第15話 属性魔法の凄さ


「フゴッ、フゴッ」


 目の前にいるのは巨大なイノシシ型の魔物。口元から生えた2本の鋭い牙を主な武器として、獲物を見つければ見境なしに突進してくる厄介な魔物のワイルドボアである。そして村の畑を荒らす害獣でもある魔物だ。


「……あいつらは見た目通り鼻が利く。狩りをする時には常に風向きを意識しておけ」


「「「……はい!」」」


 僕たち3人は村で一番の猟師であるナイジンさんの狩りに同行させてもらっている。今は風下で息をひそめてフゴフゴと鼻を鳴らすワイルドボアの様子を草むらの陰から窺っている。


「オズ、いけるか?」


「おう!」


 いつもナイジンさんは弓を使って狩りをするのだが、今日は俺たちの狩りの練習をさせてくれている。もちろん僕たちも遊びで狩りをするわけじゃない。


 僕――というよりは属性魔法を使えるオズとモニカの魔法は狩りにとても役に立つし、先日のブラックウルフのように魔物から村を守るために魔物と戦わなければいけない時もある。その時のためにも、魔物と戦う経験は必要なんだ。


「ウインドアロー!」


 オズが風魔法を使うと、オズの周囲に風が集まってくる。そして目を凝らさないとわからないが、5本の圧縮された風の矢が生成されていく。


 どうやらこの世界の魔法は長い詠唱のようなものを必要としないようだ。僕の身体能力強化魔法も呪文などは必要ない。身体の中心にある胸の中から魔力を体中に巡らせるといった感覚だ。


 もちろん前世ではそんなことをできたわけなかったけれど、お父さんに身体能力強化魔法の説明を受けるとすぐに使えるようになった。やはり魔力というもの存在するこちらの世界では人の身体の仕組みが違うのかもしれない。


「いけえええ!」


「フゴッ!?」


 突然の奇襲と認識し難い風を圧縮してできたオズの風魔法の5本の矢がワイルドボアの急所である額や心臓へと突き刺さった。


「フゴッ……」


 即死こそしなかったが、身体中から赤い血を流し、ゆっくりと絶命していくワイルドボア。たとえ相手が動物や魔物で、僕たちがその肉を食べて生きていくという目的であっても、命を奪うという行為にはどうしても慣れない。


「ふう……こりゃすげえな……」


 オズの風魔法を見たナイジンさんが感嘆の声を漏らした。オズとモニカの属性魔法を初めて見た時の僕と同じような反応をしている。普通の生き物ならあんな魔法を初見で見切れるわけがないよね。そりゃ武術が廃れていくわけだよ……




「そんじゃあ、このワイルドボアを解体すっか。しかしここからだと水場がちょっと遠くて面倒だな」


「あっ、それなら僕が持って――」


「モニカがやる! ……えい!」


 モニカが両手を前にかざすと小さな水の球体が現れた。そしてその球体はどんどん巨大化していき、2mほどの大きな水の球になった。


「ナイジンさん、お水はこれくらいで大丈夫?」


「お、おう。十分過ぎるほどだぜ……そっちの窪みの部分に溜めておいてくれ」


「うん!」


 これだけの水があれば、解体も十分に可能みたいだ。……本当に属性魔法って便利だよね。


「この前狩りに行った時は鳥だったから簡単だったが、ワイルドボアの解体方法は結構難しいから、ちゃんと覚えておけよ」


 当然解体も自分たちの手でおこなう。村に住んでいる以上、これから先魔物を解体する機会も多々あるだろうから、覚えておいて損はないはずだ。


「よし、まず最初は――って、血の臭いにつられて集まっちまったか。ゴブリンが2……いや3体ってところだな。お前ら、いけそうか?」


「「「押忍!」」」


「ゲギャギャ!」


 いつの間にか周囲にはゴブリンがいた。背が低く、濃い緑色の肌にずんぐりとした体型、耳は尖り醜悪な顔立ちをしていて小さなこん棒を持っている。この世界のゴブリンという魔物は女性をさらって仲間を増やすようなことはないけれど、田畑を荒らしたり人を襲って食料を奪おうとする害獣だ。


 その上繁殖力が強いから、見つけたら駆除するのがこの世界の常識らしい。


「各自、目の前にいる一体を狙っていけ。少しでも危ないと思ったらすぐに俺を呼ぶんだぞ!」


「「「押忍!」」」


 ゴブリンや他の魔物が出現した時にどうするかは事前に話している。今回の状況だと、ひとり1体ずつを相手にするパターンだ。


「ゲギャ!」


 改めて相手のゴブリンを観察する。身長は僕よりも20cm以上低く、武器は小さなこん棒でゴブリンにそれほど力はない。とはいえ頭に食らうのはさすがに危険だ。


 僕はゴブリンに対峙して構えを取る。


 獅子龍王流の構えは左手を前に出して左足を敵の方に向け、右拳は右の脇腹に添えて常に相手には半身しか見せない。そうすることによって人体の弱点である腹や金的などへの攻撃を防ぎつつ、こちらの動きの情報をできる限り相手へ見せないようにする実戦的な構えだ。


「ふう~」


 大丈夫、僕は落ち着いている。


 ゴブリンはこれまでも何度か倒したことがあるし、何よりあの恐ろしいワイバーンと比べればまったく怖くはない。


 身体能力強化魔法を使うと全身がふっと軽くなった。そしてその状態で右足に力を込めて一気にゴブリンの懐へと踏み込む。


「ギャ!?」


 ゴブリンはこちらのスピードにまったくついてこられていない。


「獅子龍王流・弐の技『獅子爪断ししそうだん』」

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