第16話 獅子爪断
この2年間でゴード師匠がいろいろな伝手を辿って獅子龍王流の情報を集めてくれた。そのおかげで僕は新たな型を2つと技を1つ覚えることができた。
ゴード師匠によると獅子龍王流には5つの型があり、これですべての型を覚えることができたというわけだ。獅子龍王流では基本的な動きや構えを型として教えこんでいる。この型を繰り返すことにより、獅子龍王流の基本的な動きを叩きこむことになる。
そして技についてだが、もちろん獅子龍王流にはもっと多くの技がある。ただし、これらの技はひとつずつ順番に覚えていくようで、情報を教えてくれた人とゴード師匠はこの先の技や、技がいくつまであるのかも知らなかったそうだ。
「グギャ……」
僕の右手がゴブリンの首元にめり込み、首の骨を砕く感覚が右手へと伝わる。これまでに何度かゴブリンを倒してきたことがあるが、何度味わってもこの感覚には慣れない。いくら村の畑を荒らす害獣であるとはいえ、ひとつの命であることには変わりがないから。
獅子龍王流・弐の技『
それでも小柄なゴブリンの首の骨を一撃でへし折るほどの力を身につけることができている。
「ふう~」
ゴブリンを倒すことができたとはいえ、油断は厳禁。獅子龍王流では他の武術と同様に残心にも重きを置いている。ただでさえ僕はオズとモニカみたいに属性魔法が使えないんだから、油断なんて絶対にしないぞ。
ゴブリンが完全に絶命していることを確認し、オズとモニカの様子を見ると、2人ももうすでにゴブリンを倒していた。どうやら無事にゴブリンを倒せたみたいだ。
「……まったく末恐ろしいガキ共だな」
そんなナイジンさんのつぶやきが聞こえたが、さすがにあの2人と一緒にされるとちょっと困るよ……
倒したゴブリンは穴を掘って地中深くに埋めた。ゴブリンなどの生き物の死骸をそのまま放っておくと、疫病の原因にもなるらしいので、その処理はきっちりと行った。
そのあとはナイジンさんにイノシシ型の解体作業を教わった。こういう経験もいつかは役に立つかもしれない。
「いやあ、やっぱりワイルドボアの肉はうまいな。もちろん母さんの料理が上手ということもあるよ」
「ふふ、気に入ってくれたならよかったわ。それにしてもエフォートはすごいわね、ナイジンさんもとっても驚いていたわ」
「ワイルドボアを仕留めたのは僕じゃなくてオズだよ。オズの風魔法は本当に格好いいんだ!」
家に解体したワイルドボアの肉を持って帰るとお母さんが料理してくれた。さすがに高級食材であるワイバーンの肉まではいかないけれど、ワイルドボアの肉もとてもおいしかった。
それにしても昼間のオズの風魔法は格好よかったなあ。それにモニカの水魔法も本当に便利だった。
……おっと、2人の属性魔法を羨ましがっていても仕方がない。羨ましがっている暇があるのなら、いつもの型を繰り返して鍛錬しよう。
「そういえば、エフォート。この前の話だけれど、本当にいいの?」
「うん。前にも言ったけれど、僕は学園には行かないよ。このまま村でお父さんの畑を継ぐんだから、学園に行く必要はないからね」
実はオズとモニカは今月とある街の学園へ入るための試験を受けに行くことになっている。この世界の学園は12歳から入ることが可能だ。元の世界で言うと小学校6年生くらいになるのかな。
わざわざ学園に入る理由は単純に将来の職の選択肢が増えるのだ。基本的には属性魔法を授かった者は、たとえ村人でも学園に入って魔法や知識を学ぶことが基本となる。もしも国の騎士団なんかに入れれば、かなりの高給取りになれるからね。
学園にもよるけれど、授業料や基本的な衣食住については国が負担してくれるので、貧しい村からでも子供を学園に入れることが可能だ。属性魔法を持つ者はそれだけ国からも優遇されている。
「それにそもそも僕が学園に入れるわけないからね」
もちろん、属性魔法を持っていない者も学園に入ることが可能だが、その場合には入学試験を突破する可能性が遥かに下がるわけだ。
「……試験を受けるだけ受けてみたらどうだ? エフォートだってオズやモニカちゃんと一緒に学園へ行きたいだろ?」
「う~ん、興味がないわけじゃないけれど僕はいいや」
「「………………」」
本音を言うとオズやモニカと一緒に学園へ行きたいという気持ちはある。前世での学校は休みがちだったし、この世界の学園がどんなところかはすごく興味があったりする。
授業料を払わなくていいといっても、試験を受けるため街にまで行く馬車の費用や宿泊費などは当然個人の出費になる。うちの村はそこまで裕福な村じゃないから、オズやモニカだけでなく僕の分の試験の費用となるとそれだけでも馬鹿にならない。
そしてなにより、僕はこの世界でお父さんとお母さんに心配をかけさせないと決めたんだ。身体を鍛えることはこの村にいても十分できるし、2人が村にいない間は僕がこの村を守るくらいの気概でいこう。
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