第5話 魔法と祝福


「おっ、今日もまだ続けているのか」


「あっ、お父さんお帰りなさい」


「今日もゴードさんのところに行ってたらしいわよ。本当によく続くわねえ」


 今日でゴード師匠に弟子入りしてから1週間が過ぎた。その間にゴード師匠は僕たちの身長に合わせた巻藁を作ってくれた。


 教わった壱の型を巻藁に向かって放つと、普段型を宙に向かって繰り返す時とは違って、確かな手ごたえがある。これにはオズとモニカも興奮していたけれど、あまり巻藁を打ちすぎると手の皮が剥けてしまうので、突く回数には制限が付けられた。


 ゴード師匠が言うには、少しずつ手の皮や足の皮が厚くなっていき、突ける回数も少しずつ増えていくらしい。改めて考えてみると僕も最初の頃と比べるとだいぶ動きが良くなってきたと思う。他にもゴードさんを相手にした簡単な組み手なんかも始めた。


 毎日空いている時間にはずっと型を繰り返していたから筋肉痛はずっと収まらないけれど、間に挟む休憩はだいぶ減ってきた気がする。


「毎日よく飽きないなあ。まあ、村の中をあちこち走り回っているよりもよっぽどいいか」


「オズくんとモニカちゃんも腕白ですからね。そういえばあなた、ゴードさんからそろそろエフォートに魔法を教えてもいいんじゃないかって」


「魔法!?」


 お母さんから放たれた言葉に僕は思わず途中だった型を中断してしまった。


 う~ん、僕もまだまだ集中できていない。とはいえ、魔法という言葉に反応してしまうのには当然と言えば当然だ。


 そう、この世界には魔法というものが存在する。しかもなんと驚くべきことに、村にいるその全員が魔法を使うことができるのだ。とはいえ、もちろん村の人全員が前世にあったファンタジーなアニメや漫画みたいな派手な魔法を使うことができない。


 大抵の人は最も一般的な身体能力強化魔法でほんの少し身体能力が向上するくらいだと聞いている。この村で一番の魔法の使い手である村長は水魔法が使えて、毎日水を村の貯水槽に出していた。


 しかし、村にやってくる行商人の話では巨大な火の玉を操る魔法を使える者や、不可視の風の刃を扱える人も存在するらしい。


「そうだな、エフォートも大きくなったし、魔法を使えると農作業にも便利だし、そろそろ教えてもいいな」


 当然僕もそんなファンタジーな魔法に興味を持たないはずもなく、お父さんとお母さんに教えてくれと散々せがんだが、魔法には危険が伴うということで、教えてくれなかった。他の大人に聞いたり、年相応の泣きまくって駄々をこねるという僕の最終奥義も通用しなかった。


 ……中身が中学生なだけに、内心ではものすごく恥ずかしいんだよね、あれ。言葉を覚えるまでの赤ちゃんの時には泣いてお腹が空いたとオシメを変えてと伝えるしかなかったが、それ以降は泣くこともなくなった。


 そのためこの最終奥義はここぞという時に使ってきたのだが、それでも駄目なほど徹底されていた。


 その分僕を心配しているということだと思うから、その時はなんとか納得した。


「分かりました、ゴードさんに伝えておきますね。多分来週あたりに街へ行って鑑定をしてもらうことになるわ」


「やった、初めての街だ~!」


 思わずバンザイをしてしまった。僕はまだこの村を出て遠くまで行ったことがない。最高でも村からちょっと離れた泉くらいだ。もちろんその時はお父さんや他の大人と一緒だった。


「はは、喜ぶのはいいけれど、魔法の才能がなくてもがっかりするんじゃないぞ。属性魔法を持っている人なんて20人に1人くらいだからな」


 そう、この世界では火や水などの魔法に属性を付与できる人は数少ない。この村でも4人くらいしかいないほど珍しいのだ。


「うん、わかってるよ。でも楽しみだなあ~」


「ふふ、でもあんまり希少な才能なんかを授かったら、エフォートと離れ離れになっちゃうから、お母さんは寂しいわ……」


「僕も嫌だな……」


 街の教会で行われる祝福という儀式では属性魔法に適性があるかを確認することができるのだが、2つ以上の属性魔法を持っていたり、希少な魔法属性を持っていた場合には国へと報告される。


 特に優秀な人材は国での育成機関で大切に育てられるのだが、その場合はお父さんとお母さんと離れ離れになってしまう。


 僕はそんなことを願ってはいないから、1つの属性魔法があれば万々歳かな。前世では父さんと母さんにできなかった分まで、この世界のお父さんとお母さんに親孝行したいんだ。


「はっは、父親としては離れ離れになるのは嫌だけれど、エフォートにそんな才能があれば父さんとしても嬉しいから悲しむことはないんだぞ。さて、それじゃあ来週に来る馬車へ乗せてもらうように準備しておかないとな」


 この村には定期的に週に一度だけ馬車が街からやってくる。街での商品を売ってくれたり、この村で狩った魔物の素材なんかを買い取ってくれるのだが、お金を払えば街まで連れていってくれる。さすがに3人分となると結構なお金がかかるから、たぶんお父さんと僕の2人分だろう。


 なんにしても、初めての街と祝福は本当に楽しみだ!

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