第14話 さらに2年後


「うおおおおおおおお!」


 両手でしっかりと握りしめた鍬を力の限り高速で上下に振るって畑を耕す。身体能力強化魔法で強化された僕の力によって、一度土を耕すだけで畑の奥深くまで鍬の刃が食い込み、大量の土が宙を舞った。


「相変わらず畑を耕すのが早くて助かるな。次はあっちを頼む」


「わかったよ、お父さん!」


 ワイバーンが村に現れるという事件からさらに2年が過ぎて、僕は12歳になった。


 前世で僕が死んだのも同じ12歳だったから、ようやく前世の僕と同い年になったわけだ。とはいえ、肉体労働や鍛錬を続けていた甲斐あって、前世の病弱だったころと比べればだいぶ筋肉質な身体になってきた。身長も前世よりは少し高い気もするかな。


 今日もいつもと同じように朝早くからお父さんと一緒に畑へやってきている。


「うおおおおおおおお!」


 ……別に誰かと戦っているわけじゃないよ。


 ゴード師匠にも言われたのだが、畑仕事をする時や鍛錬をする時は掛け声を出しながらおこなう方がより気合も入るし、より鍛錬になるそうだ。同様に技を出す時も技名を叫んだ方が威力も上がるという謎の理論もあるけれど、確かに気合は入るから僕も言われたとおりにしている。


「お父さん、こっちは終わったよ」


「……昔と比べると本当に早くなった。エフォートのおかげで畑を少し広げたのに前よりも時間が掛からなくなっているものな」


「毎日鍛えているからね! 次は何を手伝えばいい?」


「ああ、今日はもう上がっていいぞ。あとは父さんがやっておくからな」


「うん!」


 畑仕事も収穫時期は村のみんなでやらないといけないくらい忙しいけれど、今の時期は比較的楽なものだ。




「ゴード師匠、今日もみんなが来るまで組み手をお願いします」


「……だからもう俺よりも強くなったんだから師匠呼びはやめろって言ってんだろ、エフォ坊」


「師匠はずっと師匠ですよ」


 この2年間で、僕はようやくゴード師匠との組み手で勝てるようになった。初めて勝ち越した時は本当に嬉しかったことを今でもよく覚えている。


「……ったく、オズとモニカもそうだが、もうちょっと子供らしさってものがほしいぜ」


 オズとモニカも2年前とは別人のように強くなっていた。2人もあのワイバーンの事件は感じたものがあったようで、属性魔法がとんでもなく鍛え上げられている。


「2人が来たら狩りへ一緒についていきますよ」


「おお、また大物を頼むぜ!」


「それは僕よりも2人に頼んだ方がいいかな」


 そう、最近では村の狩人のナイジンさんと一緒に3人で狩りに同行させてもらっている。そしてその際に2人の水魔法と風魔法を見せてもらったけれど、それはもうすごいものだった。


 武術が廃れていった理由というものがよく分かったよ。実戦ならたぶん僕は2人に勝てないと思う。思うという推測になってしまうのは、僕たちが魔法ありで実際に戦ってみたことはないからだ。


 僕たちが属性魔法や身体能力強化魔法を使って戦ったら、怪我人が出てしまうことは間違いないからね。村のみんなを守るために鍛えているのに怪我をするなんて本末転倒だ。


「まあ、確かに。この前魔物の群れが村を襲って来た時も、あの2人のおかげで誰も怪我をすることなく終わったもんな……」


 1月ほど前、この村の近くの森でブラックウルフという魔物が大量発生した。この魔物は群れで狩りをする凶暴な魔物のため、しばらくの間森に入ることは禁止となった。しかし、ブラックウルフは森だけでは収まらず、群れのボスと共に20匹近くで村まで攻めてきた。


 しかし、村長やオズとモニカのような属性魔法が使える人たちによる魔法の一斉掃射によって、ブラックウルフは群れのボスもろとも一瞬で駆逐された。やっぱり属性魔法は遠距離攻撃があるから強すぎるよ。懐へ入る前にすぐに撃ち抜かれてしまいそうだ。


 とはいえ、僕は僕だ。ないものねだりをしている暇があったら2人よりも鍛錬していくしかない。


「師匠、今日もお願いします!」




「エフォート!」


「あっ、モニカ、お疲れ」


 ちょうどゴード師匠との組み手が終わったところで、モニカが自分の仕事を終えてやってきた。


 モニカはこの2年間でより女の子らしく成長した。……具体的に言うと胸が大きくなってきたのである。今までずっと一緒にいたけれど、やっぱりモニカはかわいい女の子なんだなと再確認したところだ。


 そして最近ではモニカにひとつ大きな問題ができてしまった。


「えへへ~♪」


「ちょっとモニカ! あんまりくっつかないでよ!」


「え~いいじゃん!」


 そう、ワイバーンが襲ってきた事件以降、モニカは僕へ頻繁にくっついてくるのだ。そりゃ僕だって男だし、可愛い女の子にくっつかれて悪い気なんかしないけれど、今はもっと自分を鍛えたいという気持ちのほうが大きい。


 少しずつ大きくなってきたモニカの柔らかい胸が僕の腕にくっついてくるのは、思春期の僕にとってかなり厳しい試練だ……


「……右手の怪我のあとはまだ消えないね」


「うん。でもこっちの方が恰好いいでしょ」


 ワイバーン事件で怪我をした僕の右拳は無事に動かせるようになった。しかしワイバーンの鱗によってボロボロに切れた手の甲と指についた傷痕は残ってしまった。


 とはいえ、僕は男だし傷痕があっても全然気にならない。それにあの時みんなを守ることができた僕の勲章でもあるし、この傷痕を見る度に、もう二度とあの時のような思いをしないために奮起することができるから僕は本当に気にしていない。


「大丈夫、モニカがちゃんと責任を取るから!」


「………………」


 いや、それは男の人が女の人の顔を傷つけてしまった時に使う言葉じゃ……


「お~い、エフォート、モニカ!」


 ちょうどいいところにオズも来てくれた。オズもこの2年間でさらに身長が伸びている。相変わらず身長はまだ僕のほうが負けているのは本当に悔しいんだよなあ。

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