第13話 武術の真髄


 僕は村のみんなを守れるくらい強い男になると心に決めた。そのためには今やっている獅子龍王流の型と技を繰り返すだけでは駄目だ。僕には圧倒的に力が足りていない。


「強くなりたいねえ……エフォ坊はその年なら十分過ぎるほどつええと思うが、ワイバーンを倒せるくらい強くなりてえってことだろ」


「はい!」


 さすが師匠、僕の言いたいことがよく分かっている。


「だったら、今までと同じように――いや、今まで以上に自分の身体を鍛えながら、獅子龍王流の型と技をひたすら繰り返せ」


「でも師匠、それだけじゃ……」


「エフォ坊の言いてえことは分かるが、属性魔法を持ってねえお前にはそれが強くなる一番の近道だ。そもそもの話なんだが、エフォ坊がワイバーンの頭を殴って倒せたのはどうしてだと思う?」


「えっと、当たり所が良かったから?」


「確かに当たり所もそうだが、一番の理由はエフォ坊のそのだ。そもそもワイバーンの身体は恐ろしく固い鱗に覆われている。ちょっとやそっとの力でワイバーンの頭に衝撃を与えたところじゃ、ああはならねえぞ。というか自分では自覚していないのか? お前の身体能力強化魔法は他のやつよりも遥かに自分の肉体を強化できていることに」


「えっ!?」


 なにそれ、聞いてない! それってもしかすると僕にすごい才能があるってこと?


「前にも言ったことはあるが、獅子龍王流の武術は身体能力強化魔法と非常に相性がいいと教えただろう」


 ……そういえば、初めて街へ行って祝福を受けて、オズとモニカだけが属性魔法を授かった時にそんなことを聞いた気がする。というかあれってただの慰めの言葉じゃなかったのか。


「獅子龍王流に限った話ではないが、武術の型というものは何度も反復することにより、身体中に魔力の流れを浸透させやすくする副次的な効果がある。それによって身体能力強化魔法をより深く使いこなせるというわけだ。ああ、エフォ坊には難しいな。簡単に言うと、型を繰り返せば繰り返すほど、身体能力強化魔法で強化した肉体も強くなるってことだ」


「すごい!」


 つまり武術の型は繰り返せば繰り返すほど、肉体的にも強くなれるし、身体能力強化魔法を使った時の力も強くなるってことか! それってめちゃくちゃすごいことじゃん! というか、僕はそんな大事なことを今まで教えてもらっていなかったのか……


「俺も身体能力強化魔法を使えば普段の倍の力くらいは出せる。エフォ坊もそれくらいは出せるんじゃねえか。以前に巻藁をぶっ壊した時にもかなりの力があったはずだ。今はまだ身体が成長途中だが、もっと成長すれば今回みたいに自分の力で怪我をすることもなくなるだろ」


「なるほど……」


 以前の出来事で、鍛錬の際に身体能力強化魔法を使った状態で巻藁を叩いてみたことがあった。その際に僕は巻藁を壊した上に、右拳を打撲したんだ。あの時は打ち所が悪かったと思っていたけれど、どうやら普通の同い年の子供の力ではなかったらしい。


「でも師匠、武術ってそんなにすごいのに、どうして廃れていったんですか?」


 今の話を聞く限り、武術を続けることは有益なことしかないようにも思える。


「前にも言ったが、属性魔法の発見が何よりも大きい。属性魔法は武術と違って、長い鍛錬をしなくともすぐに大きな力が手に入るからな。そしてもうひとつの理由は武術で鍛えた力は衰えるのもとても早いんだ。1日分サボっただけでも、3日分の鍛錬が必要だと言われている。食っていくためには働かなきゃなんねえから、仕事とは別の鍛錬の時間をとるだけでもなかなか骨だ」


 ふむふむ、なるほど。確かに仕事とは別に鍛錬を続けていくのは少し難しいのかもしれない。僕はまだ子供だからお父さんの畑の手伝い以外は自由時間だし。


「それでも俺が子供の頃は道場なんかがいくつもあったり、村でも朝と夕に全員で武術の型をやっていたりもしたんだが、そういうのもここ最近はめっきり見なくなったな」


 どうやら昔は朝のラジオ体操のように武術の型を繰り返していたらしい。だけど武術が廃れていくにつれて、武術を学ぶ者がさらに減っていったようだ。こういうのを武術のデフレスパイラルとでもいうのだろうか。


「それに武術の型はどうしても地味だし、ひたすら繰り返すことに耐えられないやつは多い。……まあ、実際に俺もかなりサボっていたしな。その点エフォ坊は教えたころから全然嫌そうな顔ひとつしていなかったよな」


 ……それは僕が前世でまともに運動することができなかったから、獅子龍王流の型をひたすら繰り返すこともとても楽しく思えたからだ。


「まあそういうわけだから、エフォ坊はひたすら今の型と技を磨くのか近道だ。本当は別の型や技も教えてやりたいところなんだがな……そうだ、今回のワイバーンの素材を売った金の一部で情報を集めるよう村長に言っておいてやるよ」


「やったあ!」


 それはとても嬉しい。今の僕にはそれが一番のご褒美だ!


「おっと、エフォ坊の父ちゃんと母ちゃんには内緒にしておいてくれよ。あんまりエフォ坊を鍛えすぎると俺が怒られちまう!」


「……うん」


 お父さんとお母さんにこれ以上心配させるわけにはいかないからね。


「まったく、エフォ坊だけじゃなくて、オズとモニカも今まで以上に強くなりたいから、俺や村長にもっと鍛えたいなんて言っていたぞ」


「オズとモニカも?」


「2人とも今回の件で思うところがあったんだろ。まあ、これでうちの村の将来も明るいことは間違いないがな」


 どうやらオズとモニカも今回の件で思うことがあったらしい。2人とも僕とは違って属性魔法が使えるわけだし、2人に置いて行かれないように僕も頑張ろう!

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