第9話 ワイバーンの襲来
「おう、エフォ坊。相変わらず今日も早えな」
「ゴード師匠、今日もみんなが来るまで組み手をお願いします!」
今日も昨日と同じようにお父さんの畑の手伝いを終えて、村の門のゴード師匠のところまでやってきた。
「……ったく、本当に何度言っても師匠呼びはやめねえな」
「ほら、ゴード。さっさといってやれよ」
「たまにはお前らが相手してやったらどうだ」
「無理無理。昔ならともかく、俺らじゃもうエフォートに勝てねえよ」
「そうだな」
「まったく、門番のお前らのほうがエフォ坊を見習ってほしいもんだぜ……」
そんなことを言われると少し嬉しくなってしまう。確かに最近はゴード師匠以外の人には組み手で勝てるようになってきた。だけど、それはあくまでも組み手だから、調子に乗るようなことはしないぞ!
「軽く準備運動するから少し待ってろ」
「はい!」
よし、今日こそゴード師匠に勝ち越してやるぞ!
「おっ、おい! ちょっと待て、なんだあれは!?」
「おい、嘘だろ! まさかあれは……」
今日もいつもと変わらない平和な日常を送るはずだった僕たちの村に、突如
「ワ、ワイバーンだと!?」
ゴード師匠がそうつぶやく。
そしてゴード師匠が見上げる遥か先には体長10mはゆうに超える緑色の体躯をした巨大なトカゲが空を舞っていた。その両前足の内側には巨大な翼が生えている。
この辺りに生息する魔物についてはお父さんやお母さんたちから話を聞いている。ワイバーン――この辺りにはない高くそびえ立つ山に群れで暮らしているはずのワイバーンだが、極稀にはぐれと呼ばれる単独行動をする個体が現れることがあるらしい。そしてこの魔物は
「ギャアアアアア」
けたたましい叫び声をあげ、それは村の上空から猛スピードで飛来したきた。
「まずい! おい、警鐘を鳴らせ!」
「お、おう!」
カンッカンッカンッ
門の見張りにある鐘の音が村中に響き渡った。
しかし、その警鐘を聞いてすぐにワイバーンの襲撃を避けられるわけはなく、猛スピードで飛来してきたワイバーンはそのまま村の中にある家のひとつをいともたやすく粉々に破壊した。
僕は目の前で起きている非日常的な光景に身じろぎひとつできなかった。
「くそったれ、よりにもよって村長がいない時にあんなやべえ魔物が来るなんてよ!」
ゴード師匠が吐き捨てるようにそう言う。
そうだ、今日村長たち村の人の一部は月に一度の会合があって、この村にはいないんだ。モニカとモニカの両親も今後の勉強ということで、その会合についていった。
「あれはオッティの家か。大丈夫、たぶん今は畑に出ていてあの家には誰もいないはずだ。おい村のみんなが逃げるまであいつらを足止めするぞ!」
「お、おう!」
「なんとしても食い止めてやる!」
ゴード師匠がみんなに指示を出していく。
ぼ、僕も何かしないと! だ、駄目だ……足が震えて動けない……
「おいエフォ坊!」
「は、はい」
「いいか、落ち着いて話を聞け! 今から俺たちがあのワイバーンを食い止める。その間に村のみんなに森へ逃げろと伝えるんだ。森の中に逃げ込めば、ワイバーンのあの図体じゃ追ってくることはできねえ!」
「う、うん!」
そうか、村の近くにある森にさえ入ってしまえば、ワイバーンのあの大きな巨体では森の中に入ってくることはできない。
「間違ってもワイバーンと戦おうなんて思うな! あの魔物は村長クラスの属性魔法の使い手がいないとどうにもできねえ。いざとなったら、身体能力強化魔法を使って全速力で逃げろ。エフォ坊の速さならあのワイバーンでも追いつけねえ、分かったな!」
「わ、分かった!」
ワイバーンとは戦うな、みんなと一緒に森へ行け、いざとなったら全速力で逃げろ。落ち着け、このたった3つだ。
「大丈夫だ、俺の弟子であるお前ならみんなを避難させることができる。頼んだぞ!」
「押忍!」
そうだ、何のために僕は今までずっと鍛えてきたんだ! こういう時に動けなくてどうする!
「ギャアアアアア」
「こっちだ、トカゲ野郎!」
「おら、いくぞ。ファイヤーボール!」
すでにゴード師匠以外のみんながワイバーンと足止めしている。ワイバーンの襲撃に気付いた他の戦える大人たちもやってきて弓や槍を持って応戦しようとしている。
そうだ、僕も自分のできることをするんだ!
「みんな、森の中に逃げて!」
ワイバーンを足止めしてくれている村のみんなを信じて、僕は大声を上げながら村のみんなに森へ逃げるように叫び回った。
「エフォート!」
「お母さん!」
良かった、お母さんも無事だった。
「無事で良かったわ! 父さんは無事なの!」
「お父さんはまだ畑にいるから大丈夫。お母さんも早く森に逃げて」
「ああ、良かった。エフォート、あなたも一緒に逃げるわよ!」
「僕もすぐに逃げるよ。村のみんなが森に逃げて、ワイバーンを足止めしているみんなにそのことを伝えてからすぐにね」
「何言ってるの! 分かった、あとは母さんが代わるから、あなたは先に森へ逃げなさい!」
「お母さん、大丈夫だよ。僕の方がお母さんよりも早くみんなを避難させることができるし、いざとなったらすぐに逃げられるから」
「……分かったわ。だけど約束して。絶対に無茶だけはしないで、危なかったらすぐに逃げるのよ!」
「うん、約束する!」
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