第12話 決意


「なあに?」


「……もしも昨日と同じようなことがあった時には、村のみんな――いや、たとえそれが父さんと母さんであっても見捨てて逃げると約束してほしい」


「………………」


「エフォートが力を貸すことによって助けられそうなら、もちろんそれは助けてやってほしい。だが、昨日みたいな勝てる可能性のない相手に突っ込んでいって、自分の命を捨てるようなことはやめてくれ。もっと自分自身の命を大切にするんだ。エフォートが傷付くことによって悲しむ人が大勢いることを忘れないでほしい」


「……うん、分かったよ。約束する!」


「そうか、分かってくれたか!」


「偉いわよ、エフォート!」


 お父さんとお母さんが言いたいことはとてもよく分かる。僕だってお父さんとお母さんや村のみんなが傷付くのは見たくない。


 物語の主人公なら、そんなことは絶対に約束しないと思う。だけど僕は主人公じゃない。魔法適正を持たないただの子供だ。ワイバーンと対峙して、そのことがはっきりと分かった。


「お父さん、お母さん、僕からもひとつ聞いてほしいことがあるんだ」


 ――だけど、そんな僕でも今回の出来事を受けて、ひとつだけ心に決めたことがある!


「僕はもっともっと強くなる! オズにモニカ、お父さんにお母さん、村のみんなを守れるくらい強くなってやる! 今度ワイバーンが村に来ても、余裕で倒せるくらい強い男になってみせるよ!」


 今までは獅子龍王流をただ身体を鍛えるためだけに学んでいた。だけどこの世界ではそれだけの覚悟では駄目だということを知った。想いだけでは何も守ることができず、力がなければ目の前で大切な人が命を落とすのを見ていることしかできないことを思い知った。


 たとえ属性魔法が使えなくても、村のみんなを守るための力がほしい! そのために今まで以上の鍛錬をするという覚悟ができた。


「えっと、エフォートのその覚悟は立派だと思うぞ。だけど父さんたちとの約束もちゃんと守ってくれ。例えばエフォートが鍛えてワイバーンを倒せるくらい強くなったとしても、ワイバーンが5匹村に攻めてきたらちゃんと逃げるんだぞ」


「だったらワイバーンが5匹攻めてきても返り討ちにできるくらい強くなる!」


「……いや、そういうことじゃなくてだな。どんなに強くなったとしても、勝てそうにない相手が出たらちゃんと逃げてほしい」


「だったら勝てそうにない相手がいなくなるくらい強くなる!」


「………………」


 お父さんが頭を抱えている。とはいえ僕も馬鹿ではないし、見た目ほどの子供でもないから、お父さんとお母さんの言いたいことは分かっているつもりだ。


「大丈夫、お父さんとお母さんが言いたいこともちゃんと分かってるよ。僕も自分自身の命は絶対大切にするよ!」


「そうか――それが分かってくれているならそれでいい」


 もう、お父さんとお母さんには昨日みたいに心配した顔をさせたくない。前世の父さんや母さんのように、僕が死ぬことによって2人を悲しませるようなことは絶対にしないと心に誓った!


 そんな心配をさせないくらい僕はこの世界で強くなる! たとえ属性魔法が使えなくとも、村のみんなを守れるだけの強さを手に入れてみせる!




 


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「ゴード師匠!」


「おお、エフォ坊。怪我の具合はもういい……わけねえわな」


 ワイバーンの襲撃から3日が経った。怪我をした右拳はもちろん絶対安静で、ギプスのようなもので固定されている。


「右手は動かせないけれど、他はバッチリだよ! みんなはもう大丈夫なの?」


 ゴード師匠や他のみんなの身体のあちこちには包帯が巻かれていた。他にもワイバーンとの戦いで大怪我を負って家の中で安静にしている大人も何人かいる。


 ちなみになぜ村長たちと一緒に会合へ出掛けていたモニカがあの時村にいたのかというと、サプライズで僕とオズを驚かす予定だったらしい。そんなタイミングでワイバーンが村に襲来してくるんだから、本当に運が悪かった。


 でもたとえまぐれや奇跡であろうと、あの時モニカを守ることができて本当によかったよ。


「おう、エフォートのおかげで久々にうまい肉も食えたからな」


「普通の魔物レベルならどんとこいだ」


 ワイバーンによって村にある5棟の家がボロボロに壊され、負傷者が10人以上出ている。しかし、解体されたワイバーンの素材は街でとても高く売れるらしく、5棟の家の建築費用くらいは楽にまかなえるようだ。


 そしてその肉は普段食べている動物や魔物の肉よりもはるかにおいしかった。僕は今回一番の功労者として、ワイバーンの肉をお腹がいっぱいになるまで食べることができた。


「俺たちもだいぶ油断していたからな。怪我が治ったらもう一度鍛えなおしだ。まさか村の周りにある柵や罠を全部飛び超えてくるワイバーンが来るなんて思ってもいなかったぜ」


 僕たちの村の周囲は2m以上ある柵と落とし穴の罠が設置されている。それを全部素通りしてくるワイバーンはさすがにずるいよね……


「ってわけで、さすがに怪我がもう少し治らねえと組み手の相手はできねえぞ」


 ゴード師匠もかなりの大怪我だったはずだけど、今ではもう普通に歩けるくらいには回復していた。やっぱりこの世界だと怪我の治りが早かったりするのだろうか?


「僕もまだ組み手はできないです。今日は聞きたいことがあって来ました。どうやったら僕は今まで以上にもっともっと強くなれますか?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る