学園に行きたくないと言い出したのだ。
2年前のワイバーンの事件以来、モニカは俺にべったりになった。一度は納得していたのだが実際にその日が近付いてくると、村から離れた学園に行って僕と離れたくないと駄々をこね始めた。
もちろん僕だってモニカみたいな可愛い女の子に懐かれるのは悪い気がしないけれど、モニカの場合は恋という感じではないんだよな。あのワイバーンの恐怖からギリギリのところで僕が命を助けたという吊り橋効果の究極系、あるいは刷り込みのような気がする。
「ほらモニカ、たった数年だけだし、半年に1度は村に帰ってこられるんだから大丈夫だよ」
「やだ、エフォートとずっと一緒がいい!」
そう言って泣きながら僕に抱きついてくるモニカ。多少成長したとはいえ、まだまだ中身は子供のようだ。
周りにいる村長さんやみんなの両親も困った顔をしている。
「……ちょうどいいかもしれないな、レオナ」
「……そうね、あなた」
「えっ、お父さん、お母さん?」
「モニカちゃん、ちょっとだけエフォートと話をさせてくれるかな」
「………………うん」
お父さんが真剣な顔をしてモニカに話をすると、モニカも素直に僕から離れていった。
「エフォート、お前も2人と一緒に入学試験を受けてきなさい」
「えっ!? いや、僕は村にいて、お父さんの畑を継いで……」
「お前が将来そう選択したのならそれでいい。だけど、別に学園に行くことがすべて無駄になるわけじゃない。別に学園を卒業したあとに、エフォートがそうしたいと思ったのならそうすればいいさ」
「で、でも……」
「エフォートのことだから、入学試験のための必要なお金に気を遣っているんでしょう。本当にあなたは昔っからそうことに気を遣いすぎなのよ」
「まったくだ。それくらいの蓄えはちゃんとあるんだから、そんなことは気にするな」
「うっ……」
「それにエフォ坊のことだから、オズとモニカが村にいない間は自分がこの村を守るとか思っているんだろ?」
「ううっ……」
お父さんとお母さん、それとゴード師匠には完全に心を見透かされたみたいだ。
「まったく、大人を舐めるんじゃねえぞ! 確かにもう組み手じゃエフォ坊に敵わねえかもしれねえが、俺たちの村を守るためにお前らの力をあてになんかしたりはしねえよ。どんなに力があったとしても、おまえらはまだガキなんだ。おまえらがいなくても村は俺たちで村は余裕で守ってみせるぜ! なっ、村長!」
「そうじゃな。ワイバーンが来た時にも儂がおれば余裕じゃったのにのう。それに金のことを心配する必要はないぞ。ワイバーンの素材を売ったお金がまだ残っておるから大丈夫じゃ」
そう言いながら立派な白いあごひげを触る村長。村長はオズとモニカの属性魔法の師匠なわけだし、村長がいたら本当にワイバーンもなんとかなっていたかもしれない。
「村長、お気持ちはありがたいのですが、そのお金は私たちが出しますから」
「ええ、エフォートは私たちの息子です」
「お父さん、お母さん……でも、僕は……」
みんなの気持ちはとても嬉しい。でも僕はお父さんとお母さんと離れたくない。前世で父さんと母さんにできなかった分の親孝行までお父さんとお母さんに親孝行したいんだ!
「エフォート、お前は本当に優しい子に育ってくれた。きっと父さんや母さんのことを考えて大切に思ってくれているのだろう。だけどな、父さんと母さんはその気持ちよりも、お前自身がもっと自由にやりたいことをやってくれたほうが嬉しいんだぞ!」
「ええ。私たちのことを思ってくれるのは本当に嬉しいけれど、あなたは自分のやりたいことをしなさい!」
「………………」
……ああ、やっぱり僕は思う。
この世界でお父さんとお母さんの息子に生まれてきて、僕は本当に幸せだ。
「お父さん、お母さん、ありがとう! 僕はオズとモニカと一緒に学園へ行ってみたい!」
「うん、行ってきなさい! それでこそ俺たちの息子だ!」
「ええ。身体には気を付けるのよ。でも、休みの日はみんなでちゃんと帰ってきてね」
「うん!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「なんてことを格好よく言ったけれど、受からなかったらどうすればいいんだ!」
みんなと話しあった夜、僕は布団の中でそんなことを嘆いていた。
よく考えてみたら、みんなと一緒に学園へ行くとか言ったけれど、僕だけ学園の入学試験に落ちる可能性が非常に高いんだった! オズとモニカは村長から大抵の学園なら受かるとお墨付きをもらっていたが、僕はその限りじゃない。
入学試験は学園にもよるけれど、どんな学園でも実技の試験はあるらしい。正直に言って学科の試験は前世の知識があるから余裕だけど、属性魔法が使えない僕にとってはこの実技試験が問題だ。
「……うん、たった1週間しかないけれど、やれるだけのことはやっておこう」
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