第6話 祝福


「大きいね、お父さん!」


「うちの村とは比べ物にならないほど立派だろう?」


 ガタゴトと揺れる馬車に乗って数時間、目の前には大きな壁が見えてきた。レスリアの街はうちの村から一番近い街だ。近くの街から数日かかる村もあるから、うちの村はかなりマシなほうなのである。


「うわあ~すごいね、お父さん」


「ああ、あれが街だぞ」


「父ちゃん、俺はなんか魔法を使えるかな!」


「はは、何か魔法の才能があればいいな。まあ、あんまり期待過ぎるなよ」


 馬車にはモニカとオズ、2人の父親も一緒だ。2人とも俺と同じく村の外の街に来るのは初めてで、初めての街とこれから行われる才能を告げられる祝福に心を躍らせている。




「うわあ~」


 門にいた門番の人による馬車や積み荷の確認を終えたあと、馬車ごと城壁をとおり、レスリアの街の中に入ると、思わず感嘆の声が漏れてしまった。村では木を組み立てた家しかないのだが、この街では石造りの建物がぎゅうぎゅうに建てられている。


 馬車が通る道はとても広く、村ではまったく見かけない商人や冒険者のような服装をした人たちが大勢いた。


 そして建物や人の服装よりも、道を通る人たちのその種族だ。モフモフとした獣の耳を頭から生やし、そのお尻からはぴょこんと長い尻尾が生えている獣人。背が普通の人よりも低く、顔が半分くらい髭で埋まってしまっているドワーフ。他にも村では見たことがない姿をした人たちが大勢いた。


 初めて村長の魔法を見せてもらった時もとても驚いたが、それと同じくらいの衝撃を受けてしまった。


「うちの村には人族しかいないから、他の種族を見るのは新鮮だろ。でも珍しいからといって、獣人さんの耳や尻尾をいきなり触るのはとても失礼な行為だから絶対にしちゃ駄目だぞ」


「うん、分かったよ!」


 どうやらこの世界の獣人さんの耳や尻尾に触るのは失礼な行為らしい。こういうことはちゃんと気を付けないといけないな。それにしてもこの世界は思った以上にファンタジーな世界みたいだ。




「うう……緊張しちゃう」


「だ、大丈夫だぞモニカ! べ、別に戦うわけじゃないんだからな!」


 モニカとオズもだいぶ緊張しているみたいだ。そういう僕も思った以上に緊張している。


 今僕たちはこの街の教会の中にいて、順番に祝福を待っている。


「次、エフォート殿」


「は、はい!」


 そして僕の番が来た。


 みんなに見守られながら、僕の前に祝福を受けた人たちのように、目の前にある丸い水晶へと両手をかざした。魔法適性のある者がこの水晶に両手をかざすと、文字が浮かび上がるらしい。


 これまでに祝福を受けた人は3人で、いずれも僕たちと同年代の子供たちが多かった。そしてまだ誰も属性魔法に適性がある者は現れていない。


 だけど僕にはみんなとひとつだけ違うことがある。僕にはなぜか前世の記憶がある。そう、こんな時に物語の主人公ならきっと……


「魔法適性なし、固有スキルなし」


「………………」


 そんな都合の良い話はなかった。


 いいんだ、あまりに希少な適性があればお父さんとお母さんと離れ離れになってしまうからね。健康なこの身体でこの世界に生まれただけで僕は満足だ。


 べ、別にそこまで期待していたわけじゃないし!


「むむ、水魔法適性あり」


「「「おおお~!」」」


 歓声が上がり、周りにいた大人たちが立ち上がって拍手を送っている。


「ふえええ……」


 当の本人は思いっきり困惑している顔をしている。どうやらモニカには水属性の魔法の適性があったらしい。属性魔法が使えるのは20人くらいにひとりの才能だ。いいなあ……少しだけ羨ましかったりする。


「むむ、風魔法適性あり」


「「「おおお~!」」」

 

 再び歓声が上がり、拍手の音が聞こえた。


「よっしゃあ、やったぜ父ちゃん!」


「おお、すごいぞオズ!」


「………………」


 まさかオズにまで属性魔法の適性があるなんて……それに風魔法とか水魔法ってすごく格好いい。


 結局この日の祝福を受けたのは15人近くいたが、属性魔法を授かったのはモニカとオズの二人きりだった。




「属性魔法については村長が詳しいから、村に戻ったらいろいろと話を聞いてみような」


「うん!」


「父ちゃん、風魔法が使えるなら冒険者になれるよな!」


「う~ん、父ちゃんは冒険者になるのは反対だな。まずは魔法を使える子供たち集まる学校に入っていろいろと学ぶのが普通だぞ。まあなんにせよ、まだ先の話だからな」


 帰りの馬車ではモニカとオズと2人の父親がとても嬉しそうにこの先のことを話している。属性魔法が使えれば、村でも重要な役割を任されることが多いし、街に行っても普通の人よりもいろんな職に就くことが可能となる。属性魔法が使えるということはそれだけの事なのだ。


「……ほら、そう落ち込むなエフォート。そうだ、帰ったら父さんが身体能力強化魔法を教えてやるからな! 属性魔法が使えなくても無属性の魔法はいくつか使えるんだぞ!」


「本当! 楽しみだな!」


 お父さんが僕を慰めてくれようとしてくれる。同い年の2人が属性魔法を授かって、俺だけ授かれなかったことで落ち込んでいると思われたらしい。


 確かにモニカとオズが属性魔法を授かったことは少し羨ましく思ったけれど、本当に落ち込んではいない。僕はこうして元気に遠くの場所に出かけられることが本当に嬉しかった。


 あの綺麗な街並みは見ているだけでとても心が躍ったし、初めて見る人族以外の種族にはとても驚いた。またあの街にはぜひ行ってみたいな。


「そうだぞ、エフォ坊。別に属性魔法があるからって、それで人生が決まるわけじゃねえぞ。ええ~と、それにあれだ。獅子龍王流の武術は属性魔法を持っていないことが前提の武術だから身体能力強化魔法とはとっても相性がいいんだぞ」


「はい、ゴード師匠!」


 師匠も僕を慰めようとしてくれている。……まあ後半の理由はたぶん取ってつけたような理由なんだろうけど。


「そうだぞ、今のところは俺やモニカよりもエフォートのほうがよっぽど強いもんな!」


「うん、エフォートが一番!」


 僕も前世の記憶がなければ2人に嫉妬してふてくされていたかもしれないけれど、中身はもう中学生だから、そんなことは気にしていない。


 オズとモニカも僕を慰めてくれているのがよく分かる。このくらいの年齢なのに友達の僕に気を使ってくれる僕にはもったいないくらいの友達だ。この世界に生まれ変わって、僕は本当に幸せ者だよ。

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