第7話 廃れた武術


 ザッ、ザッ、ザッ


「ふう~お父さん、こっちは終わったよ」


「おお、もう父さんよりも早く畑を耕せるようになったかもしれないぞ、エフォート」


「へへ~毎日鍛えているからね」


 オズとモニカと一緒に祝福を受けてから3年が過ぎて僕は10歳になった。今ではお父さんの畑を手伝って過ごす毎日だ。


 この3年間で僕は新たに身体能力強化魔法を覚えた。この世界にある身体能力強化魔法は元の世界のファンタジーな世界のそれとは異なって、身体能力が何倍や何十倍に跳ね上がったりすることはないけれど、属性魔法が使えない者でも使うことができる。


 魔法を使用できる効果時間から魔力を計ることができるらしいが、どうやら僕の魔力は人並みくらいのようだ。うん、人並みあるだけで十分嬉しいという感覚は前世であまりにも病弱だった僕ならではの感覚かもね。


「それじゃあ、今日はこの辺で終わっておこうか。どうせまた今日もゴードのところに行くんだろ?」


「うん!」


 そしてもちろん獅子龍王流の型は毎日空いている時間にひたすら繰り返している。この3年間でゴード師匠から新たな型を2つ教わったのだが、どうやらゴード師匠は少しの間だけしか武術を習えなかったらしく、参の型までと基本的な技をひとつしか知らなかったようだ。


 よくもまあ3つしかない型と1つの技だけを3年間も続けているなと周りの人には何度も言われたけれど、もはやこれは僕のライフワークとなってしまっている。僕から言わせると、同じ型をただひたすら続けることはとても楽しくもあった。


 ほんの少しずつだが、型を繰り返していく度に自分が成長していくことが実感できる喜びというものは他の何ものにも代えがたい快感である。


 前世ではこれほど運動をしても動悸がしない身体に憧れていたことも、僕が3年間この武術にひたすら没頭してこれたのはそういった理由もあるのかもしれない。


 今思い返してみても、我ながらよくここまで毎日飽きもせずに繰り返してきたものである。雨の日も雪の日も、僕がこの型と技を鍛錬しない日は1日たりともなかった。……まあ、雨の日と雪の日は家の中でやっていたんだけどね。




「ゴード師匠~!」


「おお、エフォ坊か。相変わらず仕事が早えな」


「押忍、これもゴード師匠に鍛えられたおかげです!」


「だからそのゴード師匠はもうやめろって言ってんだろ。もう俺に教えられることはすべて教えたし、教えた型と技はもうお前の方がとっくに洗練された動きになってんだろ」


「ゴード師匠はゴード師匠ですから。それに僕はまだゴード師匠から組み手で勝ち越せていませんよ!」


 ゴード師匠は僕にはもう教えることは何もないというが、僕からはまだまだゴード師匠から教わりたいことは山ほどある。ここ数年では実際に組み手をしてもらうことも多くあったが、5本セットの組み手で数本とることはできても、3本以上取れたことがない。


「そりゃこの体格差で負けちまったら、俺の方がへこんじまうっての。言っておくが、魔法さえ使わなければ俺がこの村で一番強いんだぞ!」


「ならまだ教わることはありますよね。また組み手をお願いします!」


「……まったく、ちったあ年寄りをいたわれっての」


「はっはっは、エフォ坊は相変わらずだな」


「ほらゴード、こっちはいいからいつも通り相手してやれよ」


「へいへい……」


 他の2人の門番の当番の人たちもいつもそういてくれる。なんだかんだで、この村の人たちはみんな僕を含めた子供に甘いのである。まあ、この時期は門番の仕事がそこまでないだけなのかもしれないけれど。




「ありがとうございました。う~ん、また勝ち越せませんでした……」


 残念だけど今回僕は5本中2本しか取れなかった。1本も取ることができなかった最初に比べたらだいぶマシだけどね。


「いや、この体格差で何本か取られている俺の方が悔しいぜ。よくもまあこれほど鍛え上げたものだ。こりゃ俺が負け越す日ももうすぐだな」


「本当ですか!」


「おう、俺は嘘を言わねえよ。にしてもここまでエフォ坊たちが熱心に続けてくれるんなら、俺も最後まで獅子龍王流を学べていりゃあ良かったんだけどよ」


「家族のことなんですから仕方がありませんよ」


 ゴード師匠の故郷はこの村なのだが、若いころはいろんな場所を旅していたらしい。とある街で獅子龍王流の武術を習い始めたのだが、この村に住んでいた父親が病にかかったことにより、この村に戻ってきたと聞いていた。


「この辺りの街に道場があれば聞いてこれるんだが、多分大きな街に行かねえとないだろうからな」


「やっぱり珍しい武術なんですね」


「……ああ、いや。そうだな、エフォ坊になら話してもいいだろう。実はな、この獅子龍王流は現代では廃れた武術のひとつなんだ」


「廃れた武術?」


「ああ。実際のところ、昔の戦闘では獅子龍王流の武術は無類の強さを誇っていた。しかし、祝福による属性魔法が発見されると、それらを主軸とした戦闘が基本となっていったんだ。どうしても個々の力では限界があるから、仕方がないと言えば仕方がないんだがな」


 なるほど、どうやら属性魔法の発見に伴い、武術というもの自体が廃れていったようだ。とはいえ、僕がそれを聞いたところで、これからの行動が変わることはない。


 どちらにしろ僕にはどちらも使えないし、今は強くなりたいというよりも身体を鍛えるという意味合いの方が強い。やっぱり健康的な身体であることが何よりだよ。


「なるほど、でも僕はこれからも獅子龍王流の武術を続けていきますよ」


「まあ、エフォ坊ならそう言うと思っていたぜ。他のやつらに言うとやる気をなくすかもしれねえから秘密だぞ」


「はい」


「おお~い、エフォート!」


「エフォート!」


「おっと噂をしていたら他のやつらもやってきたみたいだな。もうそんな時間か」

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